alan silva

「THE ALL−STAR GAME」(EREMITE MITE044)
ALLEN/DRAKE/JORDAN/PARKER/SILVA

 うーん、これはなあ……。メンバーはすごい。たしかにオールスターだ。ドラムがハミッド・ドレイクというのがまず心ひかれるし、ウィリアム・パーカーとアラン・シルヴァ(!)のツインベースというのもすごそうだし、フロントのふたりがキッド・ジョーダンとマーシャル・アレンというのもなんかめちゃめちゃだ。これは、きっとすごいにちがいない……と思って聴いてみたのだが、いまいち期待とはちがったものであった。買ったときに聴いて、そういう印象を持ち、今回、聴き直してみても、同じ印象だった。おそらく、理由はいろいろあって、まず、録音の問題。ドラムがすごくひっこんでいて、ハミッド・ドレイクのいつもの迫力とグルーヴが伝わってこない。ツインベースも、もこもこしている。フロントのふたりにいたっては、途中で右と左が入れ替わってしまう(おいおい……)。そして、演奏だが、6曲とも純粋なコレクティヴ・インプロヴィゼイションなのだが、ベースが「ずんずんずんずん……」と早いフォービートを刻むうえで、フロントのふたりが交互に叫ぶ、という展開のものが多くて、正直いって飽きる。マーシャル・アレンだけが、その、カミソリで切り刻むような雄叫びで存在感をアピールする。だから、3曲目あたりの、フレキシブルな展開のものになると俄然おもしろくなるのだが、それもこれも、古い古いフリージャズの技法にのっとったものなので、「おお、すごい」という感じにはなかなかならない。ただ、このアルバムのプレイヤーは、(ハミッド・ドレイクをのぞいて)全員、ジジイ、それもかなりのジジイばかりだが、ジジイどものパワーには圧倒される。音楽がどうの展開がどうの録音がどうのという問題ではない。聴き手である私は相当飽きているのに、やってるジジイどもは飽きることなく、ひたすら吹きまくる。いやはやおそれいりました。そういう老人パワーを聴いて土下座するアルバムなのかもしれない。なお、全員対等のアルバムだとは思うが、バンドというわけでもないので、ジャケット裏に「シルヴァとパーカーのデュオの第二集である」と書いてあるのを手がかり(?)に、アラン・シルヴァの項目に入れました。

「ALAN SILVA & THE SOUND VISIONS ORCHESTRA」(EREMITE MTE026)
ALAN SILVA

 アラン・シルヴァといえばセレストリアル・コミュニケーション・オーケストラだが、このアルバムはそれとはべつで「ビジョンズ・オーケストラ」名義である。これがめちゃくちゃ面白かった。学生のころ、「ルナ・サーフェイス」というセレストリアル……のたぶんもっとも初期のやつのレコードを聴いて、A面からB面までずーっとちゃらちゃらちゃらちゃら……みたいな感じの演奏が延々と続くだけで、かなりびっくりした。レスター・ボウイ、ジョセフ・ジャーマン、スティーヴ・レイシー、ロスコー・ミッチェル、ロビ・ケニヤッタ……といった有名どころでかためてるのに、ソロがどうたらこうたらというよりも全体としての表現なのだなあ、となんとなく感心したが、本当にわかったのかと言われると自信はない。ただ、しつこく聴き返していた。で、アラン・シルヴァというのはそういうひとかと思っていたら、本作はとにかく楽しくて面白くて、ある意味ICPみたいなところもあって、芸術でもあるがエンターテインメントでもあり、即興とコンポジションの枠組みが見事に一体となり、それがアラン・シルヴァのコンダクションによって導かれ、パワーを得、高みに達していく様子がまざまざと見てとれる。ディスクユニオンのメーカーインフォという欄によると、グローブ・ユニティは「スタープレーヤーを揃えながらも方位を欠いて混沌へと埋没していった」が、ビジョンズ・オーケストラはスタープレイヤーがいないのにこれだけの壮大なオーケストレーションを完成させた……みたいなことが書いてあったが、グローブ・ユニティがそうだったかどうかはともかく、じつはこのバンドもスタープレイヤーがそろっているように私には思える。J.D.パーラン、キッド・ジョーダン、ロブ・ブラウン、スティーヴ・スウェル、ロイ・キャンベル、ウィルバー・モリスなどなど総勢24人。だが、この音楽の本質はそんなことではない。たとえば2曲目でアラン・シルヴァが指揮棒を投げ捨てて(かどうかわからないが)絶叫すれば、この大オーケストラが「ゴウッ!」と吠えるのだ。もう一度叫べばもう一度吠える。そしてその咆哮はしだいに大きく、激しく、高まっていく。このエネルギーの引き出し方がすばらしいではないか。3曲目でハラーみたいなのを歌ってるのもシルヴァだろう。なお、最後の最後、これで終わりかとストップボタンを押しちゃダメですよ(老婆心)。来日公演で日本勢を指揮したときもこんな感じだったのだろうか。行きたかったなあ。傑作です。