「THE HARDBOP GRANDPOP」(GRP RECORDS/IMPULSE IMPD−192)
HORACE SILVER
何なんだ、これは。すごいメンバーである。出た瞬間、ただちに購入した。なにしろベースがロン・カーター、ドラムがルイス・ナッシュとこれだけでもすごいのに、フロントがなんとなんと、クローディオ・ロディッティ、マイケル・ブレッカー、スティーヴ・トゥーレ、そしてロニー・キューバーである。まさにオールスター。そのうえ、リーダーとコンポーズ、アレンジがあのホレス・シルバーとくると、これは聴くまえから「傑作」のレッテルを貼られたようなものだが……なぜか聴いてみるといまいちである。それなりには聴ける。でも、このメンバーをみて想像される音のレベルとはほど遠い。なぜ、これだけのメンバーを備えて、あのブルー・ミッチェル、ジュニア・クック……の時代におよばないのだろう。メンバーの技量的にはぜったいにあのころを抜いていると思うが、なぜなのだろう。ひどい言い方をすると、このオールスターバンド、「うまい学生バンド」に聴こえるのである(ひどすぎ?)。だって、4人のフロントが曲を完璧に吹ききるたびに、なーんかそんな印象が……。フロントがすごすぎて、各自のソロスペースが短く、爆発するところまでいかない、ということか? いやいや、ブルーノート盤だって、ソロスペースはそれほど長くはない。やっぱり演奏のテンションがめちゃ低いのだよ。ブルー・ミッチェル、ジュニア・クックのころは、全員のテンションがすごかった。リラックスしているようで、テンションは高かったのだ。それがぴしぴしと伝わってきた。でも、ブレッカーにしろキューバーにしろ、みんな、くつろぎまくっている、というか、くつろぎすぎ。ブルーノートのころはまだまだ「新しい」表現だったファンキージャズが、いまや「手慣れた」音楽になってしまい、このメンバーのなかから「挑戦」をひきだすことができなかったということかもしれない。べつに手垢のついたリラックスした演奏が悪いとはまったく思わない。でも、この盤ではそういうことが裏目に出たということではないか。あとはやはり、「時代性」かなあ。どう考えても今どきではない曲調、演奏、アレンジ……。きっとライヴ盤ならぜったいいいはずなんだけどなあ、このメンバー。もちろんいいトラックもあるし、聴きどころもたくさんあるんだけど、なにしろ期待があまりに高すぎて、落差が激しかったのがなあ……。
「HORACE SILVER AND THE JAZZ MESSENGERS」(BLUE NOTE 1518)
HORACE SILVER AND THE JAZZ MESSENGERS
ジャズ・メッセンジャーズという名前ではあるが、「ドラムがブレーキーだったころのホレス・シルヴァーグループ」という感じ。ハンク・モブレーとアート・ファーマーの2管というのももっちゃりしていて、ハードバップというより、まだまだバップをひきずっている。ただ、ホレス・シルヴァーによる曲はどれもハードバップ的で、それをメンバーがうまく表現できていない感じ。あのハードバップというかファンキージャズ特有の熱さもあまり感じられない。ジャズのインプロヴァイザーとしてはやや格落ちかもしれないが、モブレーやアート・ファーマーよりもシルヴァーサウンドにぴったりあったブルー・ミッチェルとジュニア・クックを得ることで、ホレス・シルヴァーは完璧にハードバップを体現できたのだなあ、とこの作品を聴いているとつくづくそう思う。それと同時に、しみじみ思うことは、私はホレス・シヴァーのピアノが好きではない、ということである。がちゃがちゃしていてうるさいし、バッキングもでしゃばりすぎで、かっこよくない。ハードバップが好きということはこのピアノを好きにならねばならないわけで、なかなかそれはむずかしかったわけです。
「FINGER POPPIN’ WITH THE HORACE SILVER QUINTET」(BLUE NOTE BLP−4008/84008)
THE HORACE SILVER QUINTET
