「JAZZ SAMURAI」(ROVING SPILITS RKCJ−2034)
DAIRO SUGA × SHINICHI KATO
知らないミュージシャンのアルバムをはじめて聴くときはいつもどきどきわくわくする(じつは渋さ知らずのアルバム等で聴いていることがあとで判明)。スガ・ダイローはかなり話題になっているので、このアルバムはかなり楽しみにしていた。もしかしたらめちゃめちゃすごいのではないか。圧倒されて、ほかのアルバムを聴く気もうせるのではないか。そんな恐れさえ抱いていた。でも、聴いてみると、そんなに「とんでもなくすごい」アルバムではなく、ふつうのジャズピアノとして気軽に楽しめる作品だった。スタンダードを通常とは別の観点から切断して、新しい切り口を見せるというタイプのものばかりで、ときどきドキッとするような斬新な瞬間があり、そのときはゾクゾクするのだが、そればかりではなく、ごく普通のバップフレーズ弾きまくりの部分もあるので、だれでもとっつきやすい(ただし、そのバップフレーズ弾きまくり自体がバップのパロディように聞こえてしまうのは、ジョン・ゾーンがスタンダードをやるみたいなもんか)。時折見せる激しい部分も、どこか醒めている。そんな印象がまた鋭さを感じさせてくれていいんですよねー。
「スガダイローの肖像」(DISCUS COOLFOOLDLCP2090)
スガダイロー
気の狂ったような作品。そしてすばらしい作品。「キアズマ」をはじめ、フリージャズの伝統を、それもかなり正面から真剣に取り上げたような演奏、スガダイロー自身のバカテクだがそさをバカテクと感じさせない、パッションと狂気あふれるピアノが怒濤のごとく押し寄せる演奏など、おお、これは凄いっと思わず声をあげてしまうような曲の合間に、けだるい女性ボーカルをフィーチュアした変態的でレトロで頽廃的でジャジーな演奏がずるりと入りこむ。いや、そのボーカルフィーチュアの演奏自体はまったく変態ではないのですが、そういうアルバム構成が変態的なのだ。なんでこんな構成やねん! そして、そのボーカル曲が、フリージャズ的な演奏を超えるほど聴き手の心をとらえるのだから、この構成はたぶん「してやったり」なのだろうな。いやー、何度聴いたかわからんぐらい聴いたが、おもろいアルバムや! こんなおもしろいアルバムを作るひとはどういうひとか、と思ってライヴを聴きにいったが、こちらの期待をはるかにうわまわるどえらいピアニストだった。いやー、久々に興奮しました。これからどんどんグレイトになっていくはずのスガダイロー。石田幹雄とならんで、今後の日本、いや、世界のジャズ〜フリージャズ〜変態音楽シーンを支えていってくれるはずのひとです。期待大。
「渋さ知らズを弾く」(COOL FOOL/VELVET SUN CLFL−0004)
スガダイロー
「ジャズ史に残る傑作」だと言ったら大げさなことをと思われるだろうか。いやー、私はそれぐらいすごい作品だと思っとるんです。スピード感、グルーヴ、なにをとってもこれは「ふつうのジャズ」だ。ふつう、というのは平凡という意味ではない。ふつうのジャズファンが聴いても全然OKなジャズということです。しかもこれはまぎれもなくフリージャズでもある。そうか、フリージャズはふつうのジャズだったのだと気づかされた。かっこよすぎるよ。コンポジション、アレンジもいやになるほど秀逸。だれが聴いてもこのひととすぐわかる個性派の竹内直が暴れたおす。あー、かっこいい。死ぬ。超好き、めっちゃ好き。ボントロはこれも世界最高のボントロ吹きのひとり(と最近思っている)後藤篤。このひとはブロウも音質も音量も泣きもある。リーダー以外、現行渋さとかぶらないメンバーであるのも新鮮。ドラム、すごすぎる。ベースの情感たっぷりのアルコ、たまらん。あー、言葉では伝わらんし、伝えるのがめんどくさい。とにかく聴いて! そしてピアノ。かっこいいですねえ。さっきからかっこいいという言葉を多発していて、自分の語彙のなさに唖然とするのだが、かっこいいというのが一番ぴったりなのでしかたがない。何度も何度も聴いてるうちに、どこかでこんなかっこよさを聴いた覚えがあるなあと思ったら、そうそう、この狂っていきかた、ドライブ感、哀愁のメロディーなど、ちょっと明田川さんとの共通項を感じたりして。しかしもちろんスガダイローはスガダイロー。個性のかたまりのようなひとである。スタイリッシュで、ある意味「超かっこつけ」「超いきり」な傑作。
