arthur rhames

「LIVE FROM SOUNDSCAPE」(DIW RECORDS DIW−401)
ARTHUR RHAMES TRIO

 偏愛している一枚。これはもう「たまたま録音されていた」ニューヨーク音楽シーンの一場面を切り取ったような音源で、本当に貴重である。録音もよくないし、いろいろな意味で荒削りでむき出しの演奏だが、端正さ、商品としての見かけのよさ……などのかわりに、恐ろしいほどの生々しさがある。テナーとピアノとドラムというトリオで、ベースがいないのも、周到に考えられた編成というわけではなく、「たまたま」ではないかと思うが、冒頭、三人での「ジャイアント・ステップス」が(たぶん途中から)いきなりはじまり、しばらくしてからドラムとテナーのデュオになるが、レイムスはいつものとおり、フリーにはならず、ひたすらフレーズをしっかり積み重ねていくのだが、その熱いひたむきなプレイのなかに次第にスピリチュアルというかフリーというか、そういうものが浮かび上がってくるまでに至る。圧倒的としか言いようがない。これはこの時期のレイムスの信念というか確信に基づいたものなのだろうが、この当時はフュージョンブームの真っただ中で、こういう汗みどろの激熱な演奏はかなり貴重だったはずだ。しかし、今の耳で聴いても、この演奏はまったく古びていないし、「なにか」が伝わってくるすばらしい内容だと思う。ただ、聴いてもらえばわかると思うが、レイムスのプレイはピアノやドラムがいようといまいと関係なく、おのれの吹きたいフレーズを吹いているので、もっとせめぎ合いとか破綻とかがあってもいいようには思う。相手がだれであろうとかまわない感じなのである。しかし、そのストイックさはある種の感動を呼ぶ。だから、ピアノとドラムについては、レイムスのソロが終わったあとのほうが奔放にインタープレイを行っていてすばらしい。バラードの「アイ・ウォント・ジーザス……」もすばらしいが、そのあとの「アイ・ガット・リズム」もアップテンポでの超絶技巧がとどまるところをしらないフレージングの奔流となって押し寄せる。めちゃくちゃかっこいいが、なんというか……その背後にある闇のようなものも感じ取れて、単に「かっこええかっこええ」と言ってるだけではおさまらない。そのあたりのことは、リズムとサックスのフレーズだけで構成されているこの演奏のどこに「闇」とかなんだとかいったものを感じるのか、それはあなたの勝手な思い込みです、と言われたらそれまでだが、私にはこの演奏が、たくさんのパーカッションやドローン的なベースなどを並べて、民族音楽的なテーマを乗せる……みたいな演奏より、よほどスピリチュアルに思える。「ベッシーズ・ブルース」はコルトレーンの曲だが、こういう風に演奏されると、この曲がいわゆる「ブルース」としても成立することがよくわかる。アドリブに入ってもレイムスは、初心のサックス吹きがフレーズを愛おしげに奏でていくような風情で演奏していく。そこからテンポが突然アップして激烈なブロウを繰り広げるのだが、この展開はジャズとかブルースの歴史(?)を再現しているようにも思える。あっけにとられた感じで口をぽかんとあけて聴くのが正しい鑑賞か(いや、そんなこともないでしょうが……)。ラストの「モーメント・ノーティス」もバラード風にはじまり、ミディアムテンポのスウィングになり、それがしばらく続いたあと、突然テンポが上がってめちゃくちゃアップテンポになり、また、ミディアムテンポになり……ということを繰り返す。この趣向(?)は最後までしっかり守られるのだが、このねっとりしたしつこさもまたレイムスの味わいのひとつだろう(邦文ライナーにあるように「スローから一変して自由自在にテンポを変化させ」ているわけではなく、一度決めたルールをかたくなに守り通しているのだ)。
 アーサー・レイムスについては、コルトレーンのモードに移行する直前の「ジャイアント・ステップス」や「モーメント・ノーティス」といった当時としては複雑なチェンジ自体に主張を込めているような演奏に大きく影響を受けている。本作においても、自作のコンポジションがひとつもない、ということを考えても、その場のプレイに命をかけるタイプの即興演奏家(肉体派というとそれはそれでちがうかもしれないが……)だったことははっきりしている。あくまでパーカーやコルトレーンのコード分解的なやり方にのっとっているのだが、そこに込められた強靭さ(音色もフレーズも精神的なものも……)は半端ではない。けっしてフリーにはいかないし、フラジオとかマルチフォニックス的な手法も使わないのに、なぜかこの正攻法のパワフルな演奏がそういうものと同等の破壊力を持ったもののように響くのだ。スピリチュアルな雰囲気すら感じさせる。ギャーッと叫びたいところだが、俺はあくまでフレーズでこの気持ちを語るぜ的な頑固さというか確固たる意志を感じる。早逝が惜しまれるすばらしいテナー奏者でありました。