saxemble

「SAXEMBLE」(QWEST RECORDS /WARNER BROS.9 46182−1)
SAXEMBLE

 4人のサックスにドラムが加わる「サクセンブル」というグループにゲストとしてサックス奏者がふたり参加して、都合サックス6人という大所帯のバンドのアルバム。しかも、その顔ぶれがすごくて、この手の企画にはよく顔を見せるジェイムズ・カーターをはじめ、ソニー・シモンズとの共演でもなじみ深いマイケル・マーカス、超大物フランク・ロウ、カヒール・エルザバーのグループで凄腕を披露するアレックス・ハーディングらがずらりと並んでその表現力を見せつける。しかも、ドラムはシンディ・ブラックマンだ。最初聴いたときは、ベースがいるもんだとばかり思っていたが、じつはサックス以外にはドラムがいるだけなのだ。ジェイムズ・カーターとアレックス・ハーディングはもちろんバリトンを吹いているが、マイケル・マーカスはバスサックスも吹いていて、低音部の充実ぶりもすばらしい。1曲目はいきなりどこかで聞いたようなメロディで、なるほど、ファットヘッド・ニューマンのおなじみ「ハード・タイムズ」なのだった。ジェイムズ・カーターがアルトでメロウかつファンキーなソロをぶちかます。2曲目はかなりエグいアレンジの「フリーダム・ジャズ・ダンス〜リズマニング」でシンディ・ブラックマンのドラムが炸裂する。一種の集団即興で全員が同時にソロを取るパートが多い。各奏者の思惑が複雑にからみあってタペストリーのようになり、めちゃくちゃ盛り上がる。しかし、リズマニングがどこに出てきたのか、何度か聞き返したがよくわからなかった(ライナーを読むと、まあ疑問は氷解するのだが)。最後の方はマイケル・マーカスのサクセロソロになる。3曲目はマイケル・マーカスの作曲、アレンジによるファンキーな曲で、バスサックスのヴァンプが効いている。「世界戦争」という意味真なタイトルだが、いろいろな要素が詰め込まれている。カシウス・リッチモンドのアルトソロがフィーチュアされるが、ジェイムズ・カーターのバリトンもずっとソロをしてるようなものである(後半はバリトンソロになるがこのソロが循環呼吸も使ったかなり強烈なもの。ブラックマンのドラムもはじけている)。いやー、すばらしい演奏です。最後に一旦仕切り直す感じでクールにアンサンブルを吹くあたりもかっこいい。4曲目は「モンクス・ムード」で、アレックス・ハーディングのバリトンが主導するアンサンブルだけの曲だが、めちゃくちゃいい。マイケル・マーカスのアレンジが冴えわたっているが、それぞれのサックス奏者の個性まで感じられるような演奏で、アドリブとかがなくても、これぞ「ジャズ」のサックスアンサンブルという感じ。5曲目は「イン・ウォークド・J.C.」というフランク・ロウの曲で、おそらくはこのJ.C.はジェイムズ・カーターのことではなくジョン・コルトレーンなのだろうな、と思っていたら、そうではなくてやはりフランク・ロウがジェイムズ・カーターに捧げた曲だそうです。先発ソロのフランク・ロウはやや元気がない感じもするが、つづくカーターがそれをおぎなうぐらい張り切った演奏を繰り広げる。ええ曲です。6曲目はスローブルースで、アレンジもめちゃくちゃかっちょいい。「ホンキン・ファッツ」という曲名だが、作曲者マイケル・マーカスがベイエリアのブギウギピアニスト、ダグ・ヘラルドに捧げたものらしい。マーカス自身のサクセロソロのあとボビー・ラベル(エリントンに在籍したひとらしい)のテナーソロ、そしてカシウス・リッチモンドのアルトソロがフィーチュアされる。ブラックマンのドラムもいきいきとしている。7曲目はフランク・ロウの曲で「ロウ・ダウン・アンド・ブルー」という曲名だが、タイトルから想像するような曲ではなく、リズミカルではじけるような演奏。フランク・ロウのテナーとマイケル・マーカスのバスサックス、そして躍動感あふれるシンディ・ブラックマンのドラムというトリオによるシンプルな編成の演奏。本作中いちばん小編成の演奏かも。フランク・ロウはここで独特の音色とフレージングで真価を発揮する。そのあとマイケル・マーカスのバスサックスソロになる。8曲目はカシウス・リッチモンドの曲で、ゴスペルのような分厚いハーモニーのルバートなテンポではじまり、途中でドラムが入ってインテンポになる。ボビー・ラベルのテナーが熱くブロウし、そのあとその熱気をジェイムズ・カーターが引き継いで凄まじい演奏になる。シンディ・ブラックマンのドラムも熱狂的だ。そのあと一瞬クールダウンしてマイケル・マーカスのサクセロソロになる(これをクールダウンといっていいのか……音色だけの話ですが)。最後はフランク・ロウのうねるようなうめくようなテナーソロになり、ドラムとのめちゃくちゃ対決になる(ほんまにこの部分はすごい!)。カラフルかつパワフルなドラムソロのあとテーマに戻るが、このタイトル、だれに対するトリビュートかというと、「アフリカン・アメリカン・ミュージック」へのトリビュートで、チャーリー・パーカーからジョン・コルトレーン、ブルーズシンガーから木陰で自分のこどもに可愛い曲を歌う奴隷、そしてエリントンとストレイホーン……に捧げたものだという。ラストの9曲目は六人のサックス奏者のうち3人がテナーを使用、という演奏で、ジェイムズ・カーターがテーマを主導するアイラーの「ゴースト」。途中フリーキーで混沌とした世界が現出するが、その部分も含めてめちゃくちゃかっこいい。そして、シンディ・ブラックマンのブラッシュもすばらしい! 傑作であります。スペシャルサンクスのところにクインシー・ジョーンズの名前があるが、本作はクインシーのレーベル(クエスト)から出ているのでした。なお、本作はこのグループのオリジナルドラマ―であるフィリップ・ウィルソンに捧げられている。