「CARNET DE ROUTES」(LABEL BLUE LBLC6569 HM92)
ROMANO,SCRAVIS,TEXIER,LE QUERREC
第三作の「アフリカン・フラッシュバック」という三枚組があまりによかったので、同一メンバーでの一作目である本作を(かなり探したけど)聴いてみた。めっちゃよかった。やっぱりな、という気持ちもあったが、とにかくめっちゃめちゃよかった。三部作(?)はどれも、写真家のひと(4人目に名前が書いてあるル・ケレック)とのコラボレーションなのだが、なにしろトリオでの演奏とはとうてい思えない、まるでまるでオーケストラのような音楽の広がりである。比喩で言っているのではなく、本当に「全部トリオ?」とジャケットを見直してしまったほど。本作を聴くと、音楽は三人いれば十分だ、と言い切ってしまいたくなるほど。いやあ、おいしすぎるなあ。もう、たまらんなあ。全員うますぎるが、やはり目立つのはスクラヴィスで、超絶技巧がきちんと音楽性に奉仕しているからまったく嫌味ではない。でも、やっぱりうますぎる。うまいことはいいことだ、と彼の演奏を聴くと真剣に思う(そう思えないミュージシャンも多いが)。それと、曲がどれもすばらしい。それと作曲! 「アフリカン・フラッシュバック」でも感じたが、よくこんないい曲を書くなあ。感心するわ。とにかくめちゃめちゃ傑作なので、万人にすすめたいが、入手困難かなあ。こうなると第二作が聴きたくなってくるが、見たことないんだよね。音楽的には3人対等だと思うが、一応、いちばん先に名前がでているロマーノの項目に入れた。
「AFRICAN FLASHBACK」(LABEL BLUE LBLC6679)
ROMANO,SCRAVIS,TEXIER,LE QUERREC
このメンバーによるアフリカシリーズの3枚目だが、本作は前2作のように直接アフリカに赴いてそこからのインスピレーションによる演奏、とはちがって、前2作にも参加していた写真家のケレックが編集した写真を見て、3人が曲を書き、演奏したものである。しかし、その内容の凄まじさは半端ない。写真については私は言うべきなにかを持ち合わせていないが、それでもすばらしいことはわかる(コメントがフランス語なので全然わからん。翻訳はべつの小冊子なのでいちいち見比べないといけません)。しかし、とりあえず音楽について述べよう。最高のコンポジションと最高のインプロヴィゼイションの融合である。このアルバムについては言いたいことが山のようにあるのだが、ここまですごいと、ほんと、言葉は出なくなるなあ。たとえばジャズの歴史的名盤みたいな本があったら、当然、この作品は入るだろう、と思うぐらいの傑作だと思う。ジャズって聴いたことないんですけどー、というひとにこのアルバムを「これこそジャズです」といって渡したとしても、全然問題ないだろう。逆に、アホみたいなピアノトリオとかを渡すほうが引かれるんじゃないでしょうか。そんなもんは、お好み焼き屋か焼き鳥屋で流しとけ。一曲一曲はさほど長くない(というか短い)のだが、凝縮しまくりである。1曲目はソプラノによる反復の多い曲(テールはクラリネットなのかな?)。短いサックスソロのあと、テキシェの歌心あふれるベースソロが展開する。そのあとパーカッションの短いソロ。顔見せ的な演奏ではあるが、このアルバムのコンセプトをはっきり明確に打ち出している。2曲目は激しいビートに乗って、妙なヴォイスとともにはじまり、バスクラリネットの圧倒的なブロウが凄まじい。このバスクラは、ブラバンでバスクラを吹いているひと全員に聴いてほしい。まさにヴァーチュオーゾ! 3曲目はゆったりした即興だが、バラードではない。いや、アフリカの吟遊詩人が歌いあげるバラードという意味では、まさにバラードかもしれない。スクラヴィスはクラリネット。木の響き。ええなあ……。4曲目はリズミカルで東洋風のテーマをもった曲。テーマのあと、力強く歌いまくりのベースソロとこれまた歌いまくりのクラリネットソロのチェイスが展開する。いやはや、すごいわこのひとたち。演奏時間はめちゃめちゃ短いのだが、堪能してしまうんだよなー。5曲目はモーダルなベースラインに導かれるソプラノによる70年代モードジャズ的超かっちょいいサウンド。ベースソロもソプラノソロもめちゃくちゃいいが、バックでのロマーノのドラムの見事さに惚れてまうやろ! 6曲目は、過激なフリージャズ。やるやん。スクラビスはバスクラ。