andy sheppard

「INTRODUCTIONS IN THE DARK」(ANTILLES AN8742)
ANDY SHEPPARD

まあ、私の好み直撃ど真ん中の作品。アンディ・シェパードは最初に聴いたときに、なんととんがったことをしているのか、こいつはすごいなあ、これからはこのひとを聴かなきゃダメだ、と思ったが、そのあとキース・ティペットとのデュオによる「66 SHADE OF LIPSTICK」というアルバムを聴いてとにかくぶっとんでしまい、全然とがってない、いや、ある意味めちゃくちゃとがっているのか、ていうかとがってるとかとがってないとかどうでもいいじゃん、ということになり、現在に至っている。今でもバリバリやっているシェパードは、カーラ・ブレイとの演奏が有名だが、ほかにもたくさんのひととの共演盤があり、精力的な活動をたえまなく行ってきたひとで、私は知らなかったがアーバン・サックスとの共演盤もあるらしい。めちゃくちゃかっこいいジャケットの本作はリーダー作としては2作目に当たり、ジャケット同様中身もかっこいい。ゴリゴリなのに透明感があり、フォーキーでもあり、プログレ的な香りもする。A−1はシェパードの民族楽器的な笛がリードするアンサンブルによってはじまり、ちょっと「ウィッチ・タイ・ト」的な感じだが、イントロ的に終わるのかと思っていたら、しっかり1曲分ある長さの演奏だったので驚いた(今回聴き返したときも、そうそう……と思い出し、そして感銘を受けた)。そのあと(安易な表現で申し訳ないが)テナーによるECM的なサウンドが展開する。つまり、一種の長い組曲であり、A面全部を占めている。この演奏を一曲目に持ってきたのはシェパードの「俺はこれで行くよ」という宣言なのだろう。さまざまな場面が展開し、そこにはアメリカ的なジャズの要素も、アフリカ的な要素も、英国的なフォークソングの要素も……とにかくいろいろ混じり合い、ひとつの流れを作り出しているうえ、見事にすべてがコントロールされていてすごい。アンディ自身のテナーブロウもすさまじく、繊細、静謐なだけでなく、汗を流しながら渾身の咆哮をしているだろう様子も浮かんでくる。本当に才能の塊といった感じのひとですよね。B面は3曲入ってて、1曲目は超アップテンポでシンセが暴れまくる異常にカッコいい冒頭部でいきなり心臓を鷲掴みにされたあとベースなどのしつこいリフが繰り返されて、うぎゃーっ、かっちょええ! となる曲(わからんわな)。そのあと4ビートのテーマ(ものすごく複雑で凄い)。そのあとドラムとテナーの激烈なデュオになる。たぶん会社員になりたてのころ、このアルバムをはじめて聴いた私は、スピーカーのまえでしばらく失神していたような気がする。それぐらいとんでもないぐらいかっこいいのだ。こんな風に「かっこいい」を繰り返しても結局なにも伝わらないと思うが、まあ、「聴いてもらうしかない」、というのは私のような素人が書く音楽に関する文章につきまとう悲劇というか呪いなのかも。B−2はソプラノによる演奏だが、豊穣な音楽で、このひとはソプラノの鳴らし方もめちゃくちゃすばらしい。B−3は明るいラテンで、テーマのこのひねりかたがいかにもシェパードらしい。ソプラノによる、フュージョンといっても通るようなカラッとした演奏だが、じつは随所に変態的な要素が込められていて、楽しくも聴けるし、深くも聴けるという面白さ。傑作!