roller coaster

「KEEP IT UP」(RC−1502)
ROLLER COASTER FEATURING HITOSHI KOIDE

 ローラー・コースターの二枚目。本作はギター、ボーカルの小出斉をフィーチュアしている。シカゴブルースに範を取った演奏としては世界的にも最高のレベルにあると思われる。もちろん単なる再現ではなく、このメンバーそれぞれの個性が最大限に発揮され、融合してひとつの表現となっている点は美味しくてしかたがない。聴けば聴くほど味わいが増すスルメのようなアルバム。一曲目、ボーカルのあと登場するのは吾妻光良のギターで、小技をきかせつつも破壊力抜群でぐいぐいねじこんでくる個性的なソロはワンアンドオンリー。つづく妹尾のハープも言うことなしの重量感。ハープのように小さなおもちゃのような楽器にこれほどのずっしりと重い表現が可能というのはいつもながら驚く。そのあと小出のソロもかっこよく、テンションの高いもので、この一曲目を聴いただけで本作のクオリティはわかるというものだ。2曲目のスローブルースは妹尾のハープが圧倒的で、そのあとの小出のソロ(とそれにからむハープ)も本当に深くて暗くてかっこいい。3曲目はシャッフルで、こういう曲ではリーダーのドラムがさえわたる。ギターソロも超かっこよく、吾妻さんはピアノを弾いている。4曲目は妹尾のハープがめちゃくちゃ凄いし、そのあとの小出のギターも爆発しまくっており、聴きごたえ十分。B面に移りまして、1曲目はシャッフルの曲で、小出のソロがたっぷりフィーチュアされるが、ほかのメンバーは単にバッキングしているのかというとじつは全員の集団即興状態でもある、というシカゴブルースの特徴が発揮されている。ブルースを聴いていて、ジャズとはちがう醍醐味を感じるのはこういう部分であり、その面白さに気づくとずぶずぶはまってしまう。2曲目はバラードで、こういう演奏を聴くと、小出斉のボーカリストとしての良さを再確認できる。妹尾のハープが圧巻で、まるでボーカリストのように歌いまくっている。吾妻さんはピアノ。3曲目もシャッフル。妹尾のハープがすごい迫力。つづく小出のソロも安定感抜群なのだが、じつは攻めまくっている。ボーカルを挟んで吾妻さんのソロになるが、このふたりは本当に対比の妙というか、それぞれの個性がはっきり感じられて、ギタリストがふたりいる意味がわかる。ラストの4曲目は軽快なシャッフル。ボーカルと掛け合いをするハープのフレーズはビッグバンド的でもある。妹尾のソロは(どの曲でもそうなのだが)マジで圧巻。小出のギターもそれと肩を並べる力演。曲としてのアレンジもばっちりで、全員が一丸となってどんどん熱くなっていくのがわかる。シカゴブルースならチェスの傑作群を聴けばよい、というのはわかるが、ローラーコースターはビンテージのシカゴブルースと比べても遜色ないバンドなので、いつ聴いても興奮してしまう。正直、パッと聴いただけではすごく地味に聴こえるのだが、聴き込むとまるで逆の印象になるのがすごい。傑作!

