「LIVE −IN PARIS」(ARHOOLIE PRODUCTIONS CD506A/B)
SONNY SIMMONS TRIO
2枚組ライヴ。ソニー・シモンズというとトランペットやピアノが入ったクインテットという印象があるが、こういうガチのピアノレストリオで2枚組というのは珍しいのかなあ。アルトのひとのことはよく知らないのでわからないが、とにかくこの2枚組は狂喜乱舞でした。ベースはジーン・ジャック・アヴェネルでこういう音楽にはぴったりのひと。ドラムはジョージ・ブラウンで、パリに来たアメリカのジャズマンとの演奏が数多い正統派のひと。それでどういう演奏なのかというと、1枚目の1曲目がすべてを象徴しているような気がする。超熱い、ひたすら熱い演奏。めちゃくちゃアップテンポの曲で、シモンズがひたむきにブロウしまくる。ベースもドラムも一丸となって突っ走る。それだけの演奏だが、すばらしい。ピアノレストリオで、ほかに管楽器もいないので、こういう古いタイプのジャズの場合はリーダーで管楽器のシモンズがほとんどのソロをすることになるわけだが、その重責をちゃんと果たしている。2曲目はアルトの無伴奏ソロからはじまる熱いフリーバラードだが、これも凄い。そのとき感じたことをなにもかも吐き出すような、表現力抜群の演奏。ベースソロも太く、美しい。ラストはなぜか唐突に終わる。3曲目は「マイ・フェイヴァリット・シングス」をなぜか常時ベースとデュオで演奏する。なかなかいい感じである。4曲目はコール・アングレ(イングリッシュホルン)による演奏で、アルコベースとのデュオ。シモンズといえばこの楽器だが、この2枚組ではこの曲でしか使われていない(と思う)。タイトルの「古代エジプト」というのがふさわしい曲。アルコベースとコール・アングレがまるで兄弟のように絡み合う。そして、まだベースが鳴っているのに、シモンズは演奏をやめて挨拶して、終わってしまう。5曲目は「ニュー・バード・ブルース」という自作のバップ曲。バップを発展(?)させたというのか、独特のぎくしゃくした、それでいてビバップとしかいえないようなラインをひたすら丁寧に吹きまくる。直情的に盛り上がる、とかいうのではなく、ただただ丁寧にフレーズをつむいでいくような演奏。ベースソロもフィーチュアされるが途中でフェイドアウト(観客の話声がどんどん大きくなっていく)。6曲目はちょっと賛美歌的なテイストをもったブルース。これもまた丁寧で実直さを感じさせ、そのうえ熱い演奏。ベースソロもさすがにめちゃくちゃかっこいい(ベースソロとしては2枚組中の白眉か)。1枚目ラストの7曲目はこれまたバップ曲の「ホットハウス」で、テーマの途中でアルトとベースがちょっとずれる。ピアノレスといっても、こういう風に実直に、普通にコード進行を追ってきっちり吹く場合にはピアノという存在はやはり大きいし、ピアノを入れないことでここでの演奏がのびのびしているのもそのとおりだと思う。しかしシモンズはがんばる。これまた丁寧で熱い演奏で、結局全部そればっかりかい、と言うかもしれないが、実際その通りで、しかも、客をねじ伏せるような説得力があるのだ。ときどき原曲である「ファット・イズ・ディス・シング・コールド・ラヴ」のテーマを織り交ぜたりしながら吹く姿はフリージャズというより、モダンジャズそのものである。ベースソロもある。
