「舜」(OHRAI RECORDS ORCD−006)
SHUNICHIRO HISADA
久田舜一郎という、伝統芸能の小鼓奏者が、ジャンルを超えての演奏。前衛と伝統は仲良しだ、と帯に書いてあるが、最初のほうを聴いた印象では「そうかな?」という感じだった。つまり、あまり仲が良くはきこえてこないということだ。ライナーノートに、共演の斉藤徹が、以前、久田さんと共演したとき、あまりにすさまじくて、気がついたときには、自分の爪が裂けて、血が飛び散っていた……という壮絶な経験について書いているのだからなおさらだ。どうも、そうは聞こえない。あくまで伝統音楽の枠内におさまったような演奏であり、どこに「前衛」があるの? どうやったらこれで爪がはがれるの? と思ったものだ。しかし、二曲目、三曲目と聴き進むにつれて、演奏はだんだん凄みをましていき、ラストの「疾中」という曲では、前衛も伝統もくそもない、すごいすごいすごすぎるっと叫びたくなるほどの圧倒的な音楽が展開される。おそらく、最初はとっつきやすいようにごくあたりまえの邦楽的なナンバーを、そして、だんだんこちらにたぐりよせて、最後にはドッカーンと……という選曲の順番になっているのだろうが、やはりここは、一曲目にラストの曲を持ってくるべきだったのではないか。それほど、すごいのである。聴き終えての感想は、鼓がどうこう、即興がどうこう、邦楽と前衛の融合がどうこう……というより、「人間の声」のすごさであり、それを支える邦楽的な「間」のすごさである。最後の曲まで、ちゃんと真剣に聴くこと。そこに楽園がある。