「THAT’S NOTHING NEW」(VIVID SOUND CORPORATION CHOP D−015)
ROLLER COASTER

 日本のブルースを語るうえでまず一番に語るべき傑作ではないかと思う。私は日本のブルースシーンのことはよく知らないが、小出斉さんが亡くなられたことを知り、かなりのショックを受けている。ローラー・コースタ―を含むいろいろなバンドのライヴを見たが、いちばん印象に残っているのはビッグ・ジェイ・マクニーリーのバックだろうか。このアルバムはレコードで買って(なんで買ったのかはよく覚えていない)、CDで買い直したのだ。LPで買ったころはめちゃくちゃよく聴いていて、カセットテープにダビングしていろんなひとに渡して布教した。今回聴き直してみて、なるほどなあ、ブルースを聞き始めだった私にとって、このアルバムはに入門書のような役割を果たしたのだなあと思った。シカゴブルースというのは、ジャズのようにひとりがソロをかますのではなく、歌とギター、サイドギター、ハープなどが絡み合う、その蜘蛛の糸のような絡み合いこそがかっこいいのである。それはジャズにおける「インタープレイ」とかではなく、ただただ楽しい絡み合いなのだ。このあたりは、なかなかビンテージのシカゴブルースを聞いてもわからんのであって、そういうことを解きほぐしてくれるのがロ―ラーコースターなのだ。アメリカとはちがう日本のブルースを作ろう、俺たちのブルースを作ろう……と言っていた先達と違って、このひとたちはひたすらシカゴブルースが好きでそれをストレートに伝えようとしてくれた。それが、我々の心に届くのである。選曲も1曲目の「リトル・ガール」というのはよくわからないがサニー・ボーイ一世の曲だそうだが有名な曲「リトル・ガール」とはちがって(聴き取った歌詞から考えるに)「ドリンク・オン・リトル・ガール」という曲らしい。しかし、アレンジは全然変わっていてマイナーブルースみたいなかっちょいい感じ。ジミー・ロジャーズの「ザッツ・オーライト」や「シカゴ・バウンド」、ロバート・ジョンソンの「ストップ・ブレイキン・ダウン」、小出氏が師と仰ぐロバート・ナイトホークの「ジャクソン・タウン・ギャル」、吾妻氏が師と仰ぐゲイトマウスの「ブルース・エイント・ナッシング」……などなど正直名曲オンパレードな感じなのだが、それを続けざまに聞いてもヒットメドレーという気はせず、力強く、渋く、ぐりぐりと聴き手を深い沼に沈めていく。小出、吾妻の2ギターがブルースの王道的ソロでどの曲も迫ってきて、妹尾のハープがそこにからみつき、ときにフィドルのように歌い、ときにリズム楽器のように雑音で吠え、それをリーダー山崎氏のシャッフルドラムがあおりまくる。ベースのノリもすばらしい。まさに「一体」なのだ。どの曲もよいが8曲目の「アイス・クリーム・マン」ですべてが頂点に達したような気がする。要するにどれもブルースなのだが、このひとたちはこのノリを手に入れるために一生をかけてきたのだろう。私はこのそっけないまでにシンプルなジャケットのアルバムを学生のときに買ったことで、逆に本家本元のシカゴブルースの構造がよくわかったような気がする。録音も生々しくて良い。傑作!

「SOMETHING FOR LITTLE WALTER FEATURING WEEPING HARP SENOO」(TOKUMA JAPAN/VIVID SOUND CORPORATION DBCD−013)
ROLLER COASTER

 ローラーコースターの核メンバーであり、日本の、というか世界的にブルースハープ界の重鎮だったウィーピング・ハープ妹尾をフィーチュアしたアルバム。ブルースに疎い私にとっては、1枚目の」ザック・ナッシング・ニュー」がシカゴ・ブルースのヒットメドレー(?)だったのに比べて本作はなじみのない曲が多く(ブルースファン、リトル・ウォルターファンにとってはたぶん名曲ばかりなのだろうが)、「ジューク」とか「マイ・ベイブ」「ブルー・ライト」などなども演奏していないので、あれ? と思わぬでもなかったが、要はすべてブルースなのでそんなことはどうでもいいのだ。1曲目を聞いてしまうと、知ってる曲だからどうとかという気持ちはぶっ飛んでしまって、このシャッフルのものすごさ、ハープの圧倒的なブロウががっちり噛み合って、とんでもない世界を繰り広げている。ハープがリズムを作り出して逆にドラムをあおっている。もちろん2ギターとピアノも。しかも、ボーカルもすばらしい。ハープとボーカルを両立させるため、おそらくオーバーダビングがなされていると思われるが、自然なのでまるで気にならない。というか、そうしてよかったと思う。自然といえば、このバンドの演奏はときどき異様に高揚するが、基本的には渋みがあってじっくり聞けるいぶし銀のような音楽だ。だが、それを「渋くやろう」とか思ってやっていないので、まさに自然なのである。リトル・ウォルターに捧げたアルバムだということで、おそらく(ラストの「ア・トリビュート・トゥ・リトル・ウォルター・ヤコブズ」という曲を除くと)全部ウォルターの曲なのだろうが、 6曲目に入ってるバリサクみたいな音はなんなのだろう。妹尾氏が亡くなったのは本当に残念だが、このアルバムはこれからも大勢に聞かれ、愛され続けることだろう。

