「ERIC AND EARL」(GATEMOUTH RECORDING COMPANY GATEMOUTH 1003)
ERIC SCHNEIDER & EARL HINES
エリック・シュナイダーはシカゴのひとだ。カウント・ベイシー・オーケストラのテナー奏者として突如来日したエリック・シュナイダーだが、そのときまでおそらく一部の好事家しかその名前は知らなかったと思う。私もぜんぜん知らんかった。若い白人が、ケニー・ヒングに代わってメインのテナー奏者(ベイシーバンドにおいてはかなり重要)としてやってきて、ぶりぶり吹きまくったのだから驚いたのである。上手いし、スウィングもバップもなんでもできるからピンチヒッター的に起用されたのかも、という疑い(?)はこのアルバムで晴れた。筋金入りのオールドジャズのひとなのだ。なにしろあのアール・ハインズをサイドマンにしてリーダー作を吹き込んでいるのだから。この「ゲイトマウス」というレーベルは、ほかはだいたい硬派なニューオリンズジャズを出していて、そこがこの白人の若手を起用するのだから、たいしたものである。「エリックス・アレイ」というリーダー作も同じころに吹き込んでいるが、たしかそれはもうちょいバップ寄りだったと思う(なぜか手元に見あたらない)。リーダー作は今に至るまでその2枚だけのようだが、たくさんのアルバムに参加している(ベイシーオーケストラの諸作やサー・チャールズ・トンプソンのリーダー作なども含む)。そして、驚いたのは、本作はてっきりオールドジャズに敬意を表するエリックがアール・ハインズをゲストとして招いて吹き込んだものと思っていたが、そうではなくて、どうやら3年ぐらいハインズのバンドで一緒にツアーをしていたらしい(もしかすると本作での共演がきっかけでバンドに招かれたのかもしれないが)。ベイシーバンドで私が何公演か見たテナーもいいが、ここではアルトがかなりいい感じである。アルトもテナーも音が良くて、とくにアルトはパーカー以前の芯のある明るい音色だ。かなり意識しているのだと思う。フレージングもスウィンギーに溌剌と歌いまくり、音のベンドの仕方などもスウィング時代のアルト奏者を彷彿とさせてすがすがしい。ハインズはこの録音の4年後に亡くなるが、晩年といってもヨレヨレさは微塵もなく、ばりばり弾きまくっていて、まさにタイトルどおりエリックとアールはがっぷり4つ、という雰囲気である。選曲も、もうおなじみの素材ばかりだが、安易に選んでいるわけではなく、楽しませる気十分のラインナップである。1曲目の「イン・ナ・メロートーン」も冒頭からビューン! とアルトが飛び出してきて「おおっ」となるし、ハインズのバッキングも気合いが入っている。エリックのソロはけっしてあわてることなくマイペースではあるが、スピード感もあり、物真似ではなく、本当にすばらしい。インタビューで「クリス・ポッターとか聴くとすごいなあと思うけど、私はやっぱりジーン・アモンズやベン・ウエブスターの方が……」と言ってるだけのことはある。バーレット・ディームズというドラムのひともじつにこういう音楽を心得ているように思う(ずっと4つ打ちをしている)。2曲目「メモリーズ・オブ・ユー」はハインズの無伴奏ソロではじまり、たっぷり弾いたあとエリック・シュナイダーのテナーが加わってデュオになる。サブトーンを駆使しまくった見事な演奏で、たぶんだれもがベン・ウエブスターを連想するのではないかと思うが、楽器コントロールといい、情感の表現といい、文句のつけようがない。3曲目「オール・オブ・ミー」はアルトで、短いソロスペースのなかで歌いまくる。ハインズも個性の塊のようなソロ。そのあとドラムとアルトの4バースになり、ここでもエリックは無理矢理16分で吹きまくったりせず、きっちりスウィングする。4曲目はビリー・エクスタインの(ですよね?)「セカンド・バルコニー・ジャンプ」。アール・ハインズが先にソロをするが、弾けるような、華麗な、しかもごつごつした感触もある個性豊かな演奏。つづいてエリックはテナーでブロウするが、歌心で勝負している感じ。5曲目はアップテンポの「シャイン」で、このめちゃくちゃ速いリズムでもハインズはまったく乱れることなくバリバリ弾きこなす。エリックはアルト。ちょっとベニー・グッドマンのクラリネットを連想するようなノリとフレーズがドドドドド……と押し寄せてきて、異常に盛り上がる。B面に行きまして、1曲目はエリントンの曲だそうです。「シャーマン・シャッフル」という循環の曲。エリックはテナーで豪快にぶちかます。ハインズも、例の独特のノリでほかに類を見ないようなソロ。そして、なぜかそのあとエリック・シュナイダーが再登場して今度はアルトでファンキーにブロウする。なんで持ち替えたのか、とか、最後の一瞬のドラムソロはなにか、とか、ちょっと変わった構成の演奏ではある。2曲目は「ニアネス・オブ・ユー」でアルトが絶妙な音色で切々と歌う。このベンドとビブラートはもう、たまらんなあ。これだけの実力があれば、そりゃさすがにアール・ハインズもベイシーも「レギュラーになってくれ」と言うわなあ。こんなすごい才能がスコット・ハミルトンやハリー・アレンのように大スターにならなかったのかさっぱりわからん。楽器コントロールも完璧で、完全に自分のやりたい音楽を把握しており、それをどう表現すればいいかわかっている。これ以上の強みはないはずなのだが……。3曲目は「アナザー・ユー」で、本作はこれで「ユー」のつく曲が3曲……そんなことはどうでもいいのだが、エリックはアルトで、テンポもけっこうゆったり目でじっくり聴かせる感じ。ラストの4曲目は「ストラッティン・ウィズ・サム・バーベキュー」で、デキシーやスウィングではおなじみの曲だが、モダンジャズ以降はほとんど演奏されないのではないか。ええ曲なんですが(こないだ、ギル・エヴァンスのオーケストラ作品で聴いたけど)。エリックはアルトを快調に吹きまくり、それをハインズが自分のソロのようにがんがんからみまくるようなバッキングをしていてすごい。ハインズのソロのあとふたたびエリックがアルトを吹きまくるが、途中で転調してなかなかかっこいい。エンディングもお見事。いやー、スウィングジャズかくあるべし、といった内容です。本作は初リーダー作でもあり、ハインズとの共演ということもなって、きっと緊張もしただろうが、案外のびのびと自分を出しまくっている感じのシュナイダーの代表作なのである。傑作!