steve swell

「SWIMMING IN A GALAXY OF GOOD WILL AND SORROW」(ROUGE ART ROG−0009)
STEVE SWELL’S FIRE INTO MUSIC

 なんちゅうタイトルじゃ。なんちゅうバンド名じゃ。リーダーであるスティーヴ・スウェルのやる気がひしひしとつたわってくるではないか。でも、曲も演奏もすごくいいんだけど、なーんか何度聴き直しても印象が鮮やかでない、というか、ガーンと来ない。練り上げられたコンセプト、すばらしいソロの応酬、リズムセクションもよい……言うことない感じなのだが、どこかぴんとこないのだ。リーダーであるスティーヴ・スウェルの演奏はめちゃかっこいいし、ベースはウィリアム・パーカー、ドラムはハミッド・ドレイクなので言うことないはず。ので、もしかしたらアルトのジャミール・ムーンドクのプレイのせいかもしれない。編曲ががっちりしすぎているのか? でも、もちろん悪いアルバムではなく、それどころかめちゃいい内容なのだ。ただ、ちょっと散漫な印象を受けるだけ。これはこっちの問題なのかなあ……。大音量でもっぺん聴いてみよう。こういうアルバムは、何べんも聴いているうちに急に印象が変わったりするしね。

「LIVE @ THE VISION FESTIVAL」(NOT TWO RECORDS MW 780−2)
STEVE SWELL’S SLAMMIN’ THE INFINITE

 スティーブ・スウェの新プロジェクトらしいが、基本はピアノレスカルテットで、そこにこのライヴではピアノのジョン・ブラムがゲストとして参加している。テンションの高いフリーインプロヴィゼイションかコンポジションに突入するのだが、スウェルの曲がどれも高水準なのだ。曲とフリーの部分が有機的につながっていて、全体としてひとつの「曲」になっており、インプロヴィゼイションを聴いた、とか、曲を聴いた、とか、誰々のソロを聴いた、とかいうより、「音楽を聴いた」という満足感にひたらせてくれる。こういうのがポストフリーなのだろうか。ボントロ本来の豪快な魅力を十分に感じさせるトロンボーンソロもいいが、テナーのサヴァ・マティーンがどの曲でもフィーチュアされており、主役を食ってしまうようなすばらしくもフリーキーなソロを展開していて、ちょっと感動ものである。煽りたてるようなピアノ、ベース、ドラム……みんないい。うーん、このバンドは目が離せないかも。全部で3曲しか入っていないが、ラズウェル・ラッドに捧げた曲や、フランク・ロウに捧げた曲があるというのも、スウェルの音楽的バックボーンがわかって興味深い。

