「ALDER BROOK」(LEO RECORDS CDLR379)
EVAN PARKER & SEPTEMBER WINDS
めちゃくちゃ凄かった。エヴァン・パーカーの名前が先に出ているが、ピーター・A・シュミット率いる管楽器即興集団セプテンバーウィンドがエヴァン・パーカーと共演したものだと思う。まえに聴いた「セプテンバー・デュオ」というのはパーカーの項に入れたが、あれもシュミットの項に入れるべきだったかもしれない(対等のデュオだったと思うが、タイトルが「セプテンバー」とついてるから、シュミット主催のイベントだったはず)。ライナーによると、彼らはパーカーを招いて、巨大な水道施設(たぶん、からになった浄水場みたいなとこ?)で演奏しようとしたが(ヴェルナー・リュディのダムでのソロアルバムなどが例として挙げられている)、おそらく消防法の許可がおりなかったらしく、イベントは中止になった。しかし、その副産物として本作をはじめとするアルバムがいくつか作られた(2枚組の「セプテンバー・ウインズ」というアルバムと、短い曲ばかり集めた「ショート・ストーリー」というアルバムも出てるが未聴。聴かなくては!)……という経緯がライナーに書いてあるような気がする(字が小さくて読めん)。まえの「セプテンバー・デュオ」もすごかったが、本作はそれにもまして凄まじい演奏ばかりで、即興好きのひとは聞きのがすことなかれ! と大時代的な表現で言っておこう。非常にクラシカルなテクニックがしっかりしたひとたち(シュミットは、ジャズも現代音楽も学んでいるらしい)が、それを踏まえたうえで乗り越えての即興表現なので、なんというか、ノリとかかっこよさとかファンキーさ、ブルース臭、民俗音楽がなんちゃらかんちゃら……みたいなものを一切排除し、ひたすら「管楽器が発する『音』」による純粋なぶつかりあい、重なり合い、裏切り合い……などを追及している、ある意味異常性、偏執性を感じる音楽になっている。とにかく全員がすごいテクニックで、たがいの音を聴きあいながら、音をものすごいスピードでぶつけてきて、それが衝突してハレーションのようになる。その全過程が聴けるのだ。これはスリリングですよ。しかし、やはりパーカーの個性は突出していて、彼らに真っ向勝負を挑んで一歩もひかない(もちろん音楽的には融和しまくりで茫洋とした部分や幻想的な部分も多多ある)。とにかくパーカーもシュミットも、ほかのメンバーも、相当の気合いのもとに臨んでいるような、そんなテンションがひしひしと伝わってくる。ところどころでそれぞれのソロがあったりして、見せ場も十分で、曲によっては全員が参加していないものもあり、いろいろな組み合わせが楽しめるのだが、なかでも興味深いのはパーカーがなんとチューバックスを、シュミットがコントラバスクラリネットを吹いてのデュオで、いやー、えげつないにもほどがありますなー。これはほんまにすごい。パーカーはチューバックスなんかほぼ吹いたことがないと思うが、完璧な吹奏である。やるなあ。サックス〜クラリネット好きはみんな聴こう!
「SHORT STORIES」(LEO RECORDS CDLR 428)
EVAN PARKER & SEPTEMBER WINDS
エヴァン・パーカーとセプテンバー・ウインドの共演盤は何枚かあるが、これはほかのものとはちょっとちがった趣向で、タイトルが示すとおり、一曲一曲が非常に短い。そして、その短いなかにぎゅーっと凝縮された個々の演奏がたいへん効果を上げている。ライナーを見ると、CDのランダム機能を使え、というアドバイス(?)が書かれていて、私も何度目かに聴いたとき、そうしてみたが、なるほどランダム再生するとまたべつの楽しさがある。そういう狙いがあるのだろう。どのようにして行われたか、というあたりのことが長文のライナーに延々と書いてあるが、目が老眼入ってきてるので途中で投げ出す。独自のルールに基づいた一種のゲームミュージックなのかもしれないが、まあ、そんなことはどうでもいいじゃないですか。あいかわらずセプテンバー・ウインドの面々は楽器コントロールが最高で、聴いていてめちゃくちゃ気持ちがいい。これはとても重要なことで、楽器の鳴っていない、音程の悪い、へたくそな演奏が「良い」場合もあるけど、楽器が鳴りまくり、音程がばっちりで、アーティキュレイションが見事な演奏のほうがいいに決まっている。どれがエヴァン・パーカーかとか探しながら聴くのはあまり意味のあることではないかもしれない(テナーが出てきたらまちがいなくパーカーなのだが)。どのひとも最高に上手いので、そのブレンドを楽しみたい。正直言って、23曲も入ってて、どれもとても短い演奏なのだが、あまりにクオリティが高く、密度も高いので、あまり「短い」気がしないのだ。コンポジションというより、なんらかの「指針」みたいなものに基づいての即興ということだろうが、完全に譜面に書いてあると言われても納得するようなレベルの、凝縮されたすばらしい管楽器アンサンブルが幕の内弁当のようにぎっしり詰まっている。たとえば、前作同様、シュミッドもパーカーもコントラバスサックス(テューバックス)を吹いている曲があるのだが、ノベルティな感じからはほど遠い完璧な演奏でちょっと感動する。バスクラにせよエスクラにせよタロガトにせよ、技術的にはほんと完璧だと思うのだが音楽的にも最高で、もうヤバいぐらい。いやー、変態も変態、ド変態です。あらゆる技術が変態的な音楽に奉仕している。唯一の金管として参加しているトロンボーンがまた大活躍なのである。アルトのひとがときどきダーティートーンでしゃくりあげるようなプレイをして、ちょっとジャズっぽい。またしてもこのグループにやられました。傑作やーっ。