「WARRIORS FOR PEACE」(JAMMIN’ THE COLOR RECORDS JC−18−006−2)
THE E.J.STRICKLAND QUINTET
もう大傑作だと思う。とにかく全曲興奮しっぱなし。マーカス・ストリックスランドの兄弟でドラマーのE.J.ストリックスランドのリーダー作。全曲このひとのオリジナル。また、ええ曲ばっかりなのだ。アルトとテナーの2管で、ピアノ、ベース、ドラムというめちゃくちゃオーソドックスな編成で、しかも、オーソドックスな曲、オーソドックスなソロ……と言いたいところだが、どこかちがう。曲も、アレンジも、なんと言うか微妙なところがものすごく新しく感じるのだ。たとえばテーマを途中からテナーがオクターブ下で吹き出す、というだけでがらりと空気が変わる、といった微妙な配慮が、豪快でざっくりしたジャズとは対極で、めちゃくちゃかっこいい。基本的には現代的なハードバップで、ソロイストは自分を押し出しつつ、全体のサウンドにも気を使いながらブロウするし、リズムセクションも従来のジャズのようにソロイストのバックアップ、リズムキープ、コードの提示……みたいな部分を押さえた演奏で、突出した表現や従来のジャズとは違ったものをやろう……という気持ちは感じられない。だからパッと聴くと「フツーじゃん」と思ってしまうが、これがフツーではないのだ。リズムの端々、ちょっとしたリフの端々、ソロの音使いの端々から、現代的な気持ちよさをビシビシ感じる。そして、アンサンブル。めちゃくちゃかっこいい。アンサンブルとアドリブソロの融合……などとむずかしく言わなくても、とにかく融合、融和、溶解、一体化しまくってる。テナー(とソプラノ)のユーレ・プカルはスロベニア出身らしく、まえに「アブストラクト・ソサエティ」という2テナーのアルバムを聴いたことがあるが、そこに参加していたもうひとりのテナーが奥さんであるということをはじめて知った。柔らかい音で無理なく吹く奏法だが、ブロウするときはする。最近のサックス奏者はこういうひと、多いな。非常に好ましい。ソプラノの個性的なフレージングに聞き惚れる。アルトのゴドウィン・ルイスは巨漢で、いかにもでかい音でブリブリ、ゴリゴリとテンションマックスで吹きまくりそうだが、じつはめちゃくちゃ繊細でバップの伝統を感じさせる理知的なプレイ、しかもブロウするときはブロウする……という100点満点のタイプ。画像検索すると、赤いマウスピースを使っている画像が出てきて、なんかほほえましい。ユーレ・プカルよりももう少しビバップ的、というか、アルトの伝統に則った演奏。ピアノのひともすごい。タイトルでもある「ウォリアーズ・フォー・ピース」というのはリーダー自身がライナーに書いているように深い意味があるようで、歌詞はないのだが、そういう気持ちも演奏から伝わってくる。ラストの曲にだけボーカルが入る、という構成もええ感じである(5曲目のボーカルバージョン)。傑作!