tetsu saitoh

「OCTOBER BASS TRI−LOGUE」(JAZZ BANK/VARANUS MTCJ−1018)
BARRE PHILLIPS/NOBUYOSHI INO/TETSU SAITOH

ウッドベース奏者三人によるトリオ。これはすばらしい。これこそ、先入観なく、楽器がなんであるかも考えずに、できるだけ大音量で無心に聴いてほしい。このフレーズを弾いてるのはだれかな、とか考えるのは何度かくり返して聴いたあとで十分。この三人は、それぞれ突出した個性や経歴を持っていて、それぞれの山の頂点にいるひとたちなのだが、それが合わさるとどうなるかというのはたしかに興味深いが、まずは……まず最初はこれが何人による即興アンサンブルかということも忘れて、単なる「音楽」として聴いてみたらいいのではないか。私は、内容の予想がつかない演奏については、そういう具合に無心に接するのがええんとちゃうか、と思っておりまして、このアルバムもとりあえずそういう態度で聴いてみると、いやー、こんなにがんがん、ぐいぐい、ずばずばと身体のなかに自然に入ってくるというのは想像もしませんでした。コントラバスから出る多種多様な音色、多種多様なリズム、多種多様なハーモニーが重なり合って、ここまで聴き手の想像力を刺激してくれる楽しく、かっこよく、気持ちいいサウンドになるとは驚きだ。これまでにもベースデュオとかはたくさん聴いてきたと思うが、1+1のはずが1−1になっていたり、単に1+1のままだったりするものも多いけど、このトリオは1+1が1827ぐらいになってる。えーと……いろいろ感想を書きたいのだが、このアルバムに関しては、これからはじめて聴くひとにはただただひたすら無心に、先入観なく接してほしいので、なにも書きません! そういう風に私が思っている、というか、大事に、尊敬の念をもっている作品だというところだけわかってくださいませ。ただひとつだけ、ジャケット裏の1、2曲目の演奏時間が実際とだいぶちがっているのはなぜ?

「BLUE POLES OF LEAR」(TAO−001/LMCD1309)
TETSU SAITOH

 レーベル名はわからない(どこにも書いていない)。おそらくタオという名前で、斎藤さんの自主レーベルなのだろうと思う。劇団「太虚(タオ)」の「白鬚のリア」という芝居の第二部「嵐」というパートのために組織されたグループだが、芝居の公演が終わったあとも演奏活動を継続し、本作はその成果ということらしい。中古でなにげなく購入したものだったが、聴いてみると、「すごいものを聴いた」という手応えのある内容だった。全曲、作曲は斎藤徹だが、メンバーの人選は栗林秀明というひと。沢井筝曲院に所属する若手筝奏者が多く参加している。メンバー構成は、斎藤徹のベース(とパーカッションとシンセ)に8人の筝(と十七弦筝)奏者、廣木光一のギターである。筝とギターは基本的には撥弦して音を出すわけで、コントラバスだけがアルコとピチカートを併用できる楽器なのだが、聴いている印象としては、筝は撥弦というより持続的なポルタメントのようになめらかで深い。なんというか「海にひきずりこまれる」ような気持ちが聴いているあいだ中ずっとしていて、感動とともに若干の恐怖心も抱くほどだ。芝居のときの役者の台詞や歌の録音を重ねることで、芝居の上演時の演奏はどのようなものだったのか、と想像できるような効果もあがっている。最後の曲(11曲目)のみ廣木光一のギターが加わっており、これも鋭く尖ったような瞬発力のある音がぶつかり合う精気のある即興になっている。傑作。