「BOOGIE DISCOUNTER」(VIVID SOUND CORPORATION DBCD−006)
ROLLER COASTER

 一枚目が全員の顔見世、二枚目が小出氏をフィーチュアしたアルバムだとすると本作は吾妻氏をフィーチュアしたアルバム。とはいってもいつものローラー・コースタ―のサウンドはそのままであるが、やや吾妻氏的にジャンプというかジャイヴというか、そっちよりの雰囲気がなくもない。でも、吾妻氏のリーダー作の雰囲気とはちがってしっかりしたシカゴブルースである。一枚目があまりにシカゴブルースの名曲オンパレードだったからかもしれないが、二作目以降は渋い選曲(私がブルースに疎いからかもしれないが)が続く。でも、要するにシカゴブルースはシカゴブルースなのであって、なんにも考えずにこのリズム、この絡み合いに身体を任せておけばいいのだ。しかし俯瞰してみると、純粋なブルースは少なく、4曲目はリフの繰り返しが多い、こじゃれた曲、5曲目はハードなブギーだがサビつきのジャンプ系、6曲目もバラード(スローブルースではない)でハープのからみつきが気持ちいい。10曲目もスウィングする小唄系。びしびしシャッフルするリズムやバキバキいうソロは変わらない。11曲目もバラードでタイトルも露骨に「マザーズ・ラヴ」。このあたりを聴くと、ブルースアルバムとして、ただただブルースを並べただけのものではなく、エンタテインメントとしてバランスがとれたものだという気がする。渋い名盤だと思うが、ジャケットだけ見るとフォーク弾き語りのようにも見えますね。傑作!