A−1「フィンガー・ポッピン」のブルー・ミッチェルの輝かしいソロが本作の白眉だと思う。作曲はどれもいいし、アレンジも凝っているので、あとは「圧倒的な個性を発揮する」ようなソリストとはいえないテナーとラッパがどれだけがんばるかによって、このグループのジャズ度が決定づけられるわけだが、さすがにジュニア・クックのブルー・ミッチェルもこのころは絶頂期で言うことなしのすばらしいプレイをする。でも、まあ、こういう演奏は、学生時代、自分がこんなタイプの曲も演っていたころはともかく、今の耳で聴くと、「ああジャズですなあ」と思うだけだ。積極的に聴く気にはなれない。「ブローイン・ザ・フルース・アウェイ」一枚あればほかはもういいかな……。
「HORACE−SCOPE」(BLUE NOTE ST84042)
THE HORACE SILVER QUINTET
いい曲も入ってるんだけど、ようするにいつものホレス・シルヴァー・クインテット。たしかにこの時期のものはどれもいいんだけど、似たりよったりであるのも事実。ハードバップファンにはたまらんかもしらんが、このあたりで私はもう飽きた。「ニカズ・ドリーム」の名アレンジは、後年の多くのバンドが真似したことでもわかるように、どのナンバーも、曲もいいし、アレンジもいいが、耳に残るのはアレンジ部分ばかりで、ブルー・ミッチェルがどれだけ輝かしいソロをしていようと、ジュニア・クックがややもたつきながらも歌心あふれる演奏をしていようと、アレンジに負けてしまう。「それがホレス・シルヴァー・クインテットなのだよ」といわれればそれまでだが、みながもてはやすこの時期よりも、私にはもうちょっと新しい感覚のソロが楽しめるジョー・ヘンダーソンやウディ・ショウが加わったあたりが好きだ。
「THE CAPE VERDEN BLUES」(BLUE NOTE ST84220)
THE HORACE SILVER QUINTET PLUS J.J.JOHNSON
これはよく聴いたなあ。なにしろウディ・ショウとジョー・ヘンダーソンの2管ですよ。いくら主役のピアノが嫌いだとしても、これは聴かねばならん。しかし、フロントのふたりはがんばっているのだが、ピアノソロが古い古い雰囲気に引き戻してしまう。ホレス・シルヴァーというひとは、同時代のハードバップピアニストのなかでもとくに古いタイプの、つまりスウィング的なソロの組み立てをするひとだと思うが、そのあたりがこの時代のアルバムでははっきり浮いてしまっている。こういうことを書くと、わかってないなあ、と言われそうだが、そうなんです、ハードバップをわかってないんです。どうしてこんな風にソロイストを囲い込むようなバッキングをするかもわからないんです。しかし、ウディ〜ジョー・ヘンダーソンの2管以上によいのが、B面のJJジョンソンが加わった3管による3曲で、ここでのJJは、メンバーのなかでいちばん古い、ビバップ時代からの闘将であるにもかかわらず、非常にモダンですばらしいソロを展開しており、すげーっ、と何度も叫びそうになるほどの「新しさ」である。ジャケットもかっこいいです。
「SILVER’N BRASS」(BLUE NOTE TOCJ50528)
HORACE SILVER
このシリーズは昔、どこかで1回ぐらい聴いた程度なので、どんな内容かほとんど覚えていなかったのだが、999円での再発を機会にとりあえず「ブラス」と「ウッド」だけ買ってみた(ツイッターでラズウェル細木さんが、ホレス・シルヴァーの作品でいちばん良く聴いたのはこのあたりだと書いておられたので、へーっと思ったのが大きい)。なーるほど、たしかにかっこええ。曲は、リズムとかがちがうだけで、いわゆるホレス・シルヴァーのかつての作品と遜色ないキラーチューンばかり。そして、なんといってもクインテットにオーバーダビングでプラスされたブラスセクションが、ジャズロックのホーンセクションというより完全にビッグバンドサウンドになっていて(「ブラス」となっているけど、アディショナルメンバーは実際にはジェローム・リチャードソン、バディ・コレットなどのサックスも入っているからか)「ビッグバンドジャズを聴いている」という楽しみ方もできる。アレンジも明解で非常にわかりやすい。このあたりのアルバムを私はずっと、ホレス・シルヴァーがアレンジしているものだと思っていたが、そうではないのだった。私はとにかくなんといってもボブ・バーグが好きなので、ボブ・バーグが活躍するというだけでも買った価値はある。ブレッカーブラザーズがフロントだった時期よりも、好きかも。1曲目はファンキーなエレキベースの動きが特徴的なノリノリの曲。