「KANREKI:REFLECTION & RENEWAL」(NOTTWO RECORDS MW−929)
STEVE SWELL

 タイトル通り、トロンボーンのスティーヴ・スウェルが60歳を記念して録音した二枚組だが、ジャケットには漢字で「還暦」という文字が50個並び、ジャケットの裏側にはなんと(途中で切れているものも入れると)410個の「還暦」の文字が並んでいて(田中調べ。まちがってるかもしれません)、目がおかしくなる。それだけではなく、ライナーノートのあちこちに計35個、CDの表面に6〜70個の「還暦」が並び(ちゃんと数えられないのは上下左右が切れているから)、ジャケットの折り畳まれる部分にもゲリラ的に「還暦」が12個……という「スティーヴ・スウェルさん、いったいどうしたんだ!」と心配したくなるようなめちゃくちゃなデザインのアルバム。もし、あなたが彼の友達なら病院に連れて行ったほうがええでと思うほど。ノットトゥーレコードはこの暴挙をなぜとめなかったのだ、という気もするが、裏ジャケットには「カンレキというのは、日本の60歳の誕生日のお祝いで、人生の新しい章に移行するためにその人物の過去の経験の反省とエネルギーの再生が行われる」みたいなことが書かれている。まあ、そんなことより内容である。そして、これがめっぽう面白いのだ。最初、ぼんやりと聴いていたときは一曲ごとにメンバーも演奏内容も変わるし、統一感がないなあ、と思っていたのだが、しつこくしつこく聴いているうちに、ものすごく面白いアルバムだということがわかってきた。スウェルのお祝いアルバムなのにスウェルが参加していない曲もあったりするのも面白い。個人的にはスウェルのイメージというのは、ゲブハルト・ウルマンとの「アンサンブルにソロに作曲に……となんでもでき、かなり過激だが、きっちり筋の通ったフレーズをしっかり吹く、めちゃ上手いトロンボーン奏者」というもので、ヴァンダーマークとの演奏もそういう風に思っていたが、本作ではかなりちがった面も見せる。まず1枚目の一曲目は、スウェルにポール・フラーティ、スペンサー・ヤー、ウィーゼル・ウォルターというメンバーでの集団即興で、31分もあるが、これが山あり谷あり海ありドブありで、どんどん場面が変わっていくし、スペンサー・ヤーのヴォイスがなんとも絶妙に楽しくて聞き入ってしまう。2曲目は、ベースがドライヴするコンポジションもので、途中ちょっとフリーになる場面はあるものの基本的にはウルマンやヴァンダーマークとやってる音楽に近いような気がする。アトミックっぽいなあ、と思ったのはマグナス・ブルーが参加しているからか? スウェルの曲だが、ええ曲書きまんなあ。3曲目は、なんとスウェルは作曲のみで、演奏には参加していない。クラリネットアンサンブル4重奏だが、メンバーがネッド・ローゼンバーグ、ギレルモ・グレゴリオらも入っていて豪華である。これがもうめったやたらと面白くて、何度も聴いてしまうのである。即興とコンポジションが絶妙に入り混じり、ソロや混沌とした集団即興、そして不協和音と美しいハーモニーの対比など、そのさじ加減が抜群である。そして、なにより曲がかっこいい。スウェルの作曲の才能にすっかり感心。1枚目ラストは、スウェルとヴォイスのトム・バックナーによるデュオ。これもええ感じです。2枚目にいくと、いきなり一曲目はスウェルの無伴奏ソロの曲。スウェルってソロだと(マンゲルスドルフやジョージ・ルイスみたいに)もっとしっかり吹くのかと思いきや、かなり抽象的な演奏で非常にチャレンジングだった。2曲目〜4曲目は一種の組曲で、クラリネットのギレルモ・グレゴリオ、チェロとエレクトロニクスのフレッド・ロンバーホームとのトリオ。これがまたまたものすごくおもろいのだった。なかでもクラリネットには脱帽。このトリオはすごいわ。たぶん完全即興なのだろうが、めちゃくちゃ気に入った。完璧なトライアングル。こういうのを聴いてると時間が経つのを忘れる。そしてしめくくり5曲目は22分ある演奏で、アルトにダリウス・ジョーンズ、それにギターとチェロとベースという、ドラムのないクインテットで、スウェルの曲であるが、これもめちゃよくて、一曲のなかにさまざまな場面が設定されており、聴いていて飽きないし、とくにチェロの狂気とジャズっぽいアルトが耳に残る。なんともいえない謎めいた魅力のある作曲も見事。というわけで、この2枚組、かなり聴き込んだが、スティーヴ・スウェルの新しい人生、というかリニューアルにふさわしい傑作となったのではないか。

