choi sun bae

「ARIRANG FANTASY」(NO BUSINESS RECORDS NBCD108)
CHOI SUN BAE QUARTET

韓国を代表するフリーミュージックのトランペット奏者崔善培をリーダーとして、同じく韓国のグレイトなパーカッション奏者金大煥、日本からは吉沢元治と広瀬淳二というすばらしいメンバーでのライヴ。録音は副島輝人氏。これは聴くしかない。全編、徹頭徹尾シリアスな演奏で、崔善培はトランペットをまったくストレートに吹こうとしていないが、そこに強烈な意志の力を感じる。ときどき聴こえるエロクトロニクスの音は広瀬さんではなく、吉沢元治なのか? 1曲目は基本的に崔善培と吉沢元治による異常な音のぶつかり合いである。2曲目は広瀬淳二のテナーと崔善培のトランペットが奏でる重い吹き伸ばしの音に心を鷲掴みにされるようなコンポジションからの即興。管楽器二本だけによる深い表現。3曲目は金大煥のパーカッションソロがフィーチュアされる。細かい、微細なリズムの積み重ねで大きなうねりを作っていく。4曲目は崔善培の悲痛な叫びのようなかすれた音色のトランペット(というのはこちらの受け取り方でしかないのだが)が広瀬の痙攣するようなサックスと絡み合う。そこに、吉沢の太い縄をぎりぎりとねじっていくような重量感のあるアルコベースが加わり、壮絶な演奏が展開する。本作の白眉といっていいすばらしい即興。ラスト5曲目はタイトルにもなっている「アリラン・ファンタジー」で、22分近くに及ぶ演奏。冒頭、吉沢元治の音を加工したウッドベースによるソロ即興が長く続く。4分40秒ぐらいから金大煥のパーカッションと崔善培がいきなり入ってくる。金大煥の打楽器は、いわゆるフリージャズ〜インプロヴァイズドミュージック系のだれとも似ていないので(はっきりと「ジャズとは関係ない」という感じがする)「はっ」とする感じなのである。逆に、崔善培のトランペットは親しみがある(理由はわからない)。広瀬淳二も加わり、じわじわと熱量を保つ、不穏で、重く、シリアスな即興が続いたあと、どういうスイッチが入ったのか10分あたりで突然ボルテージが上がる。12分ぐらいで一旦終る感じになるのだが、トランペットの無伴奏ソロになり、そこから静かな即興になる。ここが聴きものというか、めちゃくちゃ面白くて、全員が距離をとりながら、何度か終わる気配を見せながら続いていく。このダルさとそこからの昂揚が即興音楽の楽しさのキモだろう。最後は広瀬淳二がマルチフォニックスを駆使した絶妙な無伴奏ソロを展開し、4人が加わって終演する。個性のぶつかり合いという意味ではこれ以上のものはない。シリアスだが楽しい演奏です。