ボブ・バーグのソロがフィーチュアされるが、かなり濁った音色でモダンでキャッチーなフレーズを連発して、かっこいい。続くトム・ハレルのソロは同じくノリノリだが、やはり人柄というか、真摯でシリアスな感じで透明感もある。ドラムはバーナード・パーディー。2曲目の3拍子の曲はベースがロン・カーターでドラムはアル・フォスターになり、雰囲気もいかにも「ジャズ」という感じで、1曲目とのあいだにはかなりの乖離がある。先発のトム・ハレルのソロは新主流派っぽくて端正。ボブ・バーグのソロはフラジオにこだわったり、マイケル・ブレッカーっぽいオーバートーンを使ったフレーズなど、これも聴き応えあり。3曲目も同じメンバーで、まさにビッグバンドジャズ的な4ビートの曲。テーマもシンプルだが効果的なアレンジがほどこされている。ソロはシルヴァーのピアノのみでかなり長尺のソロをするが、正直言ってちょっとだれるかも。ピアノソロのあいだはホーンが出てこないので、普通のピアノトリオである。4曲目は、聴くとすぐに、あ、1曲目のメンバーだなとわかる演奏。エレベが目立つし、ドラムがファンキーでぐいぐい来る。冒頭からボブ・バーグが「あの音」で超かっこいいソロを吹きまくる。あー、かっちょええ。この人、デビューから亡くなるまでクオリティの変化がほとんどなかったよなー。このころからスタイリッシュで、完成されていた。ああ、もっと聴きたい……と思ったころにつぎのソリストにかわる、というのもこういうアルバムの特徴だが、そこがいいのかも。つづくトム・ハレルも絶好調だが、いかんせん短い。もっと聴きたいぞっ。5曲目はまたカーター〜フォスターのリズムに戻って、4ビートの曲。ボブ・バーグのソロが炸裂する。めちゃすごい。古今のさまざまなテナー奏者のエッセンスを取り入れた絶妙のフレージングに、音色も凄まじくて聞き惚れる。ホレス・シルヴァーのカンカン叩くようなパーカッシヴなソロはいつもどおりで個性的といえば個性的。最後の曲はやはりシルヴァーといえばラテンだよね、といいたくなるようなエキゾティックな曲だが、曲調はちょっとエリントンっぽいか。先発ソロのトランペットが高音部を駆使して張りつめたような緊張感のあるソロをする。つづくボブ・バーグは自由にリズムのあいだを泳ぎまくるような感じです。なるほどなー、たしかにいいアルバムだとしみじみ。
「SILVER’N WOOD」(BLUE NOTE TOCJ50530)
HORACE SILVER
「トランキライザー組曲」と「創造過程組曲」という妙な名前の組曲がふたつ入っているという構成だが、普通に聴いたら、どれが組曲なの? というぐらい、ごく普通のちゃんとしたおもろいホレス・シルヴァーのアルバム。1曲目は「ソング・オブ・マイ・ファーザー」によく似た曲で、バリトンサックスがめっちゃ効いてるアレンジ。ボブ・バーグの先発ソロはアイデアのモチーフをうまく動かしながら展開していくのだが、その絶妙の楽器コントロールや細かいニュアンスのさじ加減には舌を巻く。でも、短い! 2曲目はバラード風の長いピアノソロによるイントロが導くゴージャスなアンサンブル。カウント・ベイシーを聴いてるみたいなアレンジだ。バリサク(ジャック・ミニッツ!)がめちゃめちゃ有効的に使われている。トム・ハレルの凛としたソロ、そして、ボブ・バーグのちょっと荒っぽくて押せ押せだが、見事な音色の迫力あるソロがフィーチュアされる。シルヴァーのソロはあいかわらずで、良くも悪くも「バードランドの夜」あたりと変わらないが、そのレトロ感がたまんねーっという気はする。3曲目は、クラーベ風のリズムが冒頭からかまされるラテンっぽいナンバーで、こういうエキゾティズムもシルヴァーの個性のひとつ。エリントンの「キャラバン」を連想するひともいるかも。でも、単純といえば単純な曲です。トム・ハレルのソロはいかにもビッグバンドのなかでのソロという、ポジションをわきまえたもの。つづくボブ・バーグは、うーんやっぱりかー、と言いたくなるのは、冒頭いきなり「キャラバン」が引用されるから。同じフレーズをずらしていくあたりはすばらしいが、短いよなー。もっとソロさせろ! 4曲目はモダンでハードボイルドな曲調で、ボブ・バーグのソロはファンキーでかっこええなあ。いや、トム・ハレルのソロもかっこいいですが、とにかくこのころのシルヴァーのアルバムは申し訳ないけど、ボブ・バーグにどうしても耳がいく。妙なピアノのエンディング付き。