「MEMORIAL CONCERT」(TZADIK TZ7611−2)
IRVING STONE
ニューヨークダウンタウンミュージックシーンにおける長年のフィクサーであったアーヴィン・ストーンを偲ぶメモリアルコンサートを収録したライヴ2枚組。だれもが名前を知っている超有名人だそうで、とにかくえげつないぐらい豪華なメンバーが集結している。ストーンは、はじめはニューオリンズジャズの聴き手だったが、50年代に「新しい音楽」に接するようになり、1957年の有名なモンクのファイブスポット出演時には週に4日ぐらい通ってたとか、これも有名なオーネットのタウンホール出演時にも生で聴いていたという剛の者で、つまりは我々の大先輩といっていいかたではないか。1曲目は、奥さんで、かつてはシンガー〜ピアニストだったステファニー・ストーンによる美しいピアノソロ。2曲目は、ティム・バーン〜シルヴィー・クルボアジェ〜トム・レイニーによるトリオ。ティム・バーンが吹きまくり、ほかのふたりもええ味を出してます。3曲目はマーク・フェルドマンのヴァイオリンとクルボアジェのピアノのデュオ(しょっちゅう一緒にやってる)。息の合った演奏。4曲目はハーブ・ロバートソン、アンディ・ラスター、スティーヴ・スウェル、ジョーイ・バロンというこれまた豪華なカルテット(スウェルを「アルトサックス」と表記してあるのはもちろん誤記)。冒頭、ロバートソンはガリガリと煽るように吹きまくり、ラスターはきちんとフレーズをつむいでいく。スウェルも細かいフレーズを豪快にキメまくり、もちろんジョーイ・バロンも最高。けっこう長い演奏で刻々と状況は変わっていくが、かなり私好みのタイプの即興です。5曲目はジョン・ゾーンとイクエ・モリのデュオ。刺激的なサックスは、聴いていると「なにかをしなくては!」という気持ちにさせられる。6曲目はエリックフリードランダーによる短いチェロ独奏。クラシカルな演奏だが非常に情熱的。7曲目はチャールズ・ゲイル〜トム・レイニーデュオ。あいかわらずの力強く、朗々としたテナーの音にはひれ伏すしかない。しかも、今回はかなりテクニカルな部分や歌心も思いっきり前面に出す演奏ですばらしい。8曲目はわれらが(?)藤井郷子ピアノソロ。これがいいんです。短いけど言い尽くしている。9曲目はバリトンサックスのデヴィッド・スウェルセンのトリオで、知らないひとだがとてもいい感じの熱いブロウが聴ける。10曲目はバスーンのカレン・ボルカとロイ・キャンベルのトランペットのデュオで、これはめちゃくちゃいい。バスーンをここまでごりごり吹けるとは。女のひとだよね? 短いけどいい。11曲目は、オスカー・ノリエガ、トレヴァー・ダン、トム・レイニー(大活躍)のトリオで、モーダルで熱い演奏。のびやかで自由なアルトに聴き惚れる。このひとも、フレージングがじつに個性的ですばらしい。最後の12曲目はフルートのロバート・ディックによる独奏。重音奏法などを駆使した最先端のフルート技法が聴ける。たぶん現代音楽のフルート奏法なのだろうな。かなりびっくりするよ。このひとは現代音楽〜フリージャズ〜即興と股にかけている猛者なので、そういう蓄積がこのソロで爆発している。ちょっと尺八っぽいところもあるぞ。ここで1枚目は終わり。あー、疲れた。
2枚目に移ると、1曲目は1枚目同様、奥さんのステファニーによるピアノソロ。2曲目はヴォイスのシェリー・ハーシュとキーボードのデヴィッド・ワインスタインによる演劇的な要素も含むデュオ。面白い。3曲目はエラリー・エスケリンとマーク・リボーのアコーステリックなデュオで、繊細な表現。マーク・リボーはかなり饒舌で、逆にエスケリンは控えめ。4曲目はアニー・ガスフィールドのピアノトリオで、ベースではなくロジャー・クライアー(と読むのか?)のギターが入ってる。マイナーブルースだが、妖艶。5曲目はシルヴィー・クルボアジェ、イクエ・モリ、スージ・イバーラによる女性3人の即興。いや、これはなかなか。手慣れた感じだが手垢のついてない感じがいい。終わり方のあっけなさも好き。6曲目は、韓国人女性チェリストのOKKYUNG
LEEというひとのチェロソロ。豪快でめちゃくちゃかっこいい。クリスチャン・マークレイ、ヴィジェイ・アイヤーとかとそういうシーンの最前線で演ってるひとらしいけど、まったく知りませんでした。7曲目はウィリアム・パーカーのおなじみリトル・ヒューイ・ビッグ・バンド。ロイ・ブラウンやサビア・マーティンもちゃんといる。速いテンポに乗ってトランペット(ロイ・キャンベル?)が激しく吹きまくる。これは説得力あるなあ。アルトサックスソロ(ロブ・ブラウン?)はややオフマイクだが、パーカーのアルコベースとからみあい、ねっとりと濃厚。8曲目はロイ・キャンベルのトランペット無伴奏ソロ。力強く、金管!って感じの演奏。非常にブルース的なものを感じる。9曲目はルイス・ベロゲニスとトニー・マラビーの2テナーにベース、ドラムという、どう考えてもゴリゴリの編成。で、内容は予想通り。どっちがどっちかわからないぐらいの発熱・発汗いちじるしいブロウが続く。いやー、いいですねえ。まったもって私好みの、古いアコースティックフリージャズ。こういうのがやっぱり来るわあ。テナーっつうのは、これですよ。11分41秒と、この2枚組のなかではもっとも長尺。10曲目は藤山裕子ソロピアノ。静かで内省的なようで、鋭いフレーズ連発。11曲目はトランペットのレスリ・ダラバというひととウェイン・ホロヴィッツのデュオ。ホロヴィッツのシンセは、大きく震えるような音をダイナミクスをつけてぶつけてくるが、ダラバのトランペットは訥々とした素朴なフレーズで応じる。琴のような音もシンセなのだろうか。2枚組をしめくくる12曲目は、なんとクリス・スピードのテナーソロ。いつもどおりの抑制のきいた音色で淡々とフレーズを重ねていく。アーヴィン・ストーン氏を追悼したこの2枚組ライヴを聴くことで浮かび上がってくるのは、ニューヨークの音楽シーンの豊饒さと、無国籍性で、いやほんと、いろんな国のひとが一緒に演奏しているだけでなく、このライヴやアルバム制作にかかわっていて、なんだかうらやましい。普段は聞けないようなセッティングでの演奏もあり、追悼云々を別としても、フリーミュージックファンは聞きのがしてはいけないアルバムだと思うが、やはりこの2枚組を貫いているのは哀悼の気持ちであって、それは純粋で一途で、作ろうとして作れないものなのだ。堪能しました。