「LIVE IN PRAGUES」(STVERY RECORDS SR17−01)
ONDREJ STVERACEK QUARTET
名前の表記にウムラウトみたいなやつがいっぱいくっついていて、なんと発音するのかわからないが、ディスクユニオンのHPにはオンドレイ・ストヴェラチェクとあるのでそれにしたがっておく。まえから気になっていたひとで、前作では「スリー・カード・モリー」とかやっていたので、おっ、と思ったのだが、結局、聴かなかった。今回ようやく思い切って購入したのだが、いやー、思っていたよりはるかにコルトレーンでした。ミュージシャンを「○○に似ている」とか書くのはよくないと思うが、このひとに関してはもう、とにかく「コルトレーン」である。マウスピースもリンクのメタルにオリジナルリガチャーなのだが、コルトレーンのあの音を出したいがためのセッティングだと思われる(音はコルトレーンよりもう少しふくよかで、すごくいい音)。本来、このアルバムもコルトレーンカルテットのこととか関係なく無心に聴くべきなのだろうが、このレビューに関してのみそういう配慮はやめてコルトレーン、コルトレーンと書きまくることにする。1曲目、無伴奏ソロからベースのオスティナートがはじまり、ハチロク的な曲がはじまるが(「スパニッシュ」という曲名だがあまりスパニッシュ感はない)、コルトレーンといってもリズムセクションの感覚は現代的で、60年代をなぞった感じではない。お約束のように、ピアノの熱いソロからはじまり、途中でテナーがバッキング(?)をつける。ピアノは大暴れし、ドラムも熱い。そしていよいよテナーソロだが、「もう今回はこれでいくもんね。脇目もふらず、ずっとこれだもんね。そう決めたもんね」というソロで、コルトレーンならソロのハイライトに出てくるような盛り上がりをソロの出だしからぶつけてくる。その熱さはなかなかのものである。ドラムは全然エルヴィンっぽくなくて、そこもまた面白い。2曲目「ネイマ」も、コルトレーンの冷徹で澄みきったような吹き方よりは甘い感じでこれもまたよしである。ピアノソロのあとに出てくるテナーソロはフレーズの端々までいやもうじつにコルトレーン的でしかもめちゃかっこよく、精神性も感じられる美しいもので、感服いたしました。3曲目はカルテットによる激しい演奏がいきなりはじまり、そのあとからテーマが出てくるという変則パターンで、テーマのあとはピアノソロになる。かなり過激なガンガン行きまくるソロでドラムも激しく煽るが、案外ピアニストは冷静なのだろうと思う。テナーソロは、これまたコルトレーンフレーズ出まくりで、ほんまに好きなんやなあとしみじみしたりして。コルトレーンをコピーするならこのひとのこのソロをコピーしたほうが勉強になるのではないか。いや、マジで。ベースのランニングソロとドラムソロがフィーチュアされる。4曲目はソプラノで、「バンチ・オブ・ジプシーズ」という哀愁漂う曲。たいへんいい曲で、ジプシーというより、日本っぽい旋律も感じられる。ソプラノソロは独特のものが感じられてすばらしく、音色もそんなにハードではない。つづくピアノソロも本作での演奏ではいちばんオリジナリティあふれる「変かっこいい」ものだった。後半どんどん盛り上がるこのピアノソロは本作の白眉といえるかもです。ベースのフリーな感覚のソロもよかった。5曲目はタイトルが「デディケイテッド」というのだからこれは……と身構えて聴いたら案の定、「至上の愛」前後のマイナーモードでフリーリズムのルバートからインテンポでひたすら重苦しい雰囲気……を再現する試みであった。やるー。いやー、この曲あたりは「コルトレーンの未発表です」と言って聴かされたら信じてしまうひとがいるかもなあ。コルトレーンフレーズをこれでもかとばかりに前面に押し出して吹きまくっており(とくに高音でソミレソミレ……と繰り返すやつとか)、遠慮というものはないのか、いや、今回はもう遠慮も会釈もないんです、という徹底振りで爽快である。しかも楽器コントロールなどは憎らしいほど完璧で、文句のつけようがない。ピアノソロもめちゃかっこええ。このピアノのひと、きっとめちゃくちゃ有名なんだろうな、俺が知らんだけで。ラストはバラードで、これはあまりコルトレーン的ではない普通の(?)バラード。そこが逆に良くて、アルバムの締めくくりにふさわしいようにも思う。ピアノソロがとにかくいい感じで、ベースソロも本作では一番のいきいきした演奏である。こんな言い方はよくないかもしれないが、コルトレーンカルテットトリビュート的なコンセプトを外れて自由にのびのびやってる……みたいな? でも、全体にとにかくすばらしかった。ときどきコルトレーンに捧げるようなアルバムが出るが、アラン・スキッドモアのころから、やはり「私はコルトレーンが好きで好きで好きで好きでたまりません。もちろん表面的にまねるだけでなく、精神性もちゃんと学んでいます。でも、とにかく好きなんです!」とはっきり押し出しているようなものが潔くていいと思う。コルトレーントリビュートといいつつ、6曲中5曲を自作で固めた、ちゃんとオリジナリティのある、コルトレーンの音楽・演奏のうえに自分の音楽を確立している作品だと思います。傑作。