jeremi steig

「OUTLAWS」(ENJA RECORDS CDSOL−6540)
JEREMY STEIG−EDDIE GOMEZ

 傑作としか言いようがない。カセットテープでずっと聴いていたが、CDで1000円って……絶対買ったほうがいいと思う。ジェレミー・スタイグの名前を知ったのは高校生のときか大学生のときか……タモリのラジオ番組かなにかでスタイグのフルートをフィーチュアした「グリーン・ドルフィン」が紹介されて、私の記憶によると「『緑のイルカ通りで』って変なタイトルだよね」みたいなことをタモリが言ったので覚えているのだ。あれはビル・エヴァンスとの演奏だったのかなあ、スタイグ以外はまるで覚えていないのだが……。本作はそのエヴァンスとも深い縁のあるエディ・ゴメスとのデュオ。スタイグのフルートは清涼感があり、シリアスかつ幻想的で、(たとえばゲイリー・バートンとかにも通じるような)アメリカのジャズと一線を画すようなヨーロッパ的というかクラシック的な雰囲気もあるが、一方では音を濁らせたりするダーティな表現や取り憑かれたようなトリルなど狂気を感じさせるような領域にまで踏み込んだ、ローランド・カークなどとも共通する「異常さ」もあって、まさにワンアンドオンリーなのだ。ゴメスの、伴奏者という域を大きく超えるベースとは相性抜群で、ベタな言葉だが「インタープレイ」というものを味わうには最適な演奏だと思う。ドイツでのライヴなのだが、1曲目はタイトル曲の「アウトロウズ」。ジャズからもクラシックからもはみ出し者のふたりということか、あらゆる制約から自由になっての即興ということか……とにかくいい曲名で、尖っているようで、奥の深いやりとりは非常にジャズ的であり、もっとはっきり言うと、ビル・エヴァンス的である。2曲目はスタンダードの「枯葉」だが、ジャズのセッションなどで消費されるこの手垢のついた曲から、居住まいをただすような表現を弾き出していて、すばらしい。3曲目はゴメスのアルコによる自在なベースソロナンバー。恐ろしいほどの境地に達している。4曲目はスタイグのフルートソロナンバー。これも幽玄な、尺八を思わせる部分もある圧倒的表現力の演奏。3、4曲目とも、禅画というか墨絵のような枯淡さと突き抜けるような力強さを兼ね備えたソロ。最後の5曲目はあの「ナルディス」で、選曲としてはマイルス〜ビル・エヴァンスということでベタかもしれないが、演奏内容はこちらの期待の遥かうえを行くそう。電気的に加工されたベースのどろどろした響きの演奏ではじまるが、インテンポになりフルートがテーマを奏でると、もう別世界に連れていかれる。いわゆるスウィングする「ジャズ」がはじまり、それがたったふたりなのにオーケストラのように響く。スタイグのフルートは、どんなにグロウルしようが、マルチフォニックスを使おうが、トリルしようが、リリシズムが崩れない。いやー、かっこいいです。ゴメスも(たったひとりなのに)スウィングしまくるリズムに乗って弾きまくり、最後にテーマに戻るところの「かっこええーっ」と思わず「音羽屋!」みたいに声をかけたくなるあたりはほんと鳥肌もの。傑作なので、「えーっ、フルートとベースだけ?」などと言わずに聞いてほしいです。