「RUINS」(SKIRL RECORDS SKIRL025)
CHRIS SPEED ZENO DE ROSSI
クリス・スピードとドラムのデュオ。CD−Rなので新譜なのに800円。内容超充実。安い! と魚屋の店先みたいなことを言いたくなるほど、ええアルバムでした。クリス・スピードというと、私はけっこう長いあいだピンとこなかったのだが、だんだんスルメのように味わいが増すひとだということがわかって以来愛聴するようになった。本作もそのスルメ感が横溢している。テナーとドラムのデュオといってもコルトレーン〜ラシッド・アリみたいにならないことは当然だが、スピードの、エッジの立っていない優しいトーンとあくまでメロディ重視の姿勢を崩さないソロがたっぷりと聴けて満足しまくりのアルバム。いやー、何度も言うようだが、これは安いわ。音質も最高ですよ。しかも、ドラム〜パーカッションのひとがめちゃめちゃうまい。1曲目冒頭からいきなり、スピードがか細いトーンで吹きはじめ、ドラムが空間を広げていく。ああ、この快感は例えようがない。2曲目ではそれがさらに顕著になり、豪快とかブロウといった言葉とは無縁の、優しく、細い、「美」を感じる音でメロディが揺り動かされていく。3曲目はスピードのリズミカルなフレーズに対してドラムのブラッシュワークが冴えわたる。4曲目ははっきりしたコンポジションで、低音中心の印象的な曲。テナーの柔らかな低音が癖になる。20年ぐらいまえだったらこういう低音の吹き方は軟弱に思えたかもな。5曲目は、マルチフォニックスで始まるが、ハーモニクスと同時に微妙に声を出しているのかも。とにかく繊細な音の出し方、使い方にしびれます。途中からのパーカッシヴな展開もかっこいい。6曲目は、スピードもドラムもリズムでコミュニケイトする演奏。スウィング感もある。7曲目はエキゾチックなテーマを持つ曲。ずっとそのムードを保ったまま最後まで進行する。8曲目はビバップ的なテーマを持った曲で、ドラムも4ビート。テナーのソロも、テーマに即した感じのフレーズをつむいでいく。スピードのアーティキュレイションなどの気の使い方がよくわかる。本作のなかでもっともジャズっぽいかも。9曲目は、痙攣するようなフレージングではじまるインプロヴィゼイション。短い演奏。10曲目は、モチーフをいろいろ展開していくような演奏で、非常におもしろく興味深い。クラシック的にも教則本的にも聞こえる箇所もあるが、動きもブロウもある血の通った演奏になっている。どんどん盛り上がるし、5曲目とともにこのアルバムでいちばん気に入った曲。最後の11曲目は、ドラムはなにかを擦るようなノイズや銅鑼のような音、アフリカンな低い響きなどに終始し、そこにスピードがクラリネットの高音部だけでロングトーンを重ねていくという幽玄な演奏。これもええなあ。というわけで、このアルバムは安いですよ。お買い得っ。