「KEEP ON GOING」(BLUES INTERACTIONS PCD−5703)
ROLLER COASTER

 いきなり一曲目から「ハープ」というこの小さな楽器のパワーを見せつけるかのようなブロウを妹尾が叩きつける。このバンドの4枚目……ということでいいのかな。吾妻光良をフィーチュアした第3集とはちがって、ブルース形式(歌ものとかサビ付きとかのない12小節のシカゴブルース)がほとんどなのだが、そういう枠組みのなかで一枚のアルバムを現代において作ろうというのは(ブルースにこだわったバンドが作るのではなく、こういった熟練のグループが作るというのは)なかなかむずかしいのではないかと思ったが、なんのことはない、めちゃくちゃたのしい作品に仕上がりました。選曲も、ジュニア・ウエルズからマディ、オーティス・ラッシュ、ジョン・リトルジョン、ジミー・リード、サニー・ボーイ……とバラエティ豊かで、ブルース知らずの私でも知ってる曲ばかりである。よくいえばバラエティ豊か、悪く言えばごった煮的ヒットメドレーになってるのではと思ったら、まったくそんなことはなく、このバンドならではの統一感に貫かれたシカゴブルースを俯瞰したような良さがある。
 結局、ピアニストが、俺はオクターブ以上届くぜ、いや、俺は12度は届く……みたいなことを自慢しあっても意味がないし、ブルースというのは(ある意味)子どものおもちゃ的なハーモニカや手作りのギターなどを使って、どこまでできるか、というのが基本だと思う。そののち、ギター、ピアノ、ベース、ドラム、ボーカル、パーカッション、ホーンセクション……みたいな編成があたりまえのようになっても、やはりブルースは個人個人の技なのだ。もちろん手作りの音楽すべてがそうなのだが。
 一曲目のスローブルースは妹尾さんのハープがフィーチュアされた、めちゃくちゃコテコテの曲で、たとえばメジャーレーベルのアルバムだったらこれを一曲目にはしないだろう。テンポとしてこれ以上落とせないというぐらいスローなテンポで演奏されるが、ジャズならバラード扱いにされるようなテンポをぎりぎりロッキンブルースのノリを保っているあたりのこの美味しさ! 小出ボーカルのファルセットもいいが、ボーカルのあとに出てくるハープはまさにボーカリストが歌っているようだ。鋭さもありふくよかさもあり、ボーカルとのコラボも完璧である。続くギャラギャラギャラ……という白熱のギターソロ(吾妻さんか?)も、これだけコテコテのスローの曲なのにダレることがないのは驚異的である。こういうのがブルースの魔術ですね。11分にわたるスローブルースで幕あけなのだが、これが「ぴったり」に思えるのはこのバンドの実力なのである。二曲目は一転して吾妻さんがフィーチュアされたノリノリのブギーで、ギターソロもえげつない。ゴリゴリゴリ……ガリガリガリ……という凄まじいソロで、ボーカルもノリノリだ。ジャンプ系の曲にありがちなサビ付きだが、こういうシャッフルでの山崎ドラムの爆発なすごいと思う。歌のあとに出てくる野太いギターとハープがからみあいながらぐいぐいと驀進していくあたりも、かっこいいとしかいいようがない。3曲目はおなじみ(?)のオーティス・ラッシュのスローで、さりげない繊細さとファンクをあわせもつイントロダクションではじまる。小出斉のボーカルがかっこよすぎる(微妙な表現を完璧にコントロールしながら歌っている)。鍵盤を叩きわりそうなほどに叩きつける早崎詩生のピアノソロも凄まじい。ギターソロも野太くあざとく激烈だが、トリッキーというか小賢しい(?)楽器上の遊びのようになる直前でしっかりとまっているあたりがプロというか「わかってる」感じがあふれているような気がする。4曲目はマディでおなじみの曲……らしいが私はよく知らん。瀑布のようになだれ落ちるハープ、ズドンズドンと強力にぶちかますギターなどひたすら聞き惚れる。5曲目も4曲目同様ウィリー・ディクソンの曲だそうだが、こういうときブルースのことを知らないのでこれがどういう有名曲なのかとかそういったことはさっぱりわからない。妹尾がメインの曲だが、ここでのハープを聞いていると、音楽に「原典」とか「ヴィンテージ」とか「リメイク」とかそういったことに意味はあるのかなと思う。この演奏が行われていた「今」がすべてなのだ。それがこれだけかっこよかったらそれ以外のものは無意味ではないか。6曲目はさすがに私も知ってるジミー・リードの「オネスト・アイ・ドゥ」で学生のころブルースを順番に聴いていていたころ(真面目だったのです)、このアルバムを買って、うーん……と考え込んでしまったことを思い出した。ここでの演奏は妹尾ハープのすばらしさもあってだと思うが、ブルースではないのだがブルース的な面白さに満ちた演奏になっている。ハープ、ギター、ピアノ……いずれもすばらしい。7曲目はロバート・ジョンソンの曲でクラプトンで有名な曲らしい(よく知らん)。ギターが咆哮しているが、この音使い(ペンタトニック的な)で世界を構築してしまう……というのはほたにもいろいろ通じる感じがする。8曲目はこれはさすがに「俺も知ってるぜ」的な曲でサニーボーイ・ウィリアムスンの超有名曲。典型的なシャッフルナンバーで山崎のドラムを聞いているだけでトリップしそうになる。妹尾のハープもすばらしい。9曲目は吾妻さんのスローブルース。だれの曲なのかよくわからないがH−BOMB FERGUSONがやってる曲なのか?(このひとはいろんなウィグをかぶって活動していたなかなかアトラクティヴなひとで、うちにもアルバムが一枚ある。ジャンプ系に詳しいひとはよく知っているかもしれません)えげつなくもかっこよすぎるギターソロがありすばらしい。ラストは吾妻さんが歌うロイ・ミルトンの曲でジャンプ系。こうして聴くと原曲よりずっとジャンプしていてかっこいいのだ。吾妻さんのギターソロはパキパキしているがよく聴くとかなりジャズ的(つまりゲイトマウス的)なフレーズを取り入れていて、これがまたかっこいいのだ。