二枚目は美しいアルトのフルトーンでの渾身のブロウではじまる自作のバラード。まさに「渾身」という言葉がぴったりの凄まじくもまた美しい演奏で、ベースとの息もぴったりである。この2枚組における最高の演奏のひとつではないでしょうか。すばらしい! 2曲目はこれまたバップ曲で「ソルト・ピーナッツ」。アルトソロは「流暢にバップフレーズを並べ立てる」というのとはまったく違っていて、ぐちゃぐちゃっとした感じで(たとえばオーネット・コールマンの初期のバップ的な曲のように)吹きまくるのだが、そのぐちゃぐちゃっとしたフレージングのなかにバップのエッセンスが断片的に顔を出し、全体としてみると「ああ、バップだなあ」と思わせる。3曲目はシモンズ自作のモード風の曲で、演奏は激アツである。1曲目を上回るような、この2枚組中の最高の演奏だと言っていいと思う。血が噴き出すような凄まじいブロウにつぐブロウで、こういうのを聞くとやはり身体も揺れるし、心も躍り、汗もドバッと出る。たぶん現場で聞いていた聴衆もそうだろう。「ひたむき」という言葉が浮かんでくる。12分ぐらいしたあたりでやっとアルトが引っ込み、ベースソロになるが、これもめちゃくちゃ熱い演奏なのに、それが清涼剤に感じられるほどにシモンズのアルトが白熱しているのである。観客の歓声が凄い。下品なまでに凄い。4曲目は「ブードゥー・フードゥー・ファンク」というシモンズの曲で、ウッドベースでファンクをやる、しかもピアノレストリオ……ということで大原さんのサイツの曲を連想してしまう。最初、長いベースソロがフィーチュアされるが、ウッドベースでファンク……という変態さ(?)を感じさせつつも説得力のあるソロである。もっとやれ! というあたりでなぜか終わってしまうのが惜しい。5曲目は「ラウンド・ミッドナイト」で、テープがよれているのか、音がぐにゃっとするのが残念だが、鑑賞にたいした支障はない。ラストの曲は「ヒップ・ホップ・ファンク」という、マジか? というタイトルの曲だが、アルトとドラムのデュオ。どこがヒップホップなのかよくわからんが、ドラムはストレートに叩きまくっている。シモンズもそれに応えて吹きまくる。ドラムソロを挟んでテーマ。
全編、なんとも人間的な演奏で、息遣いからなにから全部伝わってくる。高音がうまく出なかったりする部分も丁寧に乗り切り、すべてを自分の表現に塗りこめてしまう。そして、なにより熱い。さっきも書いたが、「全部一緒やん!」という声もわからんでもないが、これだけしっかり演奏されるとそんなことはどうでもよくなる。2枚組を飽きずに聞きとおさせるだけの内容がしっかりある。すばらしい。外国のアマゾンの評などを見ると、録音がダメすぎるので一つ星とか書いてるやつがいるが、たしかに観客席で録音しているような感じで、客の声がずーっと入りまくっている。しかし、その分、アルトの音が生々しく、すぐ目のまえにあるかのごとく録音されているのも事実で、ベースもドラムもちゃんと録れているので、個人的にはまったく問題ないと思っている。そういうことを気にするひともいるのはわかるが、一つ星っていうことはないんじゃないでしょうか。これだけすごい演奏なのにそういう評価をパッとつけてしまうというのは残念だ。推測するに、シモンズが客席に録音機を置いて個人的に録音していたものが、あまりに内容がよかったので出す気になったのではないかと思うが、録音が悪いから一つ星……ではなく、よくこんな凄い演奏を、こんな録音なのに出してくれたなあ、と感謝するべきではないか。そういう演奏であります。しかし、レーベルがアーフリーというのがよくわからん。ブルースばっかりかと思ったらこういうフリージャズも出しているんですね。知らんかった。傑作。
「STAYING ON THE WATCH」(ESP DISK’ ESP−1038)
SONNY SIMMONS