5曲目からは「創造過程組曲」というわけのわからない組曲が始まるのだが、これはいろんなひとがあちこちで書いてるとおりで、どこが組曲なのか、どこにライナーに書かれているようなたいそうな意味づけがあるのかさっぱりわからない、「ただのホレス・シルヴァーのかっこいい曲」にすぎない。というか、大げさなタイトルと中身のギャップを狙ってる感さえある(ないだろうけど)。バリサクの利いたゴージャスかつファンキーなビッグバンドサウンドでボブ・バーグとハレルのソロはあいかわらず快調だが……短いねんって!続くホレスのピアノソロは冒頭でいきなり「ゴーイン・ホーム」を引用するというわけのわからんもの。このおっさん、ほんまなに考えとんねん。2曲目はラテンっぽいリズムのマイナー曲。こういう曲調だとホレスのカンカン、コンコンいうバッキングも合うな。先発のハレルのソロは極上だが、つぎのボブ・バーグのソロは丸コピーしたいほどよい。低音から上がっていくフレーズとか、えもいえんなあ。まあ、この音色あってのかっこよさだが。それにしてもこのふたりのフロントというのは最強やな。3曲目は、ちょっとびっくりさせるような曲調で、ピーター・ガンみたいな往時のハリウッドスパイ映画の主題歌っぽいといったら変か。ボブ・バーグはほとんどあの「ツータラツータラ」フレーズで押し切るような過激なソロで、超かっこいいです。それを受けてのトム・ハレルのソロもすばらしい。シルヴァーのバッキングがクロマティックで下降していくようなのが何度も出てくる。アレンジもよく、ええ曲やー(この曲も、シルヴァーのへんてこなエンディング付き)。そしてラストの曲は、オーソドックスでシンプルすぎるテーマと、リズム的にちょっとひねったサビ(?)という構造。ちゃんとした(?)ハレルのソロのあとを受けて飛び出してくるボブ・バーグの鬼面人を驚かすようなトリッキーなフレーズからはじまり、そこから巧みに盛り上げていくソロもよい。ふたりともサビの部分でちょっととまどってる感あり。なんでこの曲で締めるかなあ……。そして、これまた妙なピアノのエンディングが……。というわけで、どこがどう組曲だったのかわからない二曲(?)の入ったアルバムだが、ほんまに全8曲、どれも充実しまくりで、このあたりのアルバムの曲、学生ビッグバンドとか社会人ビッグバンドでやったらウケるんちゃうかなーと思います。
「LIVE AT THE HALF−NOTE」(HI HAT HH2CD016)
HORACE SILVER QUINTET FEATURING WOODY SHAW
最近、続々とおいしいところの放送録音を出してくれるハイ・ハットだが、先日もアート・ブレイキー・アンド・ジャズ・メッセンジャーズ・フィーチュアリング・ウディ・ショウという音源で凄まじいウディの演奏を発掘してくれて、私は涎がだらだら垂れそうになった。そして、今度はブレイキーのライバル(?)ホレス・シルヴァー・クインテット・フィーチュアリング・ウディ・ショウだっちゅうからこれは聴かずにはおれない。二枚組で、裏ジャケットの記載によると、1枚目のトランペットはカーメル・ジョーンズ、2枚目がウディ・ショウ……となっていて、ハードバップだのブルーノートにさほど興味がない私としては、うーん……1枚目は別にいらんなあ、けどテナーがジョー・ヘンダーソンやからええか、と思いながら1枚目を聞いてみると、なななななんとトランペットめちゃくちゃすごいやん。まるでウディ・ショウのおかぶを奪うような鋭いソロを吹きまくっている。カーメル・ジョーンズ観をくつがえされた。もーしわけありません。今日からカーメル・ジョーンズもファンになります。と言いながら聴いていたが、1曲目が終わったあとのMCでホレス・シルヴァーが、トランペットはウディ・ショウと言ってるではありませんか。なんじゃこれ! パーソネルが入れ替わっとるだけかい! でも、内容はすばらしい。音質もよい。ウディ・ショウはとにかく高音部を中心に鋭いフレーズをひたすらパワフルに吹きまくり(おんなじフレーズ連発という気もするが、そんなことはどーーーでもいいのです。かっこいいから)、ジョー・ヘンダーソンはわけのわからんフレージングで暴走といっていいほどのプレイを示し、いやー、これがホレス・シルヴァーのバンドか? あのモブレーとかブルー・ミッチェルとかジュニア・クックがへろへろやってたあのグループか? と言いたくなるほどの過激な演奏。