alexander von schlippenbach

「LIVE IN JAPAN 1996」(DIW RECORDS DIW−922)
BERLIN CONTEMPORARY JAZZ ORCHESTRA

 用事で小倉の劇場に行ったとき、ホールの向かいにあった小さな中古屋で買った。リーダーやメンバーから、グローブ・ユニティみたいな感じかなあと思っていたらまるでちがっていた。シュリッペンバッハと高瀬アキによるコンダクションのもとで演奏されるオーケストラだが、バンド名に「ジャズ」とついているのがなんとなく重い。聴いてみると、たしかにジャズだった。副島さんがライナーで「ジャズの本道を行く」と書いているがそのとおりで、良くも悪くも(と書いてしまうが)ジャズだった。テーマも構成も狙いもすごくかっちりしていて、ソロイストが入れ替わり立ち代わり登場してすごく短いソロを吹くので、ソロイストは最初から完全燃焼のソロを要求される。これはジャズのビッグバンドの考え方だと思う。ある意味このバンドのやり方は、サドメルやギル・エヴァンスよりもかっちりしていると思う。だらだらしたり、なにかを手探りしたりしているいとまはない。そういう意味で、グローブ・ユニティとは対極にあるといっていい「プロを集めたジャズビッグバンド」だと思った。また、大勢のソロイストが並ぶためなのかどうかわからないが、アレンジも、いろんなものをそぎ落として非常にシンプルになっている。だから、短いなかにさまざまなものが凝縮されていて、うっかり聴いていたら聞き逃す。全体に演奏はすばらしい。コンポジションもアレンジもソロも超一級。でも、ときどき挟まれる無伴奏ソロの部分を含めても、「フリー」というより、(何度も書くけど)「ビッグバンドジャズ」を聞いた、という感じ。だから、グループ名の「コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ」というのはたいへん正しいネーミングだし、副島さんの「ジャズの本道を行く」という言葉も皮肉でもなんでもない素直な感想だとわかる。1曲目は、ドルフィーの曲3曲をメドレーというよりひとつの組曲として再構築した作品で高瀬アキのアレンジ。テーマと各ソロのサンドイッチのような展開の曲で(ただし、テーマは一回ずつ微妙に表現が変えられており、そのあたりの芸が細かい)、冒頭いきなり、30秒もたたないうちにはじまるゲルト・デュデュクのコルトレーン的なソロ、4ビートになって五十嵐一生のハードバップ的なソロのあと、だれだかわからないサックスソロ(林さん?)がちょろっとあって、ポール・ラザフォードの比較的長いドラムとのデュオでやっと落ち着いて聴ける雰囲気に。つまり、短いジャズ的なソロとこういうインプロヴァイズド的な長尺のソロをちゃんとアレンジのなかで対比しているわけだ(と思うのですが。でないと、ちょろっとしたソロの意味合いがわからない)。ポール・ラザフォードは惜しくも亡くなってしまったが、私は大好きなのです。続いて林栄一の循環呼吸炸裂の無伴奏ソロでここは圧巻。林さんのソロのラストでテーマが出て、「シリーン」というバラード風だがじつはブルースへと受け継がれる。ここはクラリネットアンサンブルをバックに、一転して林さんがドルフィー的なソロを展開し、そのままクラリネットアンサンブル+バリトンのアンサンブルからピアノが9拍のベースラインを弾きはじめ、それをキープしながらの、高瀬アキとシュリッペンバッハのふたりのピアノデュオ(和気藹々としている)になる。だんだん崩れていったところへバスクラがベースラインを引き継ぎ、そして全員でのテーマになる(かっこいいねー)。高瀬アキとバスクラ(たぶんルディ・マハール)のデュオになり、バスクラは激しく吹きまくるが、ピアノはクールで、常にテーマを意識した弾き方のなかで暴れまくっている。いいっすね。そしてまた全員でのテュッティ的なテーマで幕を閉じる。2曲目はシュリッペンバッハの曲で、ライナーによると「二台のプリペアードピアノ」だそうだが、ほとんど人力とは思えないリズミカルな激しい繰り返しがベースとなっており、そこにホーンが吹き伸ばしで乗っかってくる。いわゆるトレインピース的にも聞こえる。混沌としているようだが、ぐじゃぐじゃの部分と決められたリフが同時に鳴っている。