「六日のあやめ」(OFF NOTE ON−20)
原田依幸 鈴木勲
これを傑作といわずしてなにを傑作といおう。すごい。鈴木勲と原田依幸という異色な顔合わせのデュオで、これほどの成果があがろうとは誰が想像しただろうか(といっても、成果があがるとと思ったからライブをしたのだろうし、録音もしたのだろうけど)。とにかく聴いてもらうしかない。フリーフォームのデュオにおけるスリル、快感、緊張感、失敗と成功……といったものすべてがここにある。ピアノとベースのデュオというと、楽器の特性からして、ピアノが主でベースが従になりがちだが、このふたりの関係はまさにフィフティフィフティ。疾駆するピアノにベースが全く動じずにからみまくる。原田さんの作品のなかでは「KAIBUTSU」と並んでいちばん好きかも。何度聴いてもいい。いいものはいい。対等のデュオだと思うが、ライナーに「鈴木勲〜原田依幸」とあったので、とりあえず鈴木勲の項目に入れておく。
「1998,NEW」(AKETA’S DISK PLCP−75)
鈴木勲グループ
ミュージシャン名が「鈴木勲グループ」となっているので、鈴木勲の率いたグループとしてはかなり異色というか、とんがったメンバーをそろえたもんだ、と驚くかもしれないが、実際には複数のセッションをまとめたもの。メンバーのなかでいちばん異色なのは原田依幸だが、彼は6曲中一曲に参加しているにすぎず、あとは加藤〜小山とのトリオが3曲、そして小山とのデュオが1曲。4人が全員参加している曲は一曲もなく、ある意味看板に偽りありなのだが、加藤〜小山とのトリオが「鈴木勲グループ」であって、そこに一曲原田依幸が客演した、という風にとると納得いくかも。ただ、そんなことはどうでもよくて、実際の演奏は悪くないのです。やっぱり原田の参加した一曲(これだけ21分とやたら長い)のテンションはほかの5曲とはあきらかに異なっており、まさに「勝負」という感じで、ややダレる場面もあるほかの曲からすると、異様なまでに突出する緊張感が全編にわたって続く。つまり、この原田の参加した曲こそが本作の白眉に聞こえてしまうことが、逆に本作のバランスを壊している。だって、私はいつも一曲目のソロを聴いたら、5曲目に入っているこの即興に「ぴっ」と飛ばしてしまうから。あかんのかなあ、あかんやろな、こういう聞き方は。あかんあかん。と言いつつ、やっぱり今日も5曲めを聴いてしまう私はダメです。21分間に叙情もえげつなさもスウィングもなにもかも詰まっているオーケストラのような即興演奏。トリオの曲もかっこいい瞬間はたくさんあるのだが、そういう瞬間がくるのをじーっと待つのが私にはすでにしんどいのです(サックスがいないからかも。サックスが入っていないと興味がもてない体質なのだ)。やはり、鈴木〜原田というと「六日のあやめ」だなあ。
「一刀両断(ZUN−BARARIN)」(OFF NOTE ON−64)
鈴木勲×原田依幸
「六日のあやめ」は額に入れて飾っておきたいほどの傑作で、原田依幸の数多いアルバムのなかでもベストスリーに入れたいほどのすごい作品だったが、本作は同じメンバーによる10数年ぶりの邂逅である。これがまた、すばらしい演奏になった。鈴木勲というひとは、衰えというものを知らんのかなあ。妙なタイトルにだまされてはいけません。めちゃめちゃシリアスで、かつ、めちゃめちゃかっこよく、かつ、めちゃめちゃ楽しい演奏がぎっしり詰まっている。これはもう、日本が世界に誇るデュオといっていいと思う。とにかくぼーっと聴いているだけで、身体が小刻みに痙攣し、気がついたら足をどすどすいわせ、あちこちを叩きまくり……といった一種のトランス状態になっているような凄まじい疾走感と、それとは真逆の、ぽっかりと空間に穴があいているかのような虚脱に挟まれたような世界なのである。原田さんのピアノは、なんというか、「横へ横へ」行く感じなのだが、鈴木さんのベースは上下にそれをつなぎとめたり、自在にかきまわしたりしている。え? なんのことかわからん? 自分でもよくわからないので説明不可能なのだが、このデュオの相性がとにかく抜群であることは断言できます。あー、一度生で観たいなあ。
「慟哭」(OFF NOTE ON−65)
鈴木勲 原田依幸 トリスタン・ホンジンガー
これはめちゃめちゃよかった。何遍聴いたかわからんぐらい聴いた。そのたびに新鮮で新たな発見があり、ひきこまれる。いや、ひきずりこまれるといったほうが正確か。3人とも凄くて、そのバランスやおのおのの役割を果たす絶妙の距離感、深いからみあい、疾走感などどれも筆舌に尽くしがたいほど「美味しい」のだが、そのなかでトリスタン・ホンジンガーのチェロが刺激剤であり起爆剤でありつぎつぎと場面転換をもたらす意味でもキーになっていると思う。オフノートからこのメンバーに近い編成でのアルバムがいくつか出ていて、どれもすばらしいのだが、もしかしたら本作が私にはいちばんぴったりかもしれない。唸り声もすごい。言葉としておかしいかもしれないが、深い深い闇のなかの爽快感、みたいなものを聴いている間中ずっと浴びているような気がする。傑作。