しかも、リーダーのシルヴァーは気が狂ったかのようなしつこいコンピングを全力で延々と繰り返したりと、みずからジャズをぶっ壊すようなプレイを繰り広げる。いやー、すごいわ。時期的にはたぶん「ケープ・バーデン・ブルース」(だったっけ?タイトルうろ覚え)あたりのころで、このあとたぶんブレッカーブラザーズやボブ・バーグなんかが入ったころになるんじゃないかと思うが、ホレス・シルヴァーの音楽がいちばんエグいほうに傾いていたときではないかとこのアルバムを聴いて思った。2枚目は残念ながら相当音悪いけど、ジョー・ヘンダーソンが正直言って「ほぼフリージャズ」というソロを延々展開していてすごい。カーメル・ジョーンズはアンサンブル以外はあまり聞こえません。ウディ・ショウファンはかならず聞きましょう。ジョー・ヘンダーソンファンもね。でも、ホレス・シルヴァーの変態的なピアノのファンも聴いて損はないと思う。
「BOSTON 1973」(EQUINOX EQCD 6046)
HORACE SILVER WITH THE BRECKER BROTHERS
海賊盤で出回っていた音源だが、今回はその半分ほどの曲を収録している。しかし、音質とかは格段に向上しているので、これは正規の発売なのか……? とにかく最高のライヴだと思う。ホレス・シルヴァーがフロントにブレッカー兄弟やベニー・モウピン、ボブ・バーグなどを起用していたことはよく知られているが、本作は73年のボストンのジャズワークショップという店でのライヴ録音。もともとビバップに半分、ラテンに半分脚を置いているようなシルヴァーのスタイルはこういう硬派のフュージョン的サウンドが自然に似合う。しかも、エレベがあの(ブレッカー・ブラザーズにも加わっていた)ウィル・リーでドラムがアルヴィン・クイーンという今から考えるとよだれが出そうなメンバーである。
1曲目の先発のマイケル・ブレッカーのソロはめちゃくちゃ凄くて、硬質な音(リンクのメタルか?)でゴリゴリのハードなソロを吹きまくる。もうこの部分だけでも「買ってよかった!」なのだが、つづくランディのソロ、そして、人懐こいがラテンリズムによく乗ったシルヴァーのソロもまったく聞き劣りしない。ベースもドラムもキメキメをばしばしキメまくり、古びていない音楽を5人で作り上げている。2曲目はブルーノートに同名のアルバムがある「In Pursuit of the 27th Man」の表題作だが(1曲目もこのアルバムからの曲)、ランディが過激なソロを延々とぶちかまし、アルヴィン・クイーンのドラムが激しいレスポンスでそれに応えて盛り上がる。マイケルも、彼にしてはフリークトーンや単音のリズミックなフレーズなどを駆使したかなりえげつないブロウを繰り広げていて凄まじい。ブルーノートのシルヴァーのリーダー作におけるブレッカー兄弟の共演はこの「In Pursuit of the 27th Man」一作で、つぎのアルバムからはボブ・バーグ〜トム・ハレルのフロントになるので、そういう時期のライヴということだと思う。それにしても超アップテンポで荒っぽい演奏でもあるが、その荒さの向こうにそれぞれの技巧のすごさがちゃんと聞こえてきて、音楽として崩壊していない。アルヴィン・クイーンのドラムソロも凄い! そして、エンディングの狂気の混沌とした状態は本当に興奮するよ! 3曲目はくつろいだテンポの曲で、変則ブルースみたいな感じ? マイケルの先発ソロは、リーダーからなにをやってもいいよと言われているのかどうかわからないが、まさにマイケル・ブレッカーとしか言いようがない個性と技術が合体したもの。ホレス・シルヴァ―のソロも最高のリズムセクションと一体となって聞かせまくる。全体にウィル・リーのエレベがこの時期のジャズとしては新しいファンクなノリを作り出している。
全部で45分と短いようだが、中身は濃い。とにかくマイケルのソロは、ブレッカー・ブラザーズを結成する少しまえのものだが、すばらしいの一言だし、ランディもアンサンブルにソロにと飛ばしまくっているうえ、ベースとドラムがぶっちぎっているので、そのあたりが好きなひとはぜひとも聴いてほしいと思います。なお、マイケルはのちのちシルヴァーの「ハードバップ・グランポップ」(96年)に、マイケルとランディは「プリスクリプション・フォー・ザ・ブルース」(97年)に参加しているが、本作の時期の熱気には及ぶべくもない。
