「WIND DANCE」(ATTACK DEER AD001)
TAKASHI SEO
自分の楽器からいったいどういう音が、いや、どういうものが引きずりだされてくるだろう……という興味はミュージシャンならだれでもあると思うが、瀬尾高志はウッドベースからたいへんなものを引きずり出してきた。それは、もちろん意図的にそうしようと思ったのだろうが、いろいろなものがどんどん出てきて、しまいには予想もしなかったとんでもないものがずるずると現れ出た……という感じだ。それは美しい大平原であり、吹きすさぶ暴風であり、流れ落ちる滝であり、恐ろしい闇の魔ものであり……自分との対話のなかから出現したそれらを瀬尾高志はていねいにつかまえて、吟味し、ふたたび放つ。正直言って、このアルバムはうちのしょぼいオーディオではその真価はわからないのだと思う。ジャズ喫茶のでかいスピーカーと最高のアンプによって再現されることで、おそらく瀬尾高志のこの傑作を真に味わいことができるのだろうと思う。ジャズバンドのベーシストの曲中でのソロを長く引き伸ばしたようなものとは根本的に違う、しかし、ベース一台でオーケストレイションを試みている、というようなものともちがう……ここにある演奏は、普段は伴奏に使っている、自分の相棒である楽器が目のまえにあり、そこからなにかを取り出そうとしたら出てきた……そういう素直な音であり、しかも、相棒であるウッドベースから取り出したつもりでいたら、それはじつは弾いている自分のなかから取り出したものだった……そんな音楽だと思う。ダイナミクス、迫力、奔放さ、繊細さ……なにを取っても凄い。前衛というにはあまりに自然すぎる。ただただかっこよく楽しい。内省的な部分も、シンプルに爆発する箇所もある。これがなあ……ベース一台だけとはなあ……はははは……笑うしかないぞ。しかし、ソロピアノのことを考えてみたら、ベースもこれぐらいの表現力があって当然なのかもしれない。演奏もめちゃくちゃ最高だが、録音もすばらしいし、ジャケット(レオナさんの手によるものらしい)もいい。こういうグレイトなベーシストがいる今の日本のジャズシーンは超ハッピーじゃないですか? 傑作!