takero sekizima

「星の栖家」(OFF NOTE/AURASIA AUR−3)
PLAYS COMPOSTELA

 船戸博史の「Q ON RADIO」と同じときに同じ場所でほぼ同じメンバーで録音されたライヴだが、こちらは「ロウ・フィッシュ」ではなく、「プレイズ・コンポステラ」というバンドらしい。リーダーもおそらく関島岳郎。バンド名がバンドのコンセプトを如実にあらわしているが、ようするにコンポステラの曲を演奏する、というのがグループの目的らしい。不思議なもので、同じ場所で同じメンバーなのに、「Q ON RADIO」とは明らかにちがった音楽になっており、メンバー的にもバンドコンセプト的にもこっちのほうがしっくりしそうな気がしていたが、実際に聴いてみると、「Q ON RADIO」のほうがずっと私の好みにあったのは不思議だ。もちろんこちらも悪くはありません。なお、「プレイズ・コンポステラ」というアルバムタイトルなのか、「星の栖家」というアルバムタイトルなのかもよくわからない。不思議なアルバムだ。ジャケットもすばらしい。

「関島岳郎 高岡大祐 TUBA DUO IMPROVISATION」
関島岳郎 高岡大祐  2021/08/29 吉祥寺 MANDA−LA2

 チューバデュオ。そんな演奏が成立するのか、おもしろいのか、ありえるのか……という意見もあるだろう。いわゆるフリーインプロヴィゼイションならばもちろんどんな楽器同士の共演もあると思うが、そういう世界に閉じこもったようなものではないのである。では、どういうものかというと、エンターテインメントである。チューバ2本でエンターテインメント? というと、なにを言うとんねん、とおっしゃるむきもあるかと思うが、本作を聴いて貰ったらわかるとおり、もう超絶かっこよくて、どひゃーっ! となるような演奏なのだ。それも、いわゆるチューバベースというかエレベの代わりをチューバがやるようなファンキーな音楽ではなく、あくまで自由で、あからさまで、ひたむきで、生々しくて、ふたりの生身の人間が音でもってやりとりする、その過程が延々収録されている。そこに感じられるのはふたりのミュージシャンの存在感であり、(当然だが)単にチューバ奏者をふたり並べたらこういう演奏ができるわけではなく、このふたりでしか絶対にできない演奏であり、このふたりがツアーを行って毎日共演したとしても二度と同じ演奏はないだろうと断言できる……そんな内容である。ここに収められている演奏が一期一会のシリアスなものである、ということは聴いたひとはだれしも納得すると思う。でも……エンターテインメントなのだ。私にとってこの演奏は楽しすぎるし、かっこよすぎる。おそらくはダンスミュージックとしても優れていると思う。どういう演奏かさっぱりわからない? それはですねえ、つまり……ぼぼぼぼぼ……どどどどど……だばだばだばだば……ずおおおお……みたいな感じです。このシンプルなワンコードから引き出される山河のように巨大な音楽はたとえばスメタナとか国民楽派の曲を連想したりする。すばらしい。最高! 度肝を抜かれた! もちろんこういった演奏はCDで聴くよりライヴで体感したほうがいいに決まっているが、コロナ禍その他でなかなかライヴに足を運べない私にとって、本当にありがたいリリースでした。感謝! サーキューラーをずっとやってるので、鼻から息を吸う音もリアルにとらえられているし、ハーモニーも狙った感じではなく自然に発声する倍音がオーケストラのように広がっていく。(高岡さんの演奏に関しては何度も言ってることだけど)吹奏楽やクラシックでチューバ(とか金管)をやっているひとにこそ聴いてほしい。1曲勝負の34分。傑作!