「MARC RIBOT TRIO LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD」(PI RECORDS PI53)
MARC RIBOT
このメンバーに亡くなったロイ・キャンベルを入れたカルテットでのアイラー集「SPIRITUAL UNITY」(まんまやん)を先にリリースしているマーク・リボーだが、今回はギタートリオで、しかもヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ。ヴァンガードといえば、観光客も来るような店だが、そこでこのメンバーでこの選曲。どうなるのかと思って思わず購入。いやー、めちゃかっこいい。ヘンリー・グライムズがヴィレッジ・ヴァンガードで一週間(たぶん)弾いているというこの事実だけでも感涙ものだが(カムバックのいきさつを考えるとね)、このシンプルなトリオが、ものすごく多くの切り口があって、ちゃんと硬派の(死語?)ジャズファンから観光客までを十分納得させたであろう熱い音がここに入ってて、感動したのです。コルトレーン2曲、アイラー2曲、スタンダード2曲という選曲だが、決してあの時代の音を出そうとしているわけではなく、彼らが表現しようとしているのは「今」の音だ。一曲目の冒頭、ヘンリー・グライムズのアルコベースソロがすでに熱い雰囲気をセッティングし、そのドロドロしたマグマのような空気のなかからギターのシングルトーンが現れると、いきなり「現代のジャズ」という鋭さというかカッコよさのある音楽になる。しかし、このシングルトーンは重い。シンプルで、軽いようだが、じつはコルトレーンのテナーのようにずっしりとしていて、そのくせ軽やかにリズムのうえを飛翔する。ときに琵琶のように聞こえることもある。こういう自由でグルーヴし、しかもどんどん高揚していく音楽を、なんとかジャズとかいって名付ける必要はないと思うが、このトリオの音はめちゃめちゃ好きだ。集中力はんぱない。ラストでテーマに戻ると、客がわああっと騒ぐのが聞こえて、なんだかうれしくなる。この一曲目だけでも十分満足して、はあはあ言ってるわけだが、2曲目はアイラーの「ウィザード」をカントリーアンドウエスタンみたいな曲調に編曲してしまっての演奏。だんだん狂っていくが、その狂騒のなか、ふと気づいてみると、この祝祭的な音楽はたしかにアイラーの一面でもあるのだ。3曲目はしっとりしたスタンダードで「オール・マン・リヴァー」。ベイシーだと異常なアップテンポでやるこの曲を、リボーはバラード並のスローでやる(映画の原曲はミディアムテンポぐらい?)。でも、このテンポがめちゃくちゃ哀愁で、この曲の本来のイメージをぐーっと醸し出しているのだ。ギターはひたすらうまい。ベースソロもめちゃめちゃうまい。ドラムとベースがさまざまな局面を演出して、ゆったりとした大河の流れが速まったり、澱んだりする。いやもう完璧なトリオ。4曲目はアイラーの「ベルズ」で、20分近い演奏。これはまさに「ギターで表現されたアイラー」で、怖いぐらいにアイラーの世界で、かつ、現代的な疾走感もあり、これが2013年のヴィレッジヴァンガードで演奏されたと思うと泣けてくる。もちろんヘンリー・グライムズとチャド・テイラーあってのこの表現だ。5曲目はスタンダードで歌もの。ここは(いわゆる)ジャズギターに徹した演奏で、これも唸るぐらいうまい。ラストの6曲目はコルトレーンの「サン・シップ」で、コルトレーンがテナーでやるとかなり過激な感じのテーマなのだが、ギターでやるとなんだかあたりまえのロック風リフに聞こえるなあ。かっこいいけど。チャド・テイラーのドラムがいい感じでいなたい。この曲が本作の白眉といえるような盛り上がりまくる演奏で、思わず拳を握りしめるような興奮の坩堝。これはギターでなくてはできん演奏だ。いやー、かっこいいっす。これは傑作じゃないでしょうか。なお、本作のプロデューサーはチャド・テイラー。
「SPIRITUAL UNITY」(PI RECORDS PI15)
MARC RIBOT
ロイ・キャンベル、マーク・リボー、ヘンリー・グライムズ、チャト・テイラーによるカルテットでのアイラー曲集。1曲目だけがアイラーの曲ではなく、マーク・リボーのオリジナルのようだが、ちゃんと溶け込んでいて違和感はまるでない。テーマのあとは一種の集団即興で、リボーのノイジーなギターがサックスのようにシャウトし、キャンベルのトランペットが朗々と吹き上げるのが溶け合って、呪術的なサウンドになる。リボーというひとはほんま心得てるなあ。2曲目は「スピリッツ」。あのテーマがぶっ速いリズムのうえに奏でられ、キャンベルの高音部トリルを多用した凄まじいソロになる。そして、リボーのグチャグチャなノイズっぽいギターソロ。このあたりになるとアイラーだかなんだかわからん混沌とした状態になるが、テンションはどんどん上がっていく。グライムズのアルコベースソロでそれは頂点に達したあと、ぐちゃぐちゃになり、そのなかからテーマがすっきりと現れ(このあたりアイラーっぽい)幕。3曲目「トゥルース・イズ・マーチン・イン」。ゆったりしたテンポでフォーキーなテーマ(「トゥルース・イズ……」のテーマを崩したものとも考えられるが、イントロ的なものかも)が奏でられたあと、何度もそれをなぞっているうちにどんどんテンポが崩壊していき、フリーなコレクティヴインプロヴィゼイションに突入。それでも、どこかにテーマのメロディは感じられる。ニューオリンズを思わせる、おおらかでプリミティヴで粗いリズム。ここで、「トゥルース・イズ……」のテーマが現れ、激情的なリズムに乗ったコレクティヴインプロヴィゼイションに(というか、ギターとトランペットが同時にソロをしている状態に近い?)。そしてふたたび「トゥルース……」のテーマになったあと、ベースとドラムのデュオ。そしてドラムソロ。このあたりはほぼフリーな状態。そして、ゆっくりとしたテンポで「トゥルース・イズ……」のテーマが奏でられてエンディング。4曲目「セインツ」は、ギターの微細なトレモロではじまり、そこにトランペットが加わり、次第に混沌としたサウンドになっていく。そして、その緊張を維持したまま、ずっと集団即興が展開していく。最後の「ベルズ」はこれだけがライヴ録音でいちばんの長尺。ギターが讃美歌というかフォークっぽいメロディを訥々と奏でる、意表をついたイントロから、アルコベースとトランペットが加わり、テーマ性のあるメロディが奏でられるが、こんな風に演ると、アイラーの曲におけるゴスペル的なものがよりはっきりと浮かび上がりますなー。そしてぐちゃぐちゃな感じでフリーなリズムでの集団即興が続いたあと、急に6分過ぎぐらいからインテンポでテーマになる。激しいドラムとギターのバトルのようになり、そこから「ベルズ」のテーマ(例の下降するやつです)。トランペットが加わり、そこからは集団即興一直線。聞き終えてみて、なるほど、この音楽はロイ・キャンベルのトランペットが重要な役割を果たしているなあ、と改めて思った。キャンベルが亡くなり、このカルテットがトリオとなって、ヴィレッジヴァンガードでのライヴを行ったときは、やはりまったくちがったサウンドになっていた(上記参照)。これはたぶん、ロイ・キャンベルの代わりがいなかったのだろうなあ。ワン・アンド・オンリーの個性のあるひとだった。合掌。