言わずとしれた傑作である。シモンズといえば、現在に至るまで息の長い活動を行っている大ベテランで、途中、ストリートミュージシャンで日銭を稼いだりとかなり苦労をしたらしいが、今だに演奏内容は覇気に満ちている。しかし、この作品は別格で、ここに収められた3曲にはシモンズの作曲、楽器演奏、即興……などに関するありったけの才能が詰まっていて感動的である。ESPというレーベルはいろんな意味でけっこうぐだぐだなイメージがあるが、本作は録音もそこそこちゃんとしてるし、曲もアレンジもしっかりしていてすばらしい。アレンジと即興がうまく融合し、場面がつぎつぎ変わる工夫がなされているので長尺の演奏を飽きさせない。1曲目は70年代ジャズといってもおかしくないような考え抜かれたテーマのあと、ピアノがカオス状態を作り、そのなかでシモンズの自由なアルトソロが展開する。この時点で「あー、シモンズ、凄い!」と心臓をわしづかみにされる感じである。ここにシモンズのアルト奏者としてのテクニックや語彙がぎゅーっと詰め込まれている。次第にどしゃめしゃになり、ジョン・ヒックスのピアノが荒れ狂い、あっという間に演奏は最初のクライマックスに向かう。そこから第2のテーマが現れ、この時期奥さんだったバーバラ・ドナルドのへしゃげたような音のトランペットソロになる。これがめちゃくちゃ熱い好演なのだ。そこから2管での強烈な吹き伸ばしリフが入り(何度聴いてもこの部分は驚く)、テディ・スミスというベース奏者のアルコソロになる。かなりアブストラクトなソロで、ホレス・シルヴァーの「ソング・フォー・マイ・ファーザー」やドーハムの「マタドール」などに貢献したひととは思えない演奏。そして、第二テーマとちょっと似ているけどちがう第3テーマ(?)があって、ジョン・ヒックスのえげつない、最高のかっちょいいソロになる。こういうところだけ聴いてると、まるで70年代ジャズを聴いてるみたいな気持ちになる。そして、盛り上がるだけ盛り上がったあと、最初のテーマの最初の部分だけが演奏されて終了。2曲目はアルトとアルコベースだけのバラード。ゆったりとした印象的なテーマではじまり(これを聴くたけでシモンズの作曲能力がすばらしいとわかる)、そのあとベースがドローン的な感じになり、アルトがインド風というか中東風というかそういうエキゾチックなメロディを吹き、ソロになるが、これはシモンズがいつも吹くイングリッシュホルンがぴったりのような展開だ。なのに、なぜかアルトだ(いや、アルトでもめちゃかっこいいんですけどね)。最後はテーマに戻って終わるが、なんともストイックな演奏。3曲目はかなり大仰なエキゾチックでハードバップ的なイントロのあと、凝りに凝ったテーマがある。そして、ベースのピチカートによるスパニッシュモード的な無伴奏ソロがあって、第2のテーマ。そして、トランペットソロ。こういう感じはシモンズが得意にしている展開だと思う。トランペットは相変わらずゲキ熱で、名古屋の石渡岬さんを連想した。そして、速いリズムに乗ってシモンズがアルトを吹きまくる。本当に「吹きまくる」といった感じの演奏だ。楽器もフルトーンで鳴っていて、とにかく突き抜けたブロウを展開して、聴いていて気持ちがいい。高音のきしむような音と中音域を交互に吹いたり、リフっぽいのを繰り返したり、ノイズ、ノイズ、ノイズ……をぶつけてきたり、とバラエティにとんだソロ構成ですばらしい。そのあとハードバップ的なドラムソロ、そしてリフ(第3テーマ?)があってピアノソロになるが、これもフリージャズというよりジョージ・アダムスやミンガスとやっているような激カラなモードジャズ的なソロで、しかもものすごく長い。本作のハイライトのような演奏。めちゃくちゃすごい。そしてテーマをちらっと演奏して終了。最後の4曲目はイントロのあと、バップのパロディのようなテーマがある。超アップテンポに乗って、シモンズとドナルドのソロ。細かいことはもうええねん的な、なにかを吐き出すような熱いソロ。そして、その熱さを冷やすように、テディ・スミスのピチカートベースソロ。非常にテクニカルで知的なソロ。そのあとリフ(?)があってベースはアルコになる。ドラムソロがあって、不協和音のリフ。そして混沌。あー、めちゃくちゃかっこいい。最後はびしっと決めて終わり。うーん、久しぶりに聴いたがやはり傑作だ。少なくとも本作からは全然ドルフィーを感じない。
