alex riel

「UNRIEL」(STUNT RECORDS STUCDCD 19707)
ALEX RIEL

 デンマークの有名なドラマーであるアレックス・リールがニューヨークに渡って吹き込んだアルバム。リールというひとはデンマークに来るアメリカのミュージシャンのほとんどと共演しているような凄腕であるが、ベン・ウエブスターからケニー・ドーハム、アーチー・シェップ、ローランド・カーク、デクスター・ゴードン、ジャッキー・マクリーン、ケン・マッキンタイア、ニールス・ランドーキー、アル・グレイ……とある意味節操がない。それほどの腕達者でなんでもできるひとなのだろうが、じゃあ、あなたがやりたい音楽はなんなのだ、ということを問われて、その結論が本作ではないかと思う。それにしても凄いメンバーだ。プロデュースがニールス・ラン・ドーキーなのでその人脈なのかとも思うが、ベースがエディ・ゴメス、ピアノが(プロデューサーでもある)ニールス・ラン・ドーキー。テナーがジェリー・バーガンジとマイケル・ブレッカー、そしてとどめにギターがマイク・スターン……。ドリームバンドじゃないですか。アレックス・リール以外は本当にとんでもないミュージシャンを揃えているが、これでリーダーがいまひとつだったらがっかりの作品になるところだが、アレックス・リールはさすがにビシッと筋を通すドラミングでリーダーぶりを発揮している。プロデューサーのラン・ドーキーがいいのはわかるが、エディ・ゴメスもすばらしいサポートで貢献している(あいかわらずしゃべりながら弾いてる)。そして、特筆すべきはマイク・スターンのこういうアコースティック4ビートでのバリバリの演奏で、ソロもバッキングも、なんというか、スカッと解放されている気がする。ジェリー・バーガンジが9作中5作、曲を提供している点も見逃せない。マイケル・ブレッカー参加の2曲が目玉のように思うかもしれないが、本作はその2曲を除いてもアレックス・リールというひとの音楽観をバリバリに表していて、名盤だと思う。1曲目は先発ソロがバーガンジでつぎがブレッカーでだと思うがようわからん(正直、よく似ているのです)。ふたりをあおるリールとゴメスの演奏もすごいし、すばらしい演奏なのだ(ピアノはバッキングしない)。ジャズ批評のマイケル・ブレッカー特集での本作の評で、マイケルの貫禄勝ちみたいなことが書いてあったが、いやいやいや、バーガンジも相当いいですよ。あの文章は「ブレッカー特集」ということもあってか贔屓の引き倒しみたいなところがあって納得はできません(もちろんブレッカーの本作における演奏は最高)。まあ、互角といったところでしょうか。つづくエディ・ゴメスの短いソロもすごい。くねくねしたテーマの2曲目冒頭の短いドラムのイントロと、それに続くマイク・スターンの美味しいギターソロええ感じ。ベースとドラムのバッキングも見逃せません。テナーソロのあとえげつないベースソロがフィーチュアされる。3曲目はバーガンジのマイナーブルースで、先発がブレッカーでつぎがバーガンジだと思う。まあ、とにかくよう似てますわ。おたがいにフレーズを食ったりするのでよけいにわかりにくい。でも、かっこいい。4曲目のバラードも辛口でいいですね。5曲目はマイク・スターン作曲のヘンテコなブルースだが、ニールス・ラン・ドーキーのめちゃかっこいいソロが先発。つづくスターンのギターソロも超絶かっこいい。サックスは不参加だが本作の白眉と言いたくなるような演奏。エディ・ゴメスとアレックス・リールのなかなか面白い4バーがあってテーマ。6曲目はコルトレーンの「モーメンツ・ノーティス」だが、テーマの部分、テナーがハモリのパートを吹いていてギター(メロ)より大きく録音されてるので変なアレンジに聴こえるかもだが、もちろんわざとそうしているのだ。ものすごく直球勝負な演奏である。ギターソロは本当に直球勝負ですがすがしい。テナーソロも同様でバーガンジの実直で豪快なスタイルが反映されている。何度も書いているが、グロスマン的なニュアンスを随所に感じるけど、じつはグロスマンより歳が上なんだよなー。アレックス・リールによるエグいバッキングも聴きものである。ドラムソロもフィーチュアされます。エンディングはスターンとバーガンジによるチェイスだが、ファイドアウトされる。もったいない! 7曲目はバーガンジの曲でスターンとのユニゾンでテーマが提示される。ブレッカー参加の2曲を除くと、本作中の白眉といっていいようなガツン! とした演奏で、バーガンジも吹きまくっているし、エディ・ゴメスのベースソロもマイク・スターンのギターソロも炸裂している。最終的にはギターとテナーが交歓する展開になるのだが、ここもめちゃくちゃいいなあ。この部分も本作の白眉……ってどんだけ白眉あるねん! それをしっかりバックアップしているリーダーのリールもすばらしい。8曲目は4曲目に続くバラードで、バーガンジの曲。コルトレーンの作曲だといっても通るぐらいのシリアスな曲調。いやー、もうすばらしいです。こういうのを聴くと、逆にコルトレーンのバラードの秘密(?)もわかったりして。ゴメスのソロも染みる。ラストのタイトル曲でもある「アンリール」はプロデューサーでもあるニールス・ラン・ドーキーの曲。バーガンジのブロウが耳を貫く。エディ・ゴメスのベースソロがとにかく心を揺さぶる。「ガツーン!」という感じの名盤だと思うが、ブレッカーの(2曲だけの)参加によって多くのリスナーに本作の窓口が開かれたのはとてもいいことだったと思う。でも、やっぱり何度聴き直しても「ブレッカーの貫禄勝ち」はないと思うぞ。傑作。