そこからトロンボーンがリズミカルなラインを吹いたり、即興と計画的なリフがまぜこぜになって展開していくが、基本的にはトレインピース的なゴンゴンゴンゴン……という進行感は維持されたまま集団即興っぽくなる。そのパートを抜けると(変な言い方だが)またプリペイドピアノによる鉄道的なパートになり、そこへまた管楽器がかぶさってきて9拍子のリフを(わざと)雑っぽく吹いたりして、これはどうなるのかな……と思っていると、複数のトロンボーンが主導する部分を吹き伸ばしのリフがバックアップするような展開になり、重厚な金管楽器の世界になる(そのあいだもずっとピアノのコンピング的なものは維持されていて、つねに何層もの構造になっている)。そして金管楽器たちが引き潮のごとく消えていったあと、エヴァン・パーカーがいつもの循環呼吸による無伴奏ソロをはじめる。ここはピアノもなくなるが、パーカーのソロにおいて、これまでずっと継続されていた例のテンポは維持されている(これはかなりの超絶技巧かも)。パーカーとしては相当短いソロが終わり、またさっきの展開に戻り、しだいに失速して(これも、列車が停止していく雰囲気を表しているのか?)終了。3曲目は高瀬アキの曲でタイトルも「詩情の愛」というところからもわかるようにコルトレーンの曲へのオマージュ。片山広明のバリトンサックスが「至上の愛」パート1のテーマを模したような低音リフを吹いてスタートし、そこに乗ってくるのは「至上の愛」とは180度ちがう楽しく明るい雰囲気のテーマ。片山がテナーに持ち替えて吹き出すが、これもかなり短い。雰囲気が変わって、トーマス・ヘベラーのトランペットがすごいハイノートでソロをはじめ、そこにべつのトランペットがでかい音でリフを吹きはじめる。ヘベラーとトロンボーンのワルダー・ウィーボス、佐藤春樹、ベースの井野信義の4人が主体の即興になり(ライナーによると、たぶんそう)、ドラムやピアノなどが次第に加わっていき、集団即興になるのかな……と思っていると、またトランペットがでかい音でリフを吹きはじめて終息。そして最初のテーマに戻る。4曲目はWCハンディの「ウェイ・ダウン・サウス・ホエア・ビガン」というブルースで、テーマを(たぶん)五十嵐一生がウィントン・マルサリスのように古典的なニューオリンズトランペットを思わせるようなグロウルした吹き方で歌い上げる。そのあと一転して軽快なテンポでニューオリンズジャズのパロディ的な、いや、パロディというか真剣な模倣というべきか、とにかくそういった演奏になる。途中でノイジーな音も交えてルディ・マハールのクラリネットソロになり、ライナーによるとゲルト・デュデュクの柔らかい音のバリトンサックスソロになるのだが、デュデュクはバリトンを吹いていないことになっているので、ここは本当はだれなのかよくわからない。バリトンとクラリネットが混在したあと、第二テーマが現れ、そこから最初のテーマを解体したようなアレンジのパートへ突入する。こういうのはちょっとよくわからん。最後は絶妙なアレンジの楽しさを聴くようなコーナーで、2ビートでハッピーにテーマを奏でて終了。5曲目はシュリッペンバッハの曲で、なかなかハードボイルドでかっこいいテーマの4ビートジャズ。非常にストレートアヘッドな演奏で、シュリッペンバッハによるライナーには、ソロイストはゲルト・デュデュク、ワルター・ガウシェル、ヘンリー・ロウサーと書いてあるが、そのまえにふたりソロがある。先発ソロはトロンボーン(だれ?)で二番手は林栄一のアルト。3番手はテナーだが、これがゲルト・デュデュクで、途中からワルター・ガウシェルにチェンジしているのだと思う。一種のテナーバトルみたいになって、そのあとヘンリー・ロウサーのちょっとやり過ぎぐらいにものすごくジャズ的で生真面目なトランペットソロになる。バッキングのリフが入り、そこからテーマになってエンディング。最後の5曲目は「グッバイ」という曲で、ベニー・グッドマンのためにゴードン・ジェンキンスが書いた曲だというが、プランジャーが使われたり、分厚いハーモニーが動いたりと、非常にエリントンを思わせるようなアレンジがほどこされていて、テーマをゲルト・デュデュクのテナーが朗々と歌い上げてめちゃくちゃかっこいい! いやー、これはええわ。というわけで、傑作だと思いました。それと、もうちょっと現代音楽とかフリーに近いのかと思ってたら、ほんとに「ジャズ」オーケストラだったのでびっくり。