7曲目はマーチング風の曲で、カルロ・アクティス・ダートや梅津さんを想起させるような感じではじまるが、途中からフリーになる。全体のサウンドとしては、やはりアイラー(のたとえばスピリッツ・リジョイスあたりを連想せざるをえない(というか、明確なゴーストの引用もある)。バスクラソロが終わったあたりのベースのフリーなソロとドラムのパルス的なバッキングも含めて、空気は初期アイラーだ。8曲目は、マイナーの哀しいサウンド。スパニッシュというより、暑苦しいキューバとかブエノスアイレスで強い蒸留酒を飲んでいるような場面を連想させる、けだるく、重く、また、軽い演奏。めっちゃええやん。でも、現代のアフリカなのかも。9曲目も、モーダルなジャズ的演奏。3拍子に乗ってソプラノがコルトレーンの「マイ・フェイヴァリット・シングス」的なブロウを繰り広げる。10曲目はクラリネットをフィーチュアしたアブストラクトなバラード。11曲目はバスクラによるドルフィー的跳躍のあるバップのパロディのような曲。12曲目はちょっと聴くと変拍子っぽい、マイナーのモーダルなベースラインがかっこいい曲。スクラビスのバスクラもコルトレーンのように吠え、叫び、モーダルなソロを吹きまくる。13曲目はティンパニ風のリズミックなドラムをバックにベースとクラリネットがバラード的なラインを奏でる、というポリリズミックな曲。ベースの力強くも暗いソロがフィーチュアされます。とにかく、3人のうちひとりが欠けてもこの演奏はなりたたないし、全員、ひとりが2、3人分の演奏をしているので、たった3人でもこういう分厚く、深い音になるのだろう。よく3者対等のトライアングル的演奏とかいうが、こういった「だれひとり欠けてもこうならない演奏」というのが本当の3者対等ではないかと思う。買ったとき(かなりまえの話だが)、ボックスなのでこれは3枚組ぐらいかなあと勝手に思っていた。だが、この1枚組は、3枚組、いや10枚組と同じぐらいの衝撃がある。まじでジャズ史に残る名盤だと思います。
「COMPLETE COMMUNION TO DON CHERRY」(DREYFUS JAZZ FDM 46050369662)
ALDO ROMANO
いろんな方面からの再評価がなされているドン・チェリーだが、共演歴もあるアルド・ロマーノが満を持して作り上げたこのアルバムは、全曲ドン・チェリーのオリジナルである。タイトルが「コンプリート・コミュニオン」となっているが、全編が「コンプリート・コミュニオン」の再現をしているわけではなく(ヴァンダーマークがやってましたね)、ドン・チェリーのおなじみの曲ばかりがずらっと並んでいて壮観である。演奏自体は、ドン・チェリー的というにはかなり「普通」で、ああいうのんしゃらんで自由で先がどうなるかわからないほどでたらめで浮遊感のある素朴な演奏とはちょっとちがい、あくまでドン・チェリーのコンポジションにスポットを当てたような感じ。といっても、単に素材として演奏しました、というのではなく、逆に、ドンの表現を表面的になぞるのではなく、その曲をじっくり見据えて真摯に演奏することでドン・チェリーの独特の音楽世界がじわじわと見えてくる……みたいなアルバムになっている。そのあたりはリーダーであるロマーノの狙いなのだろうと勝手に思っている。つまりは、ドン・チェリーの曲がいかにオリジナリティのあるドン個人に付随する肉体的な「曲」だったかがわかるわけだ。共演者は、今や超有名人ファブリツィオ・ボッソ(と読むのか?)で、このひとはドン・チェリーとはまるでちがう、どちらかというと超絶技巧とパッションでバリバリ吹きまくり、その吹きまくりのなかで音楽を形作っていく感じだが、そういうひとのトランペットがバンドのひとつのピースとなって、ちゃんとドンの音楽が聞こえてくるあたりが本作の聴き所か。もうひとりのソリストはロマーノバンドではおなじみのジェラルディン・ローレント(と読むのか?)で女性のアルト吹き。ボッソに比べるとパッショネイトというわけでもなく、またオーネット・コールマンのような変態性もなく、地味だがきちんとラインをつむいでいき、それで表現するタイプだとおもうが、このひとの演奏もちゃんと本作のテーマに合っている。一聴して、うわあっという感じではなく、聴けば聴くほどスルメのように美味しさがしみ出してくるようなアルバム。
「CORNERS」(LABEL BLEU LBLC6615)
ALDO ROMANO