「STEVE SWELL PRESENTS MAGICAL LISTENING HOUR LIVE @ THE SOUTH STREET SEAPORT」(CADENCE JAZZ RECORDS CJR1222)
STEVE SWELL

 スティーヴ・スウェルがリーダーのグループのライヴで、メンバーはほかにネイト・ウーリー、ロイ・ベロゲニス、マイケル・アティアス。つまり全員管楽器なのだ。てっきり、スウェルのコンポジションをこの4人が演奏するものだと思っていたら、全編即興だった。ベロゲニスってこういうのもやるのね。ロングトーンの微妙な変化やノイズ、唾液の音、その他を互いが駆使し合いながらひとつの音楽を織物のように作り上げていく。ダイナミクスが半端ではなく、微細音から爆音まで振幅が広い。しかし、これがスウェルの「マジック」のひとつであって、生音ですごく小さな音の部分が入ると、耳を聾する音量でなくてもかなりでかくしたように聞こえるのだ。長尺の演奏2曲が入っているが、どちらにも共通していえるのは、ものすごい緊張感を保ちつつ全員が即興を行っていることで、ここは俺のソロだから好きにするぜ、という感じで飛び出してくる部分はほとんどなく、ほぼ全編、全員が残りのメンバーの出す音をひとつも逃さぬよう聴きながら自分の音を出している。それがめちゃくちゃ高いテンションにつながっているのだ。リラックスしている部分がほぼないように思える。だから、聴くほうも全身を耳として、対峙するように聴かないと面白くない。そういうタイプの演奏なのだ。メンバーのなかではとくにネイト・ウーリーが、さまざまな音色、フレーズ、リズムをつぎつぎとぶつけてきて、引き出しの多さを感じさせる。指揮というか指示があるのかないのかよくわからないが、ときどきびっくりするぐらい面白い展開になるときがあって、わくわくする。スウェル自身によるライナーによると、このグループでスタジオに入ったことはあるが、このアルバムがはじめてのライヴであって、そのときの録音を無編集で収録してあるそうだ。4人とも椅子に座って、弧を描くようにして演奏している写真が掲載されているが、皆真剣そのものの顔つきである。スウェルのライナーは、なかなか興味深く、この4人での即興のやり方というか作り方みたいなものが書かれている。まさにアコースティックなインプロヴィゼイションで、非常に聴きごたえがあります。

