「CHICAGO BOUND」(CHESS PLP−813)
JIMMY ROGERS WITH LITTLE WALTER,MUDDY WATERS
いやー、これは大名盤ですね。どんなにほめてもほめたりないぐらいの傑作。というか、私にとっては大事な大事なアルバムです。P−VINEからチェスが出て、これはすごいんですよ、みたいな紹介記事を読み、いろいろ買ってみたものの、いまいちシカゴブルースというやつがピンとこなかった。マディやリトル・ウォルターやロバート・ジュニア・ロックウッドやサニー・ボーイや……そういったひとたちのアルバムですね。あとは「ドロップ・ダウン・ママ」とか……。ハウリン・ウルフは最初からよくわかった。すごくアクが強いので、おおっ、これはすごい、と思えたのだが、ほかのやつがわからない。これは、アクの強いフリージャズはすぐにわかったのに、チャーリー・パーカーやマイルスやコルトレーンの音楽がはじめは全然わからなかったようなもんだろう、と思い、とにかくひたすら聴いて聴いて聴きまくることにした。そんなある日、このジミー・ロジャースのアルバムが、とつぜんガーンとわかったのです。とくにB面。どの曲もすばらしいということが理解できた。いちばん惚れたのは「ザッツ・オーライ」だが、「スロッピー・ドランク」も「シカゴ・バウンド」も「ウォーキン・バイ・マイセルフ」(この曲は珍しくブルースではない)も──全部いい。こんな風に「天から降ってきた」みたいに「わかる」瞬間ってあるもんですね。チャーリー・パーカーのときもまさにそうだったなあ。短編小説の書き方がわかったときもそうだった。歌い方も普通だし、シカゴブルースではいちばん地味だといわれるジミー・ロジャースだが、それがわかったことによって、ほかのものの良さも全部いっぺんにわかってしまった。マディ、すばらしいっ、リトル・ウォルター、すばらしいっ、サニーボーイ、すばらしいっ、ロバート・ナイトホーク、すばらしいっ、ロックウッド、すばらしいっ……という具合に。だから、このアルバムこそ、私にシカゴブルースを聴く喜びと感動を与えてくれ最初のアルバムなのです。一生聴き続けたいが、本作はそれに答えてくれると思う。とにかく噛めば噛むほどうまくなってくる、ほんとにスルメみたいなアルバムなのだから。正直言って、シカゴブルースはこの一枚だけでもういいかな、とさえ思ってしまう。
「THAT’S ALL RIGHT」(BLACK & BLUE/ULTRA−VYBE CDSOL−46162)
JIMMY ROGERS
私はブルースのことはあんまり知らなくて、ジミー・ロジャーズもこれまで何十年も「シカゴ・バウンド」しか聴いたことがなかった(「シカゴ・バウンド」は大学生のときに買った)。正直、「シカゴ・バウンド」は全ブルースアルバムのなかでも5本の指に入るぐらい好きなのだが、なぜかジミー・ロジャーズの他のアルバムを買おう、とか、聴こう、とかしなかったのだ。ジャズとかインプロヴィゼイションとかの場合は、アルバム気に入ると、このひとの他のアルバムも聴いてみたい! となるのだが、ブルースの場合はなぜか、「このアルバム、めちゃくちゃ気に入ったから、このひとのほかのやつ聴いてる時間があったらこれをもっかい聴こう」となって、おんなじやつばっかりずーっと延々聴くことになる。ジミー・ロジャーズの場合は、ちょうどP−VINEがチェスの権利を取得したときで、「シカゴ・バウンド」を内容をまったく知らずに買い、聴いて狂喜したのだが、そのすぐあとにP−VINEがジミー・ロジャーズのチェス音源の残りをたしか二枚組に編集して出したんだと思う(「ザ・クラシック・シカゴ・ブルース」)。それがちょっと高かったので、金ができたら買おうと思っているうちに、あっというまにチェスの権利はP−VINEからよそに移り、その二枚組も入手できなくなった……という経緯だったような気がするが、はっきりとは覚えていない。とにかくそういうことでジミー・ロジャーズの「ほかの」演奏に接する機会がないままに今に至ったのだが、今回、ブラック・アンド・ブルーの国内発売のラインナップにジミー・ロジャーズがヨーロッパに行ったときの録音が入ったのを機会に、思い切って聴いてみた。1曲目は、おおっ、おなじみの「スロッピー・ドランク」ではないか。歌詞を全部歌える曲が1曲目ということで私のテンションはめちゃくちゃ上がった。しかも、バックはエイシズの3人とピアノのウィリー・メイボンでこれは間違いない。おおーっ、3曲目のシャッフルの曲かっけーっ。6曲目って結局「ザッツ・オーライト」とまったくおんなじ曲やなあ。9曲目のシャッフルの曲もええなあ。やっぱりフレッド・ビロウがおるとすごいなあ。10曲目も「ザッツ・オーライト」的だがかっこいいわー。「スロッピー・ドランク」の別テイクもノリノリやなあ。最後の5曲は同じメンバーでのライヴか。おおっ、「ウォーキン・バイ・マイセルフ」と「スロッピー・ドランク」と「ルーデラ」と「ザッツ・オーライト」がライヴバージョンで聴けるのか。と、かなりはしゃいでしまった。これはええもん聴かせてもらった。全体に落ち着いていて勢いはないが、そのかわりに円熟があり、リズムは手堅いしノリノリだし言うことなく、ロジャーズはライヴの方は声こそ枯れている部分があるが(もともとそんなに声の出るひとではないし)音程も節回しもばっちりではないか。しかも、一番ラストに入ってる「ザッツ・オーライト」の歌詞を愛おしむようにして歌い上げる姿は感動である。私はこれからも「シカゴ・バウンド」はしょっちゅう聴き続けると思うが、本作も聴くと思う。なにしろこれは本物中の本物のシカゴブルースなのだから。