アルド・ロマーノがこれまで旅してきた世界中のさまざまな場所の記憶をモチーフにした、音楽による旅行記というか短編集的なアルバム。15曲とたくさんの曲が入っていて、1曲1曲は短いのだが、それぞれが充実しているのでかなり手応えがある。ほとんどの曲をアルド・ロマーノ自身が書いていて、しかも「ええ曲ばっか」なのである。曲が書けるドラマー、という呼び方はこのひとに関しては完全に失礼である。アレンジもかっこいい。メンバーは全員すばらしいが、ギターのティム・ミラーが泣く。泣きまくる。そして、クラリネットのマウロ・ネグリがコルトレーンのようにクラリネットでモーダルなフレーズを吹きまくる。ほんとに吹きまくる、というのがぴったりで、よくクラリネットでコルトレーンの曲をやりましたというのがあるが、そういうのとは一線を画した、クラリネットでジャズをはじめたときからすでにコルトレーンはイディオムとしてそこにありましたとい感じの消化のしかたで、なんでもできるひとだ。こういうクラリネットプレイヤーが増えてきたなあ。スウィングナンバーのような曲では、ズンドコした「ドラム・ブギー」のようなリズムに乗せて、ベニー・グッドマンのようにブロウしたりするし、ときには完全にクラリネットであることを忘れてソプラノかなにかを聴いているつもりにさせられるほど「クラリネットらしくない」音とフレーズで勝負したり、千変万化である。超うまい。アルド・ロマーノのアルバムは、いつもメンバーの人選がすばらしくて、世の中には技術があって音楽性が高くてセンスのいいプレイヤーがいっぱいいるんだなあ、と感心させられる。曲もメンバーも個々のソロも……なにもかもうまくいった傑作であります。
「JUST JAZZ」(DREYFUS JAZZ FDM 46050 369202)
ALDO ROMANO
アルド・ロマーノ、アンリ・テキシェという鉄壁のリズムセクションに、ジェラルディーン・ローメントのサックス、マウロ・ネグリのクラリネットという2管という編成で、メンバーを見ただけで絶対おもしろくないわけがないと確信できるアルバム。「ジャスト・ジャズ」というタイトルはかなりロマーノの率直な思いを反映しているのではないか、と思う。聴いてみると、いわゆるバップ〜ハードバップ〜モードといった「ジャズ」とはちがった音楽が展開されているのだが、それはそもそもロマーノやテキシェたちが演奏してきたものであり、いまさら「これがジャズだ」と言われてもなあ、と思うのだが、こうして聴いてみると、たしかにこれはロマーノのジャズ宣言というか、ブルース、グルーヴ、ファンキー、スウィング……という要素が前面に出がちなアフロアメリカンのジャズに対して、これは俺の(俺たちの)ジャズだよ、と言ってる感じがある。フリー方面に振り切れることもできるひとたちなので、「今回はジャズだ」ということかもしれないが、もちろん一筋縄でも二筋縄でもいかない演奏ばかりである。12曲中2曲を除いてロマーノの作曲という意欲作だが、これがまたまためちゃくちゃいい曲なのだ。ピアノレスカルテットなのに、4人という少人数を上手く使った細心なアレンジがほどこされているのもいつものとおり。ものすごくシンプルな曲でも、魔法のように「ええ曲」に聞こえる。ロマーノ、テキシェとくればスクラヴィスと言いたくなるが、ここではふたりの管楽器奏者がフィーチュアされる。サックスも吹くマウロ・ネグリはクラリネットに専念しているが、この録音時42歳というバリバリの時期で、名前もよく知られているひとだ。独特のくねくねしたラインをクラリネットの音色を活かして吹きまくる(どの曲でもすさまじいが、5曲目でのフレージングなんか鳥肌もん)。一方のジェラルディーン・ローメントはこのとき33歳。このリズムセクションの激しいあおりを受けて力強い音色と確信に満ちたフレージングで演奏はすばらしい。この2管の、ときに熱気にあふれ、ときに静謐な演奏はどの曲でも見事のひとことで、まさに完璧なカルテット。「アレンジ」に「音色」もちゃんと取り入れているところがさすがであります。5曲目でアルトとクラリネットが同時にソロをする場面があるが、熱ちちちち……となるぐらいホットな演奏。6曲目に「チック・ウェヴ」という曲が入っているが、やはりレトロスウィングの香りが漂う4ビートナンバーでした(ベースソロがフィーチュアされる)。7曲目も変な曲すぎて笑ってしまう。8曲目のファッツ・ウォーラーの曲、12曲目のスコット・ジョプリンの曲も、レトロなスウィングジャズを模した演奏。こういうのをやらせてもみんな異常に上手い。めちゃくちゃ傑作だと思います。