kazuto shimizu

「第一種」(TRAILIGHTS RECORD TRLT−0011)
GILGONGO

 ヒカシューのライブ物販で購入。めちゃめちゃかっこいい。シンセやエレクトロニクスが多用された音使いの演奏……と思っていたら、そこにアコースティックで切れ味のいいピアノが疾走したり、ピアニカ的なチープな鍵盤の音とエレベがユニゾンでめっちゃ複雑なラインを合わせたり、いやもう自由自在。3人ともすごいことはわかっているが、この3人が一緒にやるとここまですごいことになるとは……とあきれ返るぐらい、この出会いの親和性は最高だ。ドラムもベースもすごくて、とにかく「なんでもあり」だ。ハードロックやプログレ的な部分も、グルーヴというか凄いドライヴ感を感じる部分も、民族音楽的な部分もあるが(もっと細かいことをいうと、たとえばマイルスとかフリージャズとかキース・ジャレットとかECMとかロバート・グラスパーとか……とにかくめったやたらにいろいろな要素がぶち込まれてる感じ)、それらを踏み台にして、ものすごい個性によって凌駕している。曲もすばらしいし(バラエティ豊か)、言う事なし。いや、これはすごいんじゃないでしょうか。ひたすらかっこいいので、ただただ演奏に身を任せていればよいのだが、聴いているとなにか言いたくなってくる。ただ「かっこいいんだ」と叫ぶのではなく、こうこうだからかっこいいんだと言いたくなってくる。それは、だれかにこのかっこよさを言葉で伝えるときに、「とにかくいいから聞け」では伝わらないからなのだが、といって、なにがどうかっこいいのかを表現するのはむずかしい。とにかく、いいから聴け! ま、これでいいか。この突出したバンドを含めて、クラリネットで先カンブリアクラリネット四重奏団を、キーボードでヒカシューをやってるこのひとは天才か。変名ボーカルもいいですね。ぜひぜひライヴ、見たい。傑作です。

「先カンブリアクラリネット四重奏団」(AREPOSONGS PCCQ−003)
先カンブリアクラリネット四重奏団

 ヒカシューの物販で購入。いつどこで録音されたものかまるで記載がないので、新しいものかどうかもよくわからないが、といっていい加減な作りのアルバムではなく、ジャケットの古代魚たちの宴のイラストはめちゃ素敵なのです。サックスも使わない、クラリネット類のみの四重奏で、しかもアコースティックに徹した演奏なので、フリージャズやフリーインプロヴィゼイション的なものは(ほぼ)ない。というか、そういう要素はあえてていねいに除去されているのかもしれない(その道の達人たちなので、やるのは簡単)。木管の響きが美しく楽しい。一部、即興の要素はあるが、基本的に逸脱はなく、アンサンブルの範囲内での自由さである。しかし、すばらしい。このグループにおける前衛的、先鋭的要素はすべてこの「アンサンブル」に込められているのかもしれない。現代音楽的でもあり、かつ、ポップでもある。シンプルで楽しいマーチやミュゼットのパロディのような部分があったり、妙にクラシカルだったり、プログレっぽかったり……流麗であり、ときに(わざと)ぎくしゃくしていて、なにもかも心地よく聴き手は「木の響き」に押し流されていく。ぼーっと聴いていると、音圧や音色でのしげきが少ないせいか、いわむる「聞き流し」になってしまうが、ちゃんと向き合って聴くと、「うわーっ」と思う箇所が連発であり、どちらの聴き方もできるが、まずはとりあえず一度、真摯に向き合って聴くことをおすすめしたい(大きなお世話?)。これって、もしかしたらベースやドラムを入れたら、すごくドライヴする激しい曲だったりするのかな。テンポも一定ではなく、おそらく演奏するのはかなりの技術を要するだろうと思われる。こういうのを聴いてると、ああ、一度サックスアンサンブルやってみたいなあ、と思ったり、クラリネットを修理に出そうかな、と思ったりするわけだが、まあ、今のところはこのアルバムを何度も聴くことで我慢しよう。

「SPANNUNG」(CBZM RECORDS CBZM−02)
APOSTROPHE

 いやー、楽しいなあ。2ピアノ、1ドラムという面白い編成のトリオで話題になっていたのでどうしても聴きたいと思って購入。そんなおおげさなと思うかもしれないが金がなさすぎて、CD1枚買うのもめちゃくちゃ吟味しなければならないのだ。でも、本作は内容がわからぬまま購入したので、かなり大胆な行動であったが、いやー……大正解でした。まあ、このメンバーなら内容は保証されたようなものだが……。二台のグランドピアノとドラム、というが、武田理沙はシンセも弾くので、3人とはいえ、オーケストラのような演奏になる。しかも、アコースティックピアノの響きを最大限に引き出しているので、ジャズやプログレやクラシックが入り混じった(という表現もどうかと思うが)このサウンドになるのだ。プログレ的な冷徹な感じや、人間の息遣いがリアルに感じられるジャズ的な感じもあって、こうしてCDで聴いてもどっぷりとこの世界に浸ることができる。2曲入っているが、1曲目は45分を超える。2曲目はけっこうノイズな感じで始まって、かっこよすぎるフリージャズ的展開になる。この疾走感は「手に汗握る」というやつ。そこからのバラード。愛おしすぎるやろ! 何度聴いても新しい発見というか「こんな箇所あったっけ」と思えるような「即興演奏の宝石箱やー」と言いたくなる作品。折に触れて聞き返すと思います。傑作。だれがリーダーというわけでもないと思われるので、最初に名前の出ている清水一登の項に入れました。