glenn spearman

「UTTERANCE」(CADENCE CJR1103)
GLENN SPEARMAN JOHN HEWARD

 知らないというのは恐ろしい。じつは先日まで、名前は知っていたが、ちゃんとアルバム単位できいたことがなかったのだ、このグレン・スペアマンを。スペアマンは1988年に51歳の若さで癌で亡くなったらしいのだが、けっこうな数の吹き込みもあり、私の好きなミュージシャンとの共演作も多いので、おそらく私の好みのタイプではないかなあ、と想像していたのだが、先日、「インサイド・アウト・イン・ジ・オープン」というフリージャズのオムニバスビデオを見ていると、ある曲で彼が登場した。はたして私の好みにぴったりのタイプで、どのアルバムから聴こうかなあ、と迷っていたときに、ある中古屋で300円でこのアルバムが売っていたのである。いくらなんでも300円はひどいが(私の本がネットでよく1円で売っていることがあるが、あれもひどいよなあ。1円つけるぐらいならタダにしてほしい。なんぼなんでも1円の価値しかない小説は書いていないつもりだが……まあそんなことはどうでもいいが)、やはりリスナーというのは妙なもので、300円の値段がついていると、ふーん、たぶんたいした演奏じゃないんだろうな、と頭のどこかでそんな先入観を抱いてしまう。だから、私もほんとうに期待値ゼロの状態でこのアルバムを聴いたのだが……わーお! めちゃめちゃええやん。まさしく私の好きなタイプのテナー奏者である。でかい音でぎゃおおっと吠えてくれる。そして、フリーにブロウするときも、ヴァンダーマークやガスタフスンのように流暢に吹くのではなく、どこか無骨で、ゴツゴツと不器用にひっかかりながら吹く、という感じ。ドラムとのデュオなのもうれしい。まさに巌のような演奏で、一発で気に入りました。ああ、もっと早く知っていたら……。ライナーを見ると、フランク・ライトのファンだそうで、さもありなんと思った。このアルバムはもう20年近くまえの吹き込みなのだ。グレン・スペアマン……これからどんどん聴いていこうと思う。

「NIGHT AFTER NIGHT」(MUSA−PHYSICS MP−0001)
GLENN SPEARMAN

グレン・スペアマンって、あるDVDではじめて聴いて、そのあとCDを買ったのだとばかり思っていたら、な、な、なんと、レコードをもっておりました。どうやら初リーダー作らしい。たぶん買ったのは20年ほど前だろう。このひとに関してなんの予備知識もなく、ドラムとテナーのデュオで、おそらくフリー系らしい、というだけの情報をもとに(たぶん)三ノ宮の「レコーズJR」で購入したものとおもわれる。その当時の印象を今になって思い出したが、「うーん、まあまあやなあ。やりたいことはわかるけど、もっとガーンといってほしいなあ」という感じだったとおもう。その後、売ることもなくずっと手元に置いてあったのは、このひとのガッツのある、丁寧な、しかもチャレンジ精神のあるプレイになんとなく共感を覚えていたからだろう。久しぶりに聞き返すと、なるほど、あのとき抱いた印象はほとんど変わらない。このアルバムを皮切りにスペアマンはどんどん深化、発展していき、なかなかすごいことになるのだが、これは彼の青春時代の記録ということで、今後も大事に聴き続けていきたいと思っている。

「THE FIELDS」(BLACK SAINT 120197−2)
GLENN SPEARMAN DOUBLE TRIO

 グレン・スペアマンといえば51歳で早世したテナーマンで、私は「ナイト・アフター・ナイト」というレコードを買ったのがきっかけで興味を持ったのだが、柔らかい音色と血を絞り出すような感じのスクリームが特徴だ。本作は「ダブルトリオ」と称しているとおり、グレン・スペアマントリオ(ドナルド・ロビンソンとリスル・エリス)とラリー・オークストリオ(ウィリアム・ワイナントとクリス・ブラウン)を合体させた趣向で、オーネット・コールマンの「フリージャズ」(のダブルカルテット)の30周年を記念して組まれたグループなのだが、本作でもう3枚目である。まえの2作は同じメンバーで、本作はそこからベースのベン・リンドグレンがリスル・エリスに代わっただけでほぼ同メンバーといえる(前2作は未聴。聴きたい)。で、本作だが、めちゃくちゃよかった。ダブルトリオといっても、2ドラムスに、ベース、ピアノ、2サックスと考えればごく普通の編成である。1曲目はオークスの曲だが、スペアマンの図太く、柔らかいテナーの音と、オークスのソプラニーノのカリカリいう高音の対比がすばらしい。古いタイプのフリージャズだが、こういうのが私は大好きであります。骨太な演奏ばかりで、ガッツのあるアコースティックな即興が好きなひとにはぴったりだと思う。スペアマンというひとは素朴というか朴訥というかゴツゴツした音でフレーズを丁寧に積み重ねていき、テクニックとして軽々と出すのではなく心の叫びとしてスクリームするタイプのようで、つまり、最近はあまりいない感じのテナー吹きだ。オークスのソウルフルなプレイと、スペアマンの丁寧だがワイルドなプレイが、なかなかいいコントラストになっている。3曲目でのバトルとか、キングコング対ゴジラという感じでほんとに凄い。ヴァンダーマークとグスタフソンのバトルとかがお好きな向きにもぴったりだと思う。リスル・エリス(ライスル?)のベースも本当にすばらしく、常に耳を奪われるような演奏で大活躍である。ピアノのクリス・ブラウンもいいっすねー。曲もよく練り上げられていて、しかも、どの演奏も熱く、腹にこたえる。7曲目(21分の大作)の冒頭のドラムとテナーのデュオも聞き応え十分。そこから速いリズムが入ってくるあたりの興奮はすばらしい。そのあとき展開もすごい。それぞれのフィーチュアパートから全員でのぐちゃぐちゃの集団即興まで見せ場たっぷり。この1曲だけでも値打ちがあるが、ほかの曲もすべて傑作! 私の好みにぴったりの作品でした。スペアマンのアルバムはなかなか見つからないが、これからもぼちぼち探して聴いていきたい。