「RIELATIN’」(SUNDANCE STUCD 19918)
ALEX RIEL

 上記「「UNRIEL」の続編的性格のアルバム。前作の2年後にニューヨークで吹き込まれた作品で、メンバーもよく似ている。前作でピアノを弾き、プロデュースも務めていたニールス・ラン・ドーキーの兄弟、クリス・ミン・ドーキーがプロデュースとベースを務めている(ピアノはケニー・ワーナー)。ブレッカーは2曲参加だが、1曲目は顔見世的な演奏でブレッカーもバーガンジも軽いジャブ程度。2曲目の「ベッシーズ・ブルース」はブレッカーだけをフィーチュアした演奏だが、「おまえはなにをやっとるのだ!」と言いたくなるような壮絶な演奏で、おそらく採譜しただけではブルースのソロだかなんだかわからないようなくねくねしたラインをすごいリズムで吹き飛ばす。濁ったフラジオもかっこいい。かなり長いソロでブレッカーファンも堪能するだろう。つづくスターンのソロも美味しいフレーズ目白押しで、前半のきっちりしたフレージングを聴かせるソロから後半は突然、人が変わったようなど迫力の弾きまくりになり聞きごたえ十分。ケニー・ワーナーも変態的な導入からめちゃくちゃ快調なソロになり、いやー、さすがに全員凄いなあ。本作の白眉といっていい演奏。残念ながらブレッカーの参加曲はこの2曲でおしまいだが、残りの曲もバーガンジがバリバリがんばってくれているのでノープロブレム(もう1曲ぐらい入っててくれたらもっとよかったかも、だが)。3曲目はそのバーガンジの曲でバラードだが、いやー、いい曲を書きますねー! 上記「アンリール」に提供していたバラードもすごく印象的な曲だったが、なんというかコルトレーンが書きそうな、冷徹な曲調なのである。テナーソロもすばらしい。4曲目はおなじみの「デクスタリティ」でリーダーの掛け声とブラッシュではじまる。バップ的なフレーズとモーダルなフレーズを自在に行き来し、突然16分音符で疾走をはじめ、低音から高音までを駆使したバーガンジのソロはいつものことながら感心しまくり。ピアノソロはめちゃかっこいい。ベースとドラムのバースがあってテーマ。5曲目はリールの曲(?)でドラムソロのみの「イン・マイ・アウン・スイーツ・ウェイ」(「ユア」でないところが味噌)。ロールからはじまって、歌心とテクニックを見せつける魅力的な演奏。ちょっとした演出があって洒落ている。6曲目はスタンダードでピアノをフィーチュアした渋いけど引き締まった超かっこいい演奏。ブレッカーをフィーチュアしたキレッキレの曲から、バーガンジフィーチュアのバラード、リールのドラムソロだけの曲、それにこういうピアノトリオまで、本当にバラエティ豊かなのにちゃんとアルバムとしての筋が通っており、本当に「隠れ名盤」だと思う(「アンリール」のほうが有名だろうという意味です)。7曲目は「ザ・バット」というバーガンジの曲でハードバップ的なファンキーな曲で、これも本作にバラエティという意味で彩りを添えている。マイク・スターンもそういうイメージのソロをしている。バーガンジも非常に自然体のいつもの感じで吹いていて心地よい。8曲目もバーガンジの曲で、ちょっと変態的なラインのバップ風の曲。テーマだけ聴いてもかっこいい。ピアノソロにはじまり、ギターソロもテナーソロも聞きしごたえ十分。最後は3人のコレクティヴインプロヴィゼイションのようになるが、ここもいいですね。ギターとテナーのユニゾンのリフになり、テーマに戻る。ラストの9曲目はアレックス・リールとミン・ドーキー共作のブルースで、バーガンジがソロを吹き始めると、ブルースだかなんだかどうでもいい感じでひたすらブロウにブロウを重ねる感じ。ギターもピアノもいないいわゆるピアノレストリオで、バーガンジをフィーチュアしまくった演奏で、ものすごくかっこいいです。もっともっと吹いてほしい……というところでソロが終わるのが惜しい。ベースソロからテーマになって終演。いやー、名盤だと思います。66分のけっこうな長丁場をまったく飽きさせずに聴かせるのは、エイターテインメントとしてもよく考えられているからだろう。「アンリール」と同様の傑作だと思います。なお、バーガンジはアローン・ドレイクのマウスピースを使っているという話だが、本作のジャケット写真ではよくわかりませんでした。