magic sam

「MAGIC SAM LIVE」(P−VINE SPECIAL PLP9031/2)
MAGIC SAM

 マジック・サムでいちばんよく聴いたのは「ウエスト・サイド・ソウル」だが、これは先輩にテープにいれてもらったもので、アルバムは持っていなかった。この二枚組は、CD時代の今はどういう形で出ているのかしらないが、当時はマストアイテムだったような記憶がある。マジック・サムの良さをどう表現していいのかわからないが、まず、伸びのある魅力的な声、伸びのある魅力的なギターフレーズ、強烈なリズム感覚とグルーヴ、そして超弩級のブルース衝動……ということになるだろうか。一枚目のA面一曲目「エヴリ・ナイト・アバウト・ディス・タイム」でとにかく圧倒される。こりゃあすげーっと思っていると、つづく二曲目の溌剌としたブギー。めちゃめちゃかっこいい。ときどきエディ・ショウやACリードのテナーがからむが、はっきり言って、オブリガードはいらんかもしれない。ホーンセクションなしのシンプルなバンドのほうがよかったかも。というのも、あまりにマジック・サムが凄すぎるからで、この猪突猛進というか重戦車のような進撃にはサックスのオブリガードはふさわしくないような気がするのだ。いやー、凄いわ。モダンブルースのわからん私だが、さすがにバディ・ガイ、オーティス・ラッシュ、そしてマジック・サムの3人はめちゃわかる。わかる、というか、これがわからん人はおらんやろ。正直言って、音はものすごく悪い。チャーリー・パーカーの海賊盤ぐらい悪いが、この内容のまえにはすべて吹っ飛ぶ。三曲目のインストのスローブルースではギターが泣きまくる。途中、ロンリー・アヴェニューのフレーズがでてくるが、まるで歌っているようなギターだ。4曲目の決めフレーズのとき、客がいっしょに歌うのが、これまたかっこええんだ。……という風に順を追ってレビューしていってもしかたないので、一枚目はこのあたりで終えるが、すごいアルバムだということがわかっていただけましたか。私は、ブルースのアルバムは、テンポとかリズムとか歌詞とかはそれぞれちがうが、とにかく全曲ブルース形式なわけで、だいたい途中で飽きることが多い。しかし、マジック・サムとかオーティス・ラッシュあたりだと、まるまる一枚聴いても飽きないどころか、もっとずっと聴いていたいという気持ちになる。これはなぜなんだろう。二枚目は、3人だけのシンプルな編成で、しかもマジック・サムはドラマーとはこのときはじめて顔をあわせたらしい。それでこのグルーヴ、この盛り上がり……。すげーよなー。一曲目、「サン・ホ・ゼイ」とかいう、意味がよくわからないファンキーなインストではじまるが、この時点でもう「参りました、すんまへん!」と土下座したくなるほどかっこいい。二枚目のほうも、音が悪いが、一枚目を上回るほどの熱気がほとばしり、息もつかずにAB両面を聴いてしまう。A面ラストの「アイ・フィール・ソー・グッド」という曲では、マジック・サムは興奮してなにを歌ってるのか聞きとれないぐらい昂揚していて、もう、聴いていてドキドキする。しかし、これはいったいなんなんだろう、この神がかりといってもいいような演奏は。こういうことを言ってはならんのだろうが、ローランド・カークといい、マジック・サムといい……「早死にするわなあ」とつい思ってしまう。個人的には二枚目のアン・アーバーのライヴのほうを聴くことが多いが、今回久しぶりに一枚目も聞き直してみて、どっちも名盤だと再確認した。すごいすごいすごすぎるっ。