「THE COSMOSAMATICS」(BOXHOLDER RECORDS BXH022)
THE COSMOSAMATICS
コスモサマティックスというソニー・シモンズのグループのCDが某所に山のように売っていたので一部を購入。基本的にはシモンズとテナーのマイケル・マーカス(なんとストレートテナーとストレートアルトを吹いている!)という2サックスにベース、ドラムというカルテットで、本作のベースはウィリアム・パーカー(!)、ドラムはジェイ・ローゼン。しかも、ゲストとしてジェイムズ・カーターがバスサックス(!)で、カレン・ボルカがバスーンで、サミル・チャテジー(と読むのか?)がタブラで参加している。このメンバーを見るだけで音が聞こえてきそうだ。ジャケットは地球と、そのまわりを周回するUFOが描かれ、シモンズの手によるライナーは、「宇宙とは……」的なサン・ラーのようなよくわからん文章だが、内容はひたすら熱いアレである。アレ、つまり、シモンズのいつものやつで、ひたすら熱血ブロウで聞くものをねじ伏せてしまうあの凄まじいエネルギーの放散である。しかも、メンバーが最上級なので、とにかくどこを切ってもとんでもない演奏があふれ出す。ほとんどの曲は、典型的な6〜70年代の骨太のフリージャズで、ブラックミュージックである。4人の凄腕のミュージシャンが自分の楽器に乗せて思いのたけをぶちまけるような演奏なのだが、その圧力というか熱気が、理屈を超えて我々を感動させる。しかも、全員ちゃんと心得ていて(あたりまえだが)、ものすごく風通しのいい演奏になっていて、瞬間瞬間に起きているあらゆることがきっちり聞き取れる。いくら全員が一斉に熱演しても、団子のようなカオス状態にならず「音楽」になっている。そして、コンポジションもすばらしいし、2曲目や3曲目に聞かれるようにアレンジもめちゃくちゃいい。そういうあたりがこのグループが長続きした理由ではないかと思う。シモンズとマーカスは、スティーヴ・レイシーとスティーヴ・ポッツのように、よく似たタイプのサックス奏者で、そのふたりが絡み合う場面はふたつのラインが全力で刺激しあっていて感動的だ。それを鼓舞するベースとドラム。アコースティック・フリージャズの理想的な形のひとつだと思う(慎重な言い方?)。しかし、2曲目4曲目にジェイムズ・カーターが登場すると、この悪党が、というか、このワルガキが演奏をさらってしまう。バリトンじゃなくて、バスサックスですからね。図太い低音からフリーキーなマルチフォニックスまで、手加減なく徹底的に自分というものをむき出しにして、圧倒的な表現を繰り広げる。バスサックスのソロが終わったあたりで、だれかはわからないが興奮して叫びだし、一気にバンドとしての高揚感が増す。アルト〜テナー〜バスという3種類のサックスがうまく並列的に聞こえてくる。二管によるハーモニーが印象的なテーマの3曲目はアルト対ストレートアルトの対決……と思いきや、いかにも「フリージャズ」という感じのパルスのようなリズムを背景に、ふたりのアルトが長いラインでおおらかに歌い上げる。力強く、非常に面白い。4曲目はシモンズがコールアングレに持ち替え、ゲストのタブラ、バスーンとの競演。もう、いかにも! といった感じのインド風なエスニックな演奏で、これはスピリチュアルジャズファンはたまらんのではないか。ときどき入る掛け声もいい感じ。カレン・ボルカというひとのバスーンは、マルチフォニックスなども駆使して、まるでテナーサックスのような音からフリーキーな音までをつむぎだし、バスーンのイメージを変える。こういう擬似インド、擬似中東みたいなのはなかなかむずかしいと思うのだが、すごく楽しい。後半のヴォイスも、なんだかわからないが面白い。最後はフェイドアウト。ラストの曲はまたまたジェイムズ・カーターがバスサックスで大暴れ。凄まじい咆哮を繰り広げる。ほかのメンバーももちろん全力で爆発。5人で長丁場を一気に聞かせる。後半、激しいドラムソロのあと、3サックスでの即興アンサンブルも楽しい。傑作。
