jim sauter

「BOANERGES」(doubt music DMF−149)
JIM SAUTER & KID MILLIONS

 予備知識なしで聴いたほうがよいとJOEさんがブログで書いてたので、そのようにしたら、びっくりした。テナーとドラムのデュオのはずなのに、いきなり飛び出してきたのは「ぎょえええっ」という狂ったようなエレキギターのノイズ。ギターなんか入ってないのにとなおも聴き続けているうちに、え? これ、サックス? となった。たぶん、ぼーっと聴いてたり、楽器編成を知らずに聴いてたら、最後までエレキギターだと思っていただろう。エフェクターをかけまくり、ゆがみまくり、増幅しまくったサックスの音なのである。ひたすら「ぎゃーっ」といってるだけ、という印象もあるが、アルバム一枚まるまるこのままじゃないだろうな、と思って聴いてると、結局まるまる一枚「ぎゃーっ」といってるだけなのだ。こいつ、とんでもないやっちゃな、と爆笑した。あとで録音時の演奏のビデオを観ると、ずーっと腰を曲げて、客に背中を向けて、サックスのベルをアンプにくっつけてハウリングを起こさせている。最初から最後までその姿勢のままだ。こいつ、腰いわすで、とひとごとながら心配になるほど。前を向いて吹く、というような思考はこのひとの頭にはないようだ。すごいやっちゃなあ。ドラムもパワフルで、ただひたすらどつきまくっているが、なにしろさのサックスのひとのインパクトが凄すぎてフツーに聞こえるほどだ。いやー、こういうひとがいたのだなあ。ノイズというのはギターやサンプラーやキーボードやヴォイスのものであって、管楽器が入り込む余地はあんまりないのだろうなと勝手に決めつけていたが、そうかそうか、サックスでも十分いけるやん。たぶん、こんなことやるんやったらサックスじゃなくてギターを弾けばええやん、という意見もあるだろうが、ここまでやってこそはじめてサックスという生楽器がエレキギターと同じあの飛翔感を手に入れることができるのだ、と私は思いました。高柳さんや内橋さんなどの凄いギタリストが軽々とギターで宇宙までぶっ飛んでいくあの音響世界を聴いてると、これはサックスには無理や、負けや、と思っていたが、いやいやいやいや、これは可能性があると思い直した(だから自分でやるというわけではない)。聴き終えてあまり驚きすぎ笑いすぎたので、しばらく休憩してから、ネットで検索すると、いろいろな映像や写真が出てきて、それらを見て、納得する部分も多々あった。この録音時の演奏でも、なんか倍ぐらいに長い、変なマウスピースをつけているし、ゴムホースでマウピとサックスをつないだ写真もあった。どうせエフェクトをかけるし、サックスをノイズメーカーにしているのだから、まともに吹く必要もないし、音程も気にしないでいいわけだ。ここまで思いきってしまうというのもすごい。こういう馬鹿なことをやるのはさぞかし無軌道・無鉄砲・無分別な若いやつだろうと思っていたら、写真を見ると、分別盛りっぽいおっさんではないか。やるなあ。アルバム1枚聴きとおすとへとへとになるので、もう聴きたくなくなるかと思ったが、翌日もう一度全部聴き直してみると、へー、ちゃんとインタープレイもあるやん、とか、これはこういう風に吹いてるんだなあ、けっこう考えとるなあ、とか発見できて楽しかった。結論として、毎日聴くことも可能ということで。でも考えてみたらノイズのファンは毎日こういうのを聴いてるわけだから、そら聴けるわ。世の中まだまだ知らんことが多い。