「音楽という贈り物」(地底レコード B90F)
ベニシア・スタンリー・スミス
まったく知らないひとで、NHKのハーブやガーデニングの番組に長く出ているかた で、京都大原に住む園芸家だということだが、私はそういう方面にはとんと疎いので今回はじめて知った。70歳の女性だということだが、たった17分、5曲入ったミニアルバム。いわゆるフォークなのだろうと思う。うまい歌、というわけではないのだが、この訥々とした歌い方が心にしみる。技術とか音楽性を超えたものなど本当にあるのか? 結局はテクニックであり音楽知識であり経験ではないのか? ということをときどき考えるが、このアルバムにおける、本当に飾り気のない、素朴な、しかし真摯な演奏を聴くと、いやー、やっぱり音楽(とか小説とか絵画)というのはそれだけではないな、とあらためて気づかされる。心に染み入る、とか我々はすぐに口にしたり書いたりするが、ここに収められた5曲は、たしかに「心に染み入る」。これはどういうことなのか……ということを真面目に考えたりすることは、もうアカンのやろうね。そのまま、このまま受け取るのがいいのだろうと思います。自作曲の4曲目「風に舞う」は、めちゃくちゃええ感じのメロディと歌詞なのだが、後半、こどもたちのコーラスが出てきてちょっとびっくりする。そして、最後の「スカボローフェア」だが、このギターの伴奏だけで歌われるこの曲がめちゃくちゃいいのです。イギリス人ならだれでも歌う曲なのだろうが、いろんな要素がばっちりハマり、この味わい深い演奏を生んだのだと思う。繰り返し聞いても「染み入る」感じです。このアルバムを作成した地底レコードの吉田さんの英断を思う。折に触れて聞きたいアルバムです。