「DANCES WITH QUESTIONS」(NOT TWO MW 1034−2)
STEVE SWELL

 これはすごかった! 円安のせいもあって高かったけど、買ってよかった。充実しまくっている感じでどの曲もすばらしい。2019年にポーランドのクラクフで行われたジャズフェスティバルに集められた12人のメンバーによる演奏を中心に少人数の順列組み合わせをした純粋な即興が行われ、3枚目はスウェルの名のもとに「ダンス・ウィズ・ザ・クエスチョンズ」という大規模イベントが行われ、そのときのラージアンサンブルによる伴奏(?)である。
 スティーヴ・スウェルも今や大御所。ジャズ系の尖ったトロンボーン奏者として、また、教育者として、真摯な活動を続けているが、本作は自身も含めて12人編成による演奏が収められている、ある意味、これまでの活動の集大成といえるような気合いの入った3枚組。1枚目はそのメンバーのなかから4人ぐらいをチョイスしての即興演奏が並ぶ。スウェルが入っていない演奏も多い。1曲目は盟友のひとりといっていいゲブハルト・ウルマンのバスクラ、エリザベス・ハーニックのピアノ、ルネ・ストロームのベース、そして本人のトロンボーンという編成での即興。めちゃくちゃかっこいい。途中拍手が入って得そうが切れたあと、ウルマンのバスクラ無伴奏ソロを皮切りにインプロの嵐になるが、このあたりのヒリヒリする感じは本当にすばらしい。
 2曲目はトランペットのニクラス・ブラーノ、ヴァイオリンのカルロス・シンガーロ、チューバの(この界隈の音楽のファンにはおなじみと思われる)PER AKE HOLMLANDER、ニルセンラヴ……という編成だが、チューバの漆黒の鍾乳洞でこぼごぼと湧き上がるような低音をベースに、あとの四人がまるで深海で硫黄が噴き出している場の周囲に集っている生命体がそれぞれの「生」の想いをぶちまけているようなイメージが浮かんでくる。最後のあたりで一旦音が途切れ、空間を生かした即興になっていくあたりの凄まじい美しさは筆舌に尽くしがたい。あまり「北欧」とかいった先入観を持つのはいかがかと思い、そういうフレーズは省いてきたが、やはりこのクールな即興が折り畳まれていく緻密な演奏を聞いていると、ポーランドならではの「色あい」がこちらに突き刺さってくる。楽器編成におけるチョイスの美ともいえるかも。
 3曲目はアルトのSIGNE EMMELUTHとウルマン、スウェル、ニルセンラヴの4人。この演奏の主役ともいえるアルトのひとのちょっとダルい感じのフリーキーなソロやへろへろと痙攣するようなソロ、スウェルとのからみ、ドラムとのデュオなどが面白い。ニルセンラヴとスウェルは相変わらずのパワフルさで超かっこいいです。ウルマンはバッキングに徹している感じ。ズドン、と終わるラストもいいですね。
 4曲目はMIKOLAJ TRZASKAというアルト〜バリトンのひとと、HANNE DE BACKERというバリトンのひと、HOLMLANDERのチューバ、そしてベースという低音四人衆による演奏。チューバとアルコベースがなんともいえない不穏な雰囲気を醸し出していて、ふたりのバリトンもすばらしくてかっこいい。展開もスリリングで一時も耳を離せない。この演奏は本作中の白眉のひとつではないかと思うが、正直、本作は「白眉」ばかりなので凡演というものはまったくないのである。
 一枚目のラスト5曲目は、ヴァイオリンのシンガーロ、チェロのELISABETH COUDOUX(発音がわからん)、ELISABETH HARNIKのピアノ、トランペットのブラーノという面子。室内楽的な即興アンサンブルだが、トランペットのバーサイタルなプレイがかなりフィーチュアされ、ほかのメンバーも絶妙の演奏。しかし、全体としてはワビサビな感じがいいですね。すばらしい!  二枚目の1曲目はチューバ、ピアノ、アルト、バスクラという編成で、フリーインプロヴァイズドの限りを尽くす。だれが主役というわけではないが、アルトがかなり前面に出ている。ウルマンは本作では「バスクラリネット」とのみ表記されているが、この演奏はあきらかにテナーだと思うけどね。
 2曲目は、トランペット、トロンボーン、チェロ、アルトというカルテットで、フリーインプロヴィゼイションな感じのテンション高い演奏が続く。おもに、ブラーノのトランペットとスウェルのトロンボーンというデュオや、チェロとアルト(SIGNE EMMELUTH)とのデュオなど場面場面で見せ場があって、めちゃくちゃ楽しい。
 3曲目はバリトン、ヴァイオリン、ベース、ドラムという4人で、こういうのってわくわくしてくるのだが、この四人の演奏も期待にたがわず、という感じで、いきなりめちゃくちゃ楽しくてかっこいい。HANNE DE BACKERのバリトンがとにかくすばらしいし、ほかの3人もめちゃくちゃいい。全編新鮮なひらめきに満ちた、手垢のついていない即興で、すばらしいとしか言いようがない。
 4曲目はバスクラ、トロンボーン、チューバ、チェロという低音四人組。チェンバーな感じの演奏だが、じわじわくるそのパワーはすごい。ウルマンのバスクラ(タンギングなどのテクニック!)とスウェルのトロンボーンによるフリーな即興がごつい。それにからむチューバとチェロもひたすらかっこいい。ここまでフリーに徹するウルマンもなかなかないかも。ラストの犬がハアハアいうようなエンディングも圧巻で、いやー、最高です(レビューになってない)。
