「BENEATH THE SURFACE」(NILVA RECORDS NQ3408)
BILL SAXTON
まさにSAXを吹くために生まれてきたような名前のビル・サクストンだが、あちこち(ラウドマイノリティとかチャールズ・トリヴァービッグバンドとか……)で名前を見かけるので、もっとリーダーアルバムはたくさんあるのかと思っていたら、どうやら初リーダー作である本作を含めて2枚(?)ぐらいしかないらしい。自分の店もあるらしく、どうやらジャズ馬鹿、サックス馬鹿のひとりのようだ。そのマイナーっぽさ、マイナーななかでのメジャーさ加減は、立ち位置としては微妙で、もっと評価されてバリバリレコードも吹き込んでもいいのにと思う。昔なら、日本に来たときに日本制作のアルバムぐらい作ってもまったくおかしくないぐらいの実力がある人だと思う。このレコードは、たぶん発売されてすぐに買ったように思うが(ディスクユニオンが当時やっていた、輸入盤に日本語のライナーを挟み込むというやり方)、当時の感想は、ちょっとがさつで大味なコルトレーン系のテナーというものだったように思う。ブレッカー、リーブマン、グロスマン、ラバーベラ、アラン・スキッドモア……といった、コルトレーンの奏法やフレージングを狂気を感じるぐらい徹底的に分析してみずから体現せしめたような異常者たち(?)とちがい、もちろんフレーズなどの研究もしているのだが、それ以上にコルトレーンの精神というか音楽観みたいなものを表現するタイプ……といったらいいのか。これはかなり私感が入った意見だが、彼らのだいたい共通項としては、黒人が多く、はじめからフリーインプロヴィゼイションをやろうとしているのではなく、ソロの途中で昂揚してくるとやむにやまれぬ感じで次第にフリーキーになっていく、また、ドラムとのデュオをやりたがる、ソプラノの音程がいまひとつ、曲のタイトルに愛とか精神とかを入れがち、バップもできるところを見せようとするが、それは本当にバップが好きというより、黒人音楽としてのジャズのルーツを探る的な意味合いからそういうものも取り上げる……そんなところだろうか。偏見入ってるって? そらもうめちゃめちゃ偏見だとはわかっていますが、そういうテナーのひといますよね。本作の主人公であるビル・サクストンは今あげたうちのかなりの部分に当てはまっているという点ではこの「派」の代表選手といえるだろう。しかし、今回久々に聴き直してみると、昔感じた「がさつで大味」というのはまったくちがっていた。めちゃめちゃうまいやん。これなら十分です。ドラムのアルヴィン・クイーンのレーベルから出ている作品だが、そのアルヴィン・クイーンのドラミングが凄まじく、それに一歩も引かぬサクストンの腰の据わったブロウはなかなかすごい。ビブラートがきつすぎる、とか、ソプラノの音程がいまいち、とかいった枝葉末節のことは気にならなくなるぐらい、雰囲気のある演奏ばかりが収録されている。太い音色で豪快にスウィングするサクストンのプレイは、つまらないこまごました批判をねじ伏せるだけの説得力がある。悠揚迫らぬ、というよりも、若さゆえの熱い暴走もあり、聞き応え十分。ジョン・ヒックスのピアノもよろしゅおます(全曲参加ではない)。