ikuo sakurai

「LOCAL TRAIN」(地底RECORDS B111F)
桜井郁雄クインテット

 いきなり力強く、かつ渋みのある音が飛び出してくる。溌剌として明るくガッツのある……というのとはちょっと違って、私の好みの70年代ジャズ的というのか(これがマイナスなイメージを喚起せぬことを祈る)ウディ・ショウやビリー・ハーパーやジョー・ヘンダーソンといったつわものたちの演奏が想起される。全員がそうなのだが、とくにベースの、テクニックをひけらかさないが強弱などを含めてのさまざまなニュアンスがそのまま音楽になっているような「ジャズ」である。まあ、このひとのキャリアからすれば当然のことかもしれないが、今の演奏がきちんと音源に刻まれたことの価値は絶大である。メンバーはベテランもおり、若いひともいる。この混合はいいですね。1、2はギターカルテットで、3曲目(コード進行的になかなか難曲?)からアルトが加わる。コード進行を丁寧にほぐしていくサックスに好感が持てる。4曲目はバラードでベースが歌うのだが、そこからラテンっぽい展開になり、ベースが爆発する。かっこいい。5曲目はバラードかと思いきやゴリッとした(エルヴィン・ジョーンズを想起するような)演奏になり、ギターとピアノががんがん弾きまくる(サックスはいない)。これはもう至福。6曲目はバラードでアルトのロングトーンが効きまくっている。めちゃくちゃいい。7曲目もバラードだが、サックスはいない。ギターとピアノ、ベースがからみあいながらジャズバラードの美しさを極めていく姿にはうるうる。本作ではいちばん好きな演奏かも。8曲目はアルトが入ってのフリーテンポなバラード(?)で、まるで7曲目からのメドレーを聴いているような気持ちになる。アルトのロングトーンをベースにドラムとギターが奔放に叩きまくり、弾きまくる。2分ほどの短い演奏でかっこいい。9曲目は指をスナップさせてのカウントではじまるミディアム4ビートの曲で、ブルースなのだがめちゃくちゃいい曲。そして、先発の福本陽子のアルトソロが、これまたすばらしい、テーマからの流れをきっちり考えたうえで音使いを考えぬいた、ひたひたと迫ってくるようなソロで感動。ギターソロもピアノソロもベースソロもいずれもオーソドックスなジャズの枠組みのなかで、とてもオールドスタイルな演奏をしているにもかかわらず、ものすごく新鮮で、「今の音楽」に聞こえるのはたぶんこれが、たまたまジャズの形態をとってしまいました的な演奏ではなく、伝統というものに根を張ったマジなジャズだからでしょう。ドラムとのバースも、気合いが入っている。アレンジも洒落ていて、小品のように聞こえるかもしれないがかなり聴きごたえのある演奏。素晴らしーっ。10曲目はギターのポルタメントを最大限にいかした、揺蕩うような演奏。ベースが大きくフィーチュアされる。ピアノの、一音一音考え抜かれたような研ぎ澄まされたソロも感涙。11曲目は軽いノリのラテンナンバーだが、こういう軽さはなかなか演出できるものではないと思う。ほんとに心地よい、わざとらしくない軽み。ラストの12曲目はアルコベースをフィーチュアした、まさに「歌」の根本の「筋」だけ、という感じの、雑味を削ぎ落したような演奏で感動的である。いい演奏ばかりが続く、珠玉のようなアルバムで、これは多くのひとに聞いてほしい。傑作。