 5曲目は2バリトンにピアノとドラム。冒頭から聴き手の心をわしづかみにしてぐらぐら揺らすような凄まじい展開。超かっこいい。本作中の白眉……ってどれだけ白眉があるねん。嵐のように吹きすさぶ圧倒的な演奏。12分間、そのパワーは衰えない。最後は興奮の坩堝。
 6曲目はヴァイオリン、アルト、トランペット、ベースという編成だが、トランペットが主体に聞こえる。太いベースと空を覆うようなヴァイオリンが鋭く切り込む。これもまたわくわくが止まらないような即興。金管とアルトの会話、そこにベースとヴァイオリンが加わる豊穣。
 7曲目は全員によるぐじゃぐじゃなコレクティヴ・インプロヴィゼイション。「フィナーレ・エヴリワン」というタイトル通りである。
 三枚目は、70分の大曲一曲で、1〜2枚目が純粋な即興だったのに比べ、(自由度はかなり高いが)きっちりしたコンポジションなのだ。スウェルの作曲によるダンスの伴奏曲である(フェスティバルのライヴではなく、ラジオ局での録音だというがおそらく観客を入れたスタジオライヴ)。ていうか、ダンスの伴奏という頭で聴くと、冒頭いきなりの全員での混沌とした大即興ノイズ大会に驚く。この騒音が実際どんな風な舞踏の伴奏だったのかめちゃくちゃ気になるやん。そのあと、おそらくコンダクションがある低音のリズミックなリフとそのうえで奏でられる弦楽器の悲鳴のようなフレーズ、そして、そこに入ってくるドラムとトランペットとサックスのリフ、サックス勢のフリークトーンのあたりですっかりこの音世界に引き込まれる。そのあとも凄まじいリズムセクションとソロイストの応酬が続き、グローブユニティかなにかを聴いているような気持ちになる。ニクラス・ブラーノの張り詰めた音色のトランペットが、ピアノの激しい連打や管楽器陣のリフ、ドラムの煽りに高められる。そこからテナー(クレジットにはないがたぶんウルマン)の過激な、ざらついた音色でのブロウになり、ドスの効いたベースとともに頂点を極める。あー、めちゃくちゃかっこいい! そこから癖の強いコンポジションが現れ、ベースとのデュオでチューバのフリーリズムのソロになる。この落差もすばらしいですね。まさに人間対人間というデュオから、またリズミカルなコンポジションのパートが現れて(なかなか複雑な曲)、そこからピアノがひとり抜け出して内省的な感じのソロピアノになる。淡々としたパートのあと、サックス二本(アルトとバリトン)によるデュオになり、ここもかなりの聞きものだ。また重厚なアンサンブルになり、ソロベースになる。深みのある太い音色でのベースソロは奔放で豪快でしかもテクニックもすばらしい。そして、ピアノと金管によるリフが現れ、そこに全員が加わっていき、リズムを強調したかっこいいアンサンブルになる。延々と続くそのリフをバックにスウェルのトロンボーンが咆哮する。アルトがそれを引き継ぎ、そして、バリトンが……という具合にリレーしていく構成。ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラやヴァンダーマークのテリトリーバンド、ウィーン・アート・オーケストラなどを思わせる「フリージャズのビッグバンド化」という矛盾に満ちた試みの答のひとつだと思う。そこから一転して(たぶん)チェロを弓でめちゃくちゃに弾くというアナーキーでノイジーなソロがはじまる。この緩急の付け方はスウェルのセンスとしか言いようがない。チェロが好き放題やり倒したあと、全員による静謐なアンサンブルが現れ、(たぶん)ヴァイオリンとチェロがおよそまともではないノイズのような音だけを発するデュオになる。そこにリフがかぶさり、もう文章では言い表せないような音空間が出現する。ある意味スピリチュアルといってもいいかも。そこから一転して弦楽器とアルトが美しい音色を奏でるデュオになる。何度も言うようだが、この緩急! 東洋的な「間」も感じさせる凄さ。そのあと、なんというかエキゾチックな雰囲気のテーマが現れ、3拍子のベースラインに乗ってピアノがこってりと濃厚にフィーチュアされる。ベースが暴れまくりドラムが爆発し、トランペットのソロにチェロがからみまくる展開となり、ここは単純に「かっこえーっ!」と言いながら聴いていてよい場面だと思う。しかし、このパートのテーマであるエキゾチックさは意識されている。ドラムとベースの激しいデュオからベースが消えてドラムソロ。そのあとピアノとヴァイオリンのデュオに重々しい(クラシック的?)コンポジションが加わるようなパートになり、そこから雪崩を打って、という感じで激しいベースとドラムの超アップテンポのリズムに乗ったアルトの過激なソロがはじまる。これもまさに「緩急」ですね。そこにスウェルのトロンボーンが乱入(?)し、いわゆる王道的フリージャズの展開になる。もうゴールはすぐそこなのだが、ここに来てこのストレートアヘッドな「フリージャズ」的な展開は興味深い。そして、リズムが消えて、バリトン、チューバのフリーインプロヴィゼイションになる。ベースとドラム、その他全員が加わってふたたび阿鼻叫喚の「フリージャズ」的なパートになり、混沌のなかにトランペットを主体としたテーマが現れ、ぐちゃぐちゃなパートとしっかりしたリフの対比を示す。それが次第にリフ(