「春風」(VELVETSUN PRODUCTS VSP−0002)
スガダイロー
チェルノブイリを撮影した写真に触発されたピアノソロだというが、そういうこととは関係なく、この演奏は2013年の日本のジャズがいかに凄まじい高みにあったかということを後世に証明する一枚になると思う。このすばらしい演奏を聴いていると、人間という生物が地球に誕生し、文明を築き、やがてピアノという楽器が生まれ、それを操ってこんなにも感動的な表現をするようになった、ということがいかに宇宙的に稀有なことかといったわけのわからない妄想が頭に浮かぶ。ここに収められている演奏は、なんと人間的なのだろう。ジャズとか即興とかそういったものを百万光年ぐらい超えた、人間の表現の最良のもののひとつではないか、とさえ思う。そう、感動的なのである。なんだか泣きそうになるのである。自分個人が、というより、人類がいつかは滅ぶのだろうなあ、というはかない事実がすんなり納得できてしまうほどに、この演奏はこれ自体で完結している。そして、チェルノブイリの写真を眺めながらもう一度聴いてみると、人間のアホさとか業とかが感じられて、また泣きそうになる。日本人もほんまにアホやと思う。それ以外にありますか。そして、スガダイローというのはすごいなあと、単純に感心してしまう。世界中のひとに聴いてもらいたい、いや、聴いてほしくない、そんなアルバムでした。
「EXCLUSIVE TRUCKS FOR SUGA DAIRO HARUKAZE」(VELVETSUN PRODUCTS)
スガダイロー
「春風」のおまけCD。正直、なんでこれが「おまけ」なのか理解できないほどの演奏で、スガダイローファンは、たとえどんな手を使ってでもこのおまけを入手して聴くべきだとさえ思う。2曲とも短い演奏だが、なーんか聴いてて泣きそうになるんだよね。ほんとのはなし。ええわー。また聴こう。
「刃文」(VELVETSUN PRODUCTS VSP−0005)
スガダイロートリオ
傑作。もう、最初に言っときます。傑作。1曲目から興奮また興奮。静かな曲も、激しい曲も、とにかく刺激を与えてくれる。感謝。このアルバムを聴きながら、ちょうどスガダイローさんを頭を思い浮かべながら小説を書いていて、その小説で「エピストロフィ」がけっこう重要な意味を持っているという設定だったので、6曲目に「エピストロフィー」が入っていたのにはちょっと驚き、その偶然に感動したりした(フリーになる合図のようにキアズマが引用されています。ドラム冴え渡り、超かっこいい演奏!)。ベースはピチカート(たとえば5曲目)だけでなくアルコの表現力も抜群で(あたりまえかもしれないが、音程もめちゃいい)、ドラムはパワフルでレスポンスも速いし、さすがリーダーの、なにが起きるかわからない演奏に対応できる凄腕の人材だ。10曲中8曲がリーダーの作曲で、ええ曲書くなあ、としみじみ思った。残りの2曲がモンクの曲と「男はつらいよ」(!)だというのもすごい話だが、後者はギャグなのかと思って聴いていたら、だんだんとモンクの「ミステリオーソ」みたいに聞こえてきて、最後にもう一度テーマが出てきたときは、まるで日本の童謡かなにかみたいに思えたから驚愕した。美学! フリーっぽい曲もあるが、全体としてはめちゃめちゃ王道で、それも、じゃあハードバップなのか、とかいわれると、そういうのではなく、これが日本の今のジャズの王道だと思った。スガダイロートリオは、ジャズとして変化球どころか、今もっともど真ん中を直球勝負で真っ直ぐに進んでいるバンドではないのか。それにしてもタイトル曲「刃文」のかっこいいことよ。この曲がいちばん異常で、かつ美しかった。ジャケットは裏も表も日本刀の刃の超拡大写真だけで、文字はタイトルも含めてなーんもないし、レーベルのCDナンバーなどは、CDのラベルを見ないとわからないという不親切な作りだが、その不親切さにキュンとするのでありました。