zoot sims

「ZOOT」(MCA RECORDS ARGO−608/MVCR−20055)
ZOOT SIMS QUARTET

 ズート・シムスというひとは「中庸」だと思う。これはあまりいい言葉ではない。どっちかへ吹っ切れたようなジャズが好きなのだ。中庸とか中間派とかそういうレッテルをはるのはよくない。しかし、ズートの魅力はたしかに「中庸」であって、それはけっこうとんでもなくすごいことなのだとも思う。歌心+音色+スウィンガーというひとで、ジャズといえばいちばジャズ的な奏者だと思う。ワーデル・グレイなども連想されるレスター・ヤング+バップなフレーズをもりもり繰り出してくる。音もしっかりしていて、それもサブトーンから積み上げられた音で心地よい。高音部もブリルハートのラバーをちゃんとコントロールしていて、すばらしいと思う。しかし、音色にしてもフレーズにしてもやはり中庸で、パワフルなテナー……といってもたとえばロックジョウやカークやコルトレーン……といった猛者たちの、パッと聴いたらだれでもわかるような超個性的なものではなく、おそらくズートの音やフレーズを好きではなくても嫌いなひとはいないのではないか。ロックジョウ、コブ、カーク、ゴードン、ロリンズ、コルトレーン、シェップ、アイラー……といったひとたちは「めっくゃ好き」というリスナーもたくさんいただろうが逆に「二度と聞きたくない」という聴き手も量産したと思う。そういう意味ではズートはあくまで普通のジャズの範疇で普通のジャズファンを楽しませたひとなのだろう。コード進行をきっちり押さえながらフレーズをつむいでいく、というバップの王道をこなしているこのズート・シムズを信奉するひとはたいへん多く、プロでもアマチュアでもテナー奏者でズート好きなプレイヤーはたくさんいる。ジャムセッションとかでフレーズをコピーしているひともよくいる。私は昔から決して嫌いではないが、うーん、こういうのがジャズなのかなあ……とずっと思っていた。で、この歳になって一念発起して、これまでよくわかんなかったひとをきっちり聞いてみようと思うようになった。というわけで本作である。一曲目を聴いて、あー、聴いた覚えあるわ、となった。5曲目「ガスズ・ブルース」はドラムのガス・ジョンソンの曲で、マイナーブルースと普通のブルースがワンコーラスごとに入れ替わる趣向。このベイシーで有名なドラマーが作曲の才能もあることを示す一曲。ズートはこの趣向をきっちり吹きこなしている。7曲目でなぜかズートはアルトを吹いているがそれもちゃんと吹いている(テナーでもによかったような気もするが)。この曲をズートがアルトで吹きたかったという心理状態はけっこう興味あるかも。名盤である。

「DOWN HOME」(BETHLEHEM RECORDS/SOLID RECORDS CDSOL−6002)
ZOOT SIMS

 たくましい音色、歌いまくるフレージング、のりのりのリズム……ズートはたぶんジャズファンやアマチュアでジャズをやるひとにとってはヒーローなのだろう。本作も、一曲目からバウンスする演奏がドバッと飛び出してくる。ズートのソロは短いが、全員が「スウィングする、歌心のある、ノリノリの演奏をするんだ」という気持ちが伝わってくる。リズムセクションも、とくにダニー・リッチモンドがすごい。どの曲も見事に盛り上げる。デイヴ・マッケンナのピアノは相当ゴリゴリ弾いてるし、ベースのタッカーもいい。ああ、ジャズやなあ……とは思うし、ズートのすばらしさもよくわかるのだが、なんというかあまりに破綻がないので、これでいいのかと思ってしまう。これでいいに決まってるのだが、「これこそジャズだ」と言われるとなあ。アマチュアテナー奏者がみんなズートをコピーしてた時期があって、私はすばらしいことだなあと思っていたのだが、セッションとかに行くとあまりにみんながみんなすぎるのでちょっとしんどかった。でも、こうして本人のブロウを聴くとやっぱりかっこいいですね。とにかく堂々としていて、瑣末なことには動じない良さがある。俺はクラシックとかフュージョンとかロックとかやらないよ。ソプラノは吹くけどね。ぬけぬけと言い放つたたき上げのジャズらしさを感じる。考えてみるとフォーブラザーズのアル・コーン(アル・アンド・ズートの相棒でもある)やジミー・ジュフリー、サージ・チャロフなどみんな個性あふれるサックス吹きだったなあと思う。黒人だ白人だイーストコーストだウエストコーストだなどということは関係ない。そのひとの個性だよね。ときどきキーキーとリードを軋ませながら重戦車のように前進しまくるズートはすごい。ときどき入るブースとのやりとり(?)も生々しくてよい。リズムセクションも皆すばらしいしCDに入ってる別テイクもどれもいい、ということで傑作中の傑作である。でも……ズートの良さはやはり中庸であることを認識する。どんなテンポでどんなコード進行の曲をやらせても上手い、すごい、パワフルである、歌心がある、チェンジを外さない、スウィングする、そして……そつがない。そつがないというのはいいことか。いいことに決まっている。しかし、ことジャズにおいては、もっとどちらかに吹っ切れた演奏の方が私は好きです。あー、書いてしまった。ズートは、演奏だけ聴いてると、すごく健康的でもりもりしたマッチョな、溌剌とした明るいプレイヤーにように思われるが、実際はそうではなく当時のジャズプレイヤーの常で、大酒飲みで、演奏まえや演奏中にも飲み、足もとはいつもふらふらだったようだ。しかも麻薬もあって、まあ、「ジャズのひと」っていう感じだが、うーん、それをまるで感じないぐらい「明るい」んですよね。