「WEST SIDE SOUL」(DELMARK RECORDS PCD−18577)
MAGIC SAM’S BLUES BAND

 マジック・サムは今も未発表音源が発見されるたびにそれなりの騒ぎになるぐらいの伝説的なブルースマンだが、やはりその最高傑作といえば本作だろう。私は長い間、レコードも持っていなくて、先輩にダビングしてもらったカセットテープを聴いていたのだが、先日ようやくCDを入手したので聞き直してみると、長年聞きまくって擦り切れたカセットテープより音質が遙かによくて驚いた。でも、音楽の本質的な部分はカセットだろうがアセテート盤だろうがソノシートだろうがオープンリールだろうがなんら変わらない。とにかくマジック・サムのブルース衝動が時空を超えてスピーカーから大放出される。それでいて、黒々とした感じにならず、むしろ理知的で整理されていてすっきりと聴こえるのが、おそらくサムの音楽的特徴だと思う。もちろんその底には深くて黒くてねっとり、どろどろしたブラックミュージックの源泉が、(たぶんほかのブルースマン以上に)湛えられているのだが、それが演奏という形をとったときに、なぜか洗練されて聞こえる。しかも、激しいブルース衝動もそのままなのだ。これが(ブルースにはまったく詳しくないので)どういうことなのかはわからないが、サムのサムたる部分ではないか。その点は、スタジオ録音である本作よりももっと奔放で過激な、例の「ライヴ!」でも変わらないように思える。でも、このアルバムのすごいところは、とにかくものすごくライヴ感、高揚感があり、しかも構成もばっちりなところで、本当に文句のつけどころのない作品というしかないのです(それなのにカセットしか持ってないって……でもそういうアルバムけっこういっぱいあるな)。1曲目からめちゃめちゃかっこいい。1曲目のギターは、私のようなブルースを知らないものの耳にはブルースギター、スクウィーズギターというよりフォークというかそういう感じに聞こえるのだがそれでもかっこいい。そしてボーカルにはたまらなく引きつけられる。これは想像だが、当時これを新譜として聞いたひとには、なんちゅう新しさ! と思ったのではないだろうか。2曲目でギターが爆発。自身のボーカルの合間に入れるギターがかっこいいし、ソロ部分もボーカルに替わってギターが歌っているかのような歌心。3曲目は「ライヴ」でもやってた、ブルースではないワンコードの曲で、凄まじいノリが怒涛のごとくあふれ出す。4曲目は、ここへ来て直球ど真ん中めちゃめちゃかっこいい、かっこよすぎるスローブルースナンバー。イントロから、聴いていて「きーっ!」となるが、歌い出しやそれに絡むギターからなにから壮絶。あー、もう、こんな演奏が67年の時点で行われてしまったのだから、その後はだれがなにをやっても、あのころはよかったねすごかったね的になるわなあ……ブルース界。レイ・チャールズの「ロンリー・アヴェニュー」のテーマ部分をギターがリフとして弾いているのもかっこいい。「ライヴ!」のバージョンが名高いが、こっちもいいですよ。5曲目もシャッフルの王道ブルースで歌とギターの絡み合いが凄すぎる。ブレイクのところももうなんともいえません! 6曲目はあの「スウィート・ホーム・シカゴ」だが、イントロのフレーズから歌からギターからすべてが完璧で、「ブルース・ブラザーズ」のおかげであまりに有名すぎる曲(演奏)になってしまったが、やっぱり何度聴いてもマジック・サムのこの曲がいちばんかっこいいよね。7曲目のスローブルースも、どろどろのコールタールのような黒い演奏ではなく、どことなくきらびやかで、ポップで、スタイリッシュで、しかもその底には強烈なブルースが息づいているあたりもサムだよなー。ブレイクのボーカルなんかもしびれます。8曲目もハチロクのスローブルース。ジミー・マクラクリンの曲だそうだが、ええ歌詞ですなー。9曲目はインストで、「ライヴ!」の最後でやってたやつ。途中でバックが消えてギターだけになるあたりのすばらしさは筆舌に尽くしがたいってやつです。10曲目はオーティス・ラッシュがコブラのあの名盤でやってたやつ。途中でコードをまちがったりしてるように聞こえる。11曲目は明るいブギ。JBルノアーがオリジナルらしいけど、それはごく最近まで知らなかった。このアルバムのバージョンで覚えた。ええ曲ですよね。おんなじことを繰り返すことの強み。このCDには12曲目に5曲目の別テイクがおまけで入ってる。というわけで、ブルースはよく知らない私が聴いても震えるぐらいかっこいい傑作なので、おそらくブルース好きには金字塔というか神作品というか、崇め奉られてるのだろうなと思う。そりゃそうですよね。