「THE NATIVES ARE RESTLESS TONIGHT」(EMERALD RECORDS EMR−CD−1003)
THE HORACE SILVER QUINTET
タイトルは、原住民は今夜寝る暇もない、みたいなことか? ホレス・シルヴァーが1990年に自分のレーベルから発売した1965、66年のハーフノートでのライヴ。音もすごくいいので、たぶんレコード化するためにちゃんと録音されていた音源なのだろう。この時期といえばシルヴァーは「ソング・フォー・マイ・ファーザー」や「ケープ・ヴァーデン・ブルース」を発表していた、脂の乗り切ったころなので、しかも、ライヴとくれば期待するしかないが、実際、めちゃくちゃ濃い内容である。6曲入ってることになっているが、1曲目はMCで、6曲目は「アフリカン・クイーン」の別テイク(というか同じ曲をライヴなのでもう一回やってる)なので、実質4曲といっていい。しかし、この4曲がすごいのだ。「ソング・フォー・マイ・ファーザー」もメンバー的にはブルーノートのあのアルバムとまったく同じなのだ。しかも、「ザ・ネイティヴス・アー・レストレス・トゥナイト」も「ケ・パサ」もである。しかもしかも、「アフリカン・クイーン」は「ケープ・ヴァーデン・ブルース」に入っている曲だが、メンバー的にはベース以外これまた同じで、シルヴァーの当時のアルバムのメンバーが、オールスターズ的録音に見えていても、ちゃんとギグをやってるワーキングバンドでの録音だったというのがわかる。しかも日本盤(というか日本語解説がついた輸入盤?)なのでこのアルバムはそれなりに多くのリスナーに聴かれたと思う。リズムセクション(とくにレックス・ハンフリーズのバリバリのドラムはすごいっす!)のすばらしさは言うまでもないが、正直、このアルバム全体を通して度肝を抜かれるのはジョー・ヘンダーソンのえげつないソロで、自己のリーダー作であるないを問わず、ここで聴かれるのはヘンダーソンの最高の演奏ではないかと思う。録音もせいもあって、ヘンダーソンというと、セルマーのソロイストで、実際はかなり音は小さいと思うのだが(芯のある、めちゃいい音ではある。私が生で何回か聞いたときもそうでした)、ここではビッグトーンでブロウしまくっているように生々しく録音されていて、本当に感動的だ。ヘンダーソンのアグレッシヴさというか、大言壮語と思われがちな、いかにもジャズマン的な「コルトレーンやブレッカーにパクられた」という発言(ジャリー・ロール・モートンとかドン・バイアスとか……そう言うひとけっこういますよね)が、なるほどなあ、と思ったりするぐらいにすごいし、時代の先を行ってる。ほぼフリージャズに踏み込んだような部分もあるし、露骨な変態的なコードの解釈とかスーパーインポーズとかも主張がはっきりしていて快感でしかない。そして、そのヘンダーソンに煽られているかのように、リーダーのシルヴァーもごりごりのソロをぶちかましている。音楽性とテクニックがぴったり合った、というか、シルヴァーといえば、あのしつこいコンピングを思い浮かべるひとも多いと思うが、ここでのシルヴァーは個性を貫きつつ、すごい演奏をしている。このひとがブレッカーブラザーズやウディ・ショウ、ボブ・バーグなど、つねに時代の先端をいく若手をメンバーにして自分の音楽を若々しく保っていたことがよくわかる。曲はどれもエキゾチックの名を借りた民族音楽的なモードジャズっぽくて、それもそういう当時の最先端的な音楽性に貢献している。いやー、ぐちゃぐちゃ書きましたが、ここでのシルヴァーはほんとにすごいソロをしてますよ。コンポーザー、バンドリーダー、ソロイストとして八面六臂の活躍をしていたシルヴァーは、ジャズ・メッセンジャーズと同等の功績があると思う。いやー、久しぶりにこのアルバムを聴いたが、当時のスタジオ録音である「ソング・フォー……」「ケープ・ヴァーデン・ブルース」のオリジナルアルバムを聴いただけではわからないこのえげつない現場感(ときには一曲15分にも及ぶ)がしっかり詰まっている名盤だと思う。ラストに入ってる「アフリカン・クイーン」の別テイクは、ライナーでも「ピッチがおかしい」とか「音質が落ちる」とか書かれているが、ヘンダーソンのソロはめちゃくちゃえげつないし、なんといってもウディ・ショウの見事(!)なソロに瞠目するしかないので、収録してもらってよかったよかったと思う。いやー、かっこいい!