「AMERICAN JUNGLE」(QWEST RECORDS/WARNER BROS.9 46543−2)
SONNY SIMMONS
ソニー・シモンズが亡くなったそうである。コロナ下でどういう生活をして、どういう最期を迎えたのだろう。じつは膨大なリーダー作を残していて(コスモサマティックス名義のもの含む)、全部で40枚近くあるのではないか。というわけで本作を聴き直した。クインシー・ジョーンズのレーベルから出た何枚かのうちの一作。シモンズはアルトのイメージがあるが、テナーも吹くし(テナーだけのアルバムもある)、コールアングレ(イングリッシュホルン)の名手でもあるが、本作はアルトに徹している。ドラムがシンディ・ブラックマン、ベースがレジー・ワークマン、ピアノはトラヴィス・シュークというひと(トニー・ウィリアムス、バンキー・グリーンとリーダー作を吹き込み、ベティ・カーターの伴奏をやっていたひとだそうです。シモンズとは二枚のアルバムを作っているし、リーダーとしても「プレイズ・クルト・ワイル」(聴いてみたい!)など数枚を吹き込んでいるが、フリーのひと、というわけではないようだ。シモンズのアルトの音は落ち着いていて、高音から低音までコントロールが効いている。その分派手さはないが、上ずったり、無理しない分、聴いていてとても心地が良い。フラジオやフリークトーン、マルチフォニックスなども多用しない。あくまで普通のアルトの音域内でフレージングで勝負している。写真を見ると、マウスピースはアーブかブリルハートの白いやつではないかと思われる。ジャケット内側の写真などはまるでチャーリー・パーカーのようである。演奏は、すばらしいリズムセクションに乗ってひたすらシモンズが饒舌に吹きまくる。しかし、饒舌といっても、吹きたいことがちゃんとあるので空虚にはならず(ときどきそういうひといますよね。吹きたいことが尽きているのにひたすら長く吹くひと)、その熱量に耳が釘付けになる。バップから出発したひとだが、ここではモードジャズ的な演奏が多く(1曲目、2曲目など)、ノイジーな音は出さないが、オーネット・コールマンを思わせるようなバップのパロディ的な細かいフレーズを吹きまくったりもする。ピアノのシュークもこういう演奏にはばっちりはまっている。シンディ・ブラックマンはシンバルをバシャバシャ叩きまくり、鉄腕な感じでかっこいい。3曲目は「コルトレーン・ストーリー」というタイトルの4ビートのブルースでひとりで吹きまくってフェイドアウト(短い演奏)。4曲目は「マイ・フェイヴァリット・シングス」で、コルトレーンをなぞったような演奏ではなく、オリジナリティがあり、アルトで演奏する意味もちゃんと伝わってくるような真摯な演奏である。とはいえ、先発ソロがピアノであったり、痙攣するようなトリルを頻発したり、とコルトレーンのバージョンを意識していないわけではないようで、シモンズなりのコルトレーン・トリビュートなのだろう(3曲目も含めて)。ラストはタイトル曲で「アメリカのジャングルのテーマ」という意味深な曲。リズミカルなパターンをピアノなどがずっと弾いていて、シモンズはそのうえに乗る。力強いがどこか物悲し気な演奏。シモンズはあいかわらずグチャグチャした音塊をぶちまけるのだが、アイデアが明確で、音とリズムがしっかりしていて、リズムセクションとのからみをつねに意識しているので、アブストラクトにならず(アブストラクトが悪いといってるわけではない)、とてもストレートアヘッドな音楽に聞こえる。