「MIDNIGHT SPECIAL」(BLUE NOTE RECORDS ST−84078)
JIMMY SMITH
数あるジミー・スミスのアルバムのなかではこれが一番好きかもしれない。正直、オルガントリオはあんまり感心がなく、全部売り払ってしまった。とにかくテナーが入っていてほしいのだ。しかも、ブルーノートによくある、ジミー・スミスとハードバップ系管楽器奏者数人のジャムセッション、というやつだと食指が動かない。「テナーサックス」の、できればワンホーンであってほしいのだが、なかなかそうはいかん。だから、何枚か持っていたやつもあるとき全部売ってしまった。残ったのはこのアルバムのみ。とにかくメンバーは最高。ギターがケニー・バレルでドラムがドナルド・ベイリー。オールスターカルテットだが、なんといってもタレンタインがすごい。このアルバムをはじめて聴いたころ(28年まえ)は、ホンカー系に狂ってて、タレンタインが細い音色で高音中心にひゃらひゃら吹くのが気に入らず、なにがボステナーだ、なにがザ・マンだ、もっと腰を入れてガーンと吹かんかい! と思った。その後、たいがいのタレンタインのアルバムを聴いてもそう思っていたのだが(何枚かめちゃくちゃ好きなやつはあるんですが)、そののち、ふと、このひとの吹き方がブルースシンガーの歌い方とそっくりだということに気づいたのだ。そういう観点で聞いてみると、タレンタインは本当に、歌うように吹く。ホンカーやテキサステナーのような器楽的なところがあまりなくて、ボーカルのように吹くのだ。だから、自然と高音の、細い声のような音の出し方にもなる。コブシの回し方やしゃくりあげるような奏法、ハスキーな音色、高音部でのブルーノートの使い方、ちょっとしたリズムの変化や細かい部分のニュアンスの変化……全部ブルースシンガーのそれではないか。そう思うようになってからはめちゃくちゃタレンタインが好きになった(私のテナーをタレンタインがセッションで借りて吹いたから、というのも理由のひとつだが)。よく、ハンク・クロフォードは歌うように吹くよね、とかいろいろ言われてるが、やはりタレンタインこそが「歌うように吹く」ひとだと思う。本作では1曲目のミディアムスローのブルースやB−2のバラード(ラストの短いカデンツァも最高)でそれが顕著にあらわれていると思う。ブルーズでない曲や速いテンポの曲でも、その歌心は健在で、チャーリー・パーカー以降のサックス奏者が「歌うように吹く」ことから意識的に遠ざかり、器楽的なフレージングをよしとしていったのに比べて、タレンタインはそれ以前のやりかたをおそらく無意識に行っているのだろう。もちろん器楽的でメカニカルなフレーズも多数見受けられるが、それらは最終的には「歌」に集約されていく。「歌うように吹く」というのは、本当にボーカリストが歌っているとおりに吹く、という意味ではなく(そんなことは無理)、ボーカリストが歌うようなニュアンスで吹くということであります(アドリブソロすべてに歌詞がつけられる、みたいな感じ?)。本作は、タイトルがミッドナイトなのになぜか真昼間のようなジャケットだが、内容も明るい。主人公のジミー・スミスはもちろん、ケニー・バレルも全編にわたって絶好調(今思ったのだが、ケニー・バレルってよくブルースギターのひとになぞらえられるが、タレンタインとは逆に、音に評定を付けないというか、チョーキングやらリズムをためたりすることがほとんどなく、均等に、適格にピッキングしていく。それでいてこれほどブルースを感じさせるのだからすごいですよね。ジャズギターはあんまり聞かないので、思いついたとき(つまり今)に書いておきます)。ブルース3曲(ミディアム・スロー、アップテンポ、ミディアム)に歌ものとバラードという構成もいいですね。ラストB−3は「ワン・オクロック・ジャンプ」で、最初はテーマなしで始まり、英文ライナーは、冒頭のスミスのオルガン(短い)は「ベイシー・アプローチ」だと書いており、そのあと長く続くタレンタインのソロはレスター・ヤングの影響のもとにあるソロをする、とか、スミスのソロはファッツ・ウォーラーがどうしたとかみたいなことを書いているのだが、そのあたりのことは私にはよくわからない。全体のノリはたしかにベイシーっぽいのだが。そして、最後まで「ワン・オクロック……」のテーマは出ることなく終わるのだ。でも、これが「ワン・オクロック……」だと言われて聴いていると、なんとなくそうかな、と思ってしまうのが不思議。ただのブルースなのになあ。テーマを演奏してないのに使用料払うんかなあ。かなり長文の日本語ライナーにもそのことは一切書いてないのだが。なお、タレンタインは同じくブルーノートの自分のアルバムで「ワン・オクロック・ジャンプ」を演奏している(「ア・チップ・オフ・ジ・オールド・ブロック」の1曲目)。