david schnitter

「INVITATION」(MUSE RECORDS MR5108)
DAVID SCHNITTER

 かつてめちゃくちゃはまったテナー奏者。といっても、このひとが本作を含むリーダー作4枚をミューズから立て続けに出してバリバリ活躍していたころは知らず、大学を卒業したころにフレディ・ハバードやジャズ・メッセンジャーズの旧作などでその演奏を耳にして、本作などを探して聴くようになったのだ。ハバードや(一般に不遇時代と呼ばれるようなころの)メッセンジャーズ、ウディ・ショウなどの70年代黒人主流派最先端の人たちなどに混じって活躍していた人であって、そのエッジのたったトーンやアーティキュレイション、コルトレーン的なモーダルな表現とハードバップ的なコード分解のフレージングの両方ができるひと……ということで、もろに私の好みのテナー奏者なのでありまして、本作でもミッキー・タッカーら手堅いピアノトリオをバックに吹きまくっている。1曲目の「インヴィテイション」はテナー奏者好みのテーマ音域とコード進行を持った、いわゆる「実力の見せ所」的な曲で、これをタイトル、1曲目に持ってきたあたりが彼の自信のほどをあらわしていると思うが、演奏もすばらしい。2曲目の「ブルー・モンク」では、モダンなスケールを使ったフレーズをこれみよがしに強調したり、フラジオを激しくヒットさせたりしながらも、すべてを「歌」につなげていくあたりの見事さは、この録音時まだ20代だったシュニッターのサックスコントロールの技術力と音楽性を示している。なによりも、速いテンポや、バラードのダブル、トリプルテンポでもまったく崩れない、均等にスケールやフレーズを吹ききる力や、その歌心、そして、低音の安定感、高音の伸びなどが聴いていて惚れ惚れするぐらいかっこいいのである。本盤では全曲でそのうまさが堪能できるが、とくにB面1曲目の「ボディ・アンド・ソウル」では、この手あかのついたバラードを、なんのギミックを使わずに、正統的に真っ向から処理しながら、あれよあれよと彼の世界に連れて行ってしまう演奏は、あらゆるテナー吹きの模範となるものだと思う。ラストのカデンツァを含み、すばらしい構成力で吹ききった、同曲の最高のバージョンのひとつだと思う。つぎの「ドナ・リー」も、テナー奏者にとってはひとつのチャレンジだが、堂々たるプレイ。ラストの曲は本作で唯一のシュニッターのオリジナルであり、ブルースだが、これがめっちれ心地よいのなんの。こういうミディアムのブルースをやらせても絶妙にうまいのである。フレディ・ハバードやブレイキーが全幅の信頼を置いていたのがわかるわかるという感じの、ものすごく「心得た」演奏である。バップフレーズを基本に、ときどきちょい外し気味にしたりして「聴かせる」のだ。しかもダブルテンポでの圧倒的なフィンガリングと歌心は、まあ、聴いたひとはたいがい口をあんぐりとあけるにちがいない。これだけうまいひとが80年代に入るとほとんどその動静を聴かなくなってしまうのだから不思議なもんだ。このあたりの事情はうといのでわからないけど、2001年に突然、「スケッチズ」というCDで復活(?)する。トランペットと2管で、ピアノレスのカルテットというその編成や、なによりジャケットの写真を見て、これは同名異人だと思った(写真が白人に見えた)。しかし、聴いてみると、まぎれもなくシュニッター本人で、その後2007年にもピアノレストリオのアルバムを出したり(これは聴いてない)、ライヴ盤をリリースしたりするのだ。すでに60代半ばになってからの復活(?)だが、ええこっちゃがな、と思います。とにかく本作をはじめとするミューズでの4枚はどれも傑作なので、とくにテナー吹きのひとは聴いたほうがいいっすよ。

「THUNDERING」(MUSE RECORDS MR5197)
DAVID SCHNITTER

 上でも書いたが、そのミューズでの1枚。本作でも、ケニー・バロン、セシル・マクビー、ビリー・ハートという(今から考えると)そうとうの猛者たちを従えて吹きまくっている。ゲストとしてそれにくわえて、あのギルヘルム・フランコをパーカッションに、テッド・ダンバーをギターに迎えるという鉄壁の布陣で、聴く前から傑作だとわかるような作品。ミューズにおける3作目で、1,2作目に比べるとメンバーがかなり豪華になっていて、レーベルがシュニッターによせる期待がわかるような気もする。1曲目はサンバっぽい曲調で、どちらかというとバップ的ではなく、モダンな雰囲気だが、こういう曲でももちろんシュニッターはよどみなくフレーズをつむいでいき、それをパーカッションが絶妙に煽る。2曲目は大スタンダードの「スターダスト」で、冒頭の粘るような吹き方からして、「うまいっ」となるバラードのお手本のような演奏。何度も書いているが、私が「お手本のような」と書くのは、教則本的なしょーもない演奏という意味ではなく、文字通り、テナー奏者みんながコピーしたり、真剣に聴いて、手本としたらええのに、というつもりで使っています。この曲でも、サブトーンをまじえた音色、テーマの崩し方、ときどき入れるモダンなコード感(ちょっと外した感じになる)など、まさしく学ぶべきことが山のようにある演奏で、ほんとすばらしいです。3曲目はジェームズ・ウィリアムズの曲で「フライング・カラーズ」(リッキー・フォードもやってたっけ?)。アップテンポのサンバで、ホイッスルが鳴り響くなかシュニッターがブロウする。シュニッターの演奏を聴いていると、コルトレーンなどの影響はもちろんだが、デクスター・ゴードンを思わせる部分がちょいちょいあるが、B−1はそのゴードン(アモンズや国仲勝男も)も取り上げていた「カプランガ」。悠揚迫らぬテンポのゆったりしたテーマが終わると、最初こそその空気を壊さぬように吹いているが、途中からヒートアップしてバリバリ吹きまくり、ブロウしまくるシュニッターが好き! 「スターダスト」とともに本作の白眉といえる快演。つぎのブルースはミディアムテンポなので、シュニッターというひとの変態ぶりというか、変なスケールをしっかり強調する癖(?)みたいなものがよくわかる。あまりに見事なので聴き惚れる。ビリー・ハートも凄い。ラストは、なぜか突然シュニッターがジャズボーカルを歌います(「カプランガ」でも歌ってるが、それは叫びというか民謡みたいなもの)。なんじゃこりゃー。ほんと、それだけの演奏で、どうしてもやりたかったのか。そうかそうか。なおミューズ4作目の「グローイング」は、本作の録音時の残り曲に、新録を足したもの。