最後にシモンズがメッセージを述べているがいまいち私の英語力では聴きとれない。しかし、なんとなく言いたいことは伝わった。基本的には、すごいメンバーをそろえてはいるが、シモンズがアルトで吹いて吹いて吹き倒すアルバム。しかも、飽きさせないボキャブラリーと熱量がある。そういう気味ではすごいひとだよなあ。こうしてあらためて聴くと、やはりオーネット・コールマン的な音楽が核となっているような気もする。ジャケットの絵もいい。傑作。
「JEWELS」(BOXHOLDER RECORDS BXH043)
SONNY SIMMONS
私はサックスの無伴奏ソロアルバムというと無条件で聴きたい聴きたい!と思う方だが、本作はそんな私をしても「傑作」としか言いようがない作品であります。ソニー・シモンズは一般的にはフリージャズのアルト奏者と思われていて、実際そういう面もあるのだが(本作はアルトのみに徹している)、やや同じような立ち位置にいると思われている(と思う)オリバー・レイクやアンソニー・ブラクストン、ジュリアス・ヘンフィル……といったひとたちの無伴奏ソロとは一線を画したものだ。とにかくフリーキーな部分がまったくない。というと、サックス一本でリズムもハーモニーも感じさせるような、コールマン・ホーキンスやロリンズ、ブランフォード・マルサリス、スティーヴ・コールマン、オディアン・ポープ……といったひとたちのソロ演奏を思い浮かべるが、いやー、そういうのともちがうのである。どうちがうかはなかなか言うのがむずかしいが、エヴァン・パーカーやジョン・ブッチャー、阿部薫といった人たちのサックスソロとはまったく方法論が異なることは当然である。とにかく「普通」なのだ。ベースやピアノがいて、伴奏をしているかのごとき演奏だが、そういう共演者は実際はいない。シモンズは、アルト一本でベース、ピアノ、ドラムの存在を感じさせるような演奏をしているのだが、一方ではそういう共演者がいない分自由に演奏を操っている。このあたりの「自由」な感じがなんとも心地よいのである。エヴァン・パーカーが創始したと思われる循環呼吸をベースにしてそのうえに積み上げていくようなものとは根本的にことなっているのだが、「ある意味ビバップの個人練習」的な、リズムとメロディの提示をして、あたかもリズムセクションがいるようなふり(?)をしたうえで、そのうえに乗っての演奏……ということを聴衆にわからせるようなタイプのブランフォード・マルサリスやスティーヴ・コールマンのそれとはちがって、もっと自由なものに思える。単音楽器はピアノやギターのようなハーモニーもリズムも出せないが、メロディのなかにハーモニーやリズムは内包されているので、ちゃんと吹けばそれらを感じさせることができる。しかも、ここで聴かれるように「息継ぎ」の問題があるので、途中でブレスが入るわけで、それを奏者がコントロールすることによって絶妙の間につながり、より自由さが拡大する。もちろんだれにでもそんなことができるわけではないが、ソニー・シモンズはそれが可能なすばらしい単音楽器奏者だということが本作を聴けばめちゃくちゃはっきりとわかる。阿部薫のようなたっぷりした「間」を使うわけでも、エヴァン・パーカーやカンテーファンなどのように循環呼吸をベースにして音を積み上げていくわけでも、ギャオーッとフリークトーンでノイジーに吠えるわけでも、ロリンズのようにリズムセクションがあたかもそこにいるように吹くわけでもない独自の、しかも、自由で自在な演奏である。1曲目はなんとあの「ミュージック・マタドール」。2曲目以降もリズミカルな曲調の曲が選曲されている。アドリブ部分は、なんというか人懐っこいメロディラインがしっかりした音とリズムで延々と(ほんとに延々と、という感じ)奏でられる。