daniel rovin

「KARL 2000」(GSI RECORDS)
KARL2000

 猫ジャケ、犬ジャケは多いが、本作はピーター・ヴァン・ハフルのゴリラマスクなどと並ぶ猿ジャケの一枚(ほんまか?)。テナー〜ベース(たぶんウッドベースオンリー)〜ドラムのトリオ。どこで入手したのか思い出せなかったが、ドラムがデイヴィッド・ミラーなので、ペットボトルニンゲンのツアーの物販で購入したものだと思う。このバンドはちょっとまえに日本にも来ており、コモンカフェやビッグアップルでも演奏しているが、それは観ていない。テナーのダニエル・ロビン、ベースのオースティン・ホワイトはどちらも知らんが、つまりはニューヨークでバリバリやってる若手たちということだと思う。テナーのダニエル・ロビンは非常に硬質な音でごりごり吹きまくるタイプでたいへん好ましい。全体にロシアっぽい曲が多いが、メンバーのなかにロシア出身者がいるのか? そのあたりはよくわからん。1曲目はいきなり「ポーリュシカ・ポーレ」をおもいっきりデフォルメし、歪めたような演奏。ただしテーマだけで一瞬で終わる。しかし、この一瞬が強烈な印象を残す。この演奏の源流がアイラーに発していると想像するのは容易だが、それだけではない現代的な感覚のほうをよく聴き取るべきだろうし、また、アイラー的な音楽へのアプローチというのは永遠なのだなあとも思う。その後もロシア民謡(3曲目と10曲目)などを題材にぐちゃぐちゃに歪ませ、へし折り、かき混ぜたようなハードコアなサウンドの演奏が続くが、三者のバランスもよく、かなりの猪突猛進と見せかけてじつはけっこうな繊細さも感じられる内容で好感が持てる。でも、もっと無茶苦茶でもええんちゃう? という気もする。パワーミュージックなのだが、もっともっとパワーを! と聴いていると餓鬼のような発作にかられてパワーを求めてしまう。それにしても、こういう昔ながらの「フリージャズ」の方法論が今でもいきいきとしたみずみずしいものになりうる、ということがわかるなあ。ええもんはええ。というか私がこういうのが好きだということだが。「壊して作る」という衝動は今も昔も変わりません。ベースもドラムもいい。たとえば民謡などの扱いにしても、ぶっきらぼうなようで、テーマの吹き方などはかなり用意周到だ。3曲目のテーマの硬軟織り交ぜた吹きっぷりは感動的だし、内容の激情的展開もこれに心を動かされないひとはいないだろう(最後のほう、オーバーダビングあり)。4曲目はオリジナルだが、このシンプルさゆえのパワーはなにもかもぶち壊すがもっと長く聴かせてほしかった気もする。5曲目はグスタフ・ランゲの「花の歌」で、6曲目は「悲しき初恋」らしいがデフォルメが過ぎてよくわからん。7曲目はちょっとファンクな感じでドラムが暴れてかっこいい。テナーはずっと咆哮しているがときどきちょっとリフを決めてまたスクリームに戻ったりするあたりはちゃんとクールネスもある。最後の展開はよくわからないがおもろい。8曲目は「カールからのメッセージ」というタイトルで、なんらかのメッセージ性がある曲かと思ったら、アヒルの声みたいなふざけた演奏(超短い。なにかを言ってるのだろうがわからん)。9曲目は「DERRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR……」(このあとまだまだRが続く)というむちゃくちゃなタイトルの曲。重い4ビートに乗ってテナーがのんしゃらんに吹く。ときどき倍テンになる。なんやねんこれ。だんだん白熱化していくストレートアヘッドな即興曲。10曲目は調べたけどよくわからん。ソヴィエト赤軍合唱団というのが吹き込んでいるアルバムがあったので、まあ、そういうルーツの曲なのだろう。ちなみに本作に入ってるロシア民謡(?)的な曲3曲はいずれもアレクサンドロフ・ソヴィエト赤軍合唱団の演奏にインスパイアされたもの、という注記がある。ラストの「ウィ・ル・ミート・アゲイン」はジャズのスタンダードともなっている有名曲だが、短い演奏で、ロヴィンが吹いているのはか細い音色のクラリネット的な楽器(クレジットにあるヨナフォーンというのがこれだろうか)。このバンドは、なかなかやると思う。今後も注目です。3人対等のグループだと思うが、最初に名前の出ているサックスのダニエル・ロヴィンの項に入れておく。