緩急をつけたこの奔放なソロがくせになるのだ。何度も聴きたいという気持ちになる。ちゃんとエンタテインメントとしても成立している。それにしてもシモンズは、いつものあの痙攣するようなタンギングとかぐちゃぐちゃっとしたクラスター的なフレーズなどはほとんど封印しているなあ。それなのにのびのび演奏しているように聞こえる。どの演奏も一緒? そそそんなことはないと思う。何度も繰り返し聴いているうちに、その曲その曲のフレーズを覚えてしまったりして楽しめます。傑作。
「SURVIVAL SKILLS/UNIVERSAL PRAYER」(PARALLACTIC RECORDS PARALLACTIC 05)
SONNY SIMMONS BRANDON EVANS
最初に書いておくが「傑作」であります。ブランドン・エヴァンスというひとはソニー・シモンズとともに何枚かのアルバムを作っているが、そのうちの一枚。シモンズもアルト、テナー、コールアングレ……とマルチリードだが、エヴァンスはここではCソプラノ(普通のソプラノはBフラット)、テナー、バスクラ、コントラアルトクラリネット……と持ち替えがすごい。コントラアルトクラリネットというのはバスクラより大きくコントラバスクラリネットよりも小さなクラだが、内ジャケットに写っているのはいわゆるバスクラのでかいやつ……という形状ではなくベルが顔のところに来てるやつ。かっこいい。管楽器2本にドラムという編成だが、バシッとアレンジを決めて「曲」と即興を聴かせる。1曲目は(たぶん)シモンズはアルト、エヴァンスはバスクラ。地を這うようなバスクラの木管楽器的な音色がすばらしいですね。ときおりヒステリックにノイズをぶちかます。痙攣するようなシモンズのアルトもいいし、ドラムのケヴィン・ノートンもパワフルなうえにめちゃ上手い。アルバムタイトルのかたわれでもある2曲目は(たぶん)シモンズもエヴァンスもテナーだと思う。力強くいわゆる「フリージャズ」的な演奏。この曲でのドラムソロもものすごく「間」をいかしためちゃくちゃすごいソロだが、途中でヴォイスが入ったりしていわゆるスピリチュアルジャズ的な雰囲気もある。基本的にはコルトレーン〜エルヴィンのように、ドラムと(たぶん)ブランドンのテナーの激しいデュオが展開するのだが、聴きどころ満載でガッツのある演奏である。そのあとに登場するシモンズのアブストラクトなテナーも人間性があふれている。3曲目もアルバムタイトルのかたわれで、エヴァンスはたぶんコントラアルトクラリネットではなくてバスクラだと思う。シモンズのアルトも息の長いぐちゃっとしたフレーズを延々吹ききっていて、気持ちのこもった激烈なブロウで、60年代フリージャズの息吹も感じられ、また、新しい表現も取り入れているシモンズの立ち位置がはっきりわかるすばらしいソロだと思う。4曲目はちょっとエキゾチック(?)なテーマの曲。(たぶん)ブランドン・エヴァンスはCソプラノ。Cソプラノは普通のソプラノとソプラニーノのあいだの楽器で、いわゆるCメロサックスのオクターブ下。まあ、珍しい楽器だと思う。私も見たことはありません。軍楽隊でオーボエパートの代わりに使われていた、とかウィキペディアには書いてある。とても短い演奏。5曲目はブランドン・エヴァンスのコントラアルトクラリネットをフィーチュアした演奏で、黒々とした大河のような低音からヒステリックな高音部までを吹ききる。シモンズはアルト。6曲目はシモンズ作のブルースでエヴァンスは休み。テナーとドラムのデュオによるぐちゃぐちゃのフリージャズなのだが、きっちりブルースになっているところがさすが。アルバムの掉尾を飾るにふさわしい手応えのある演奏。全体にふたりのサックス奏者と強靭無比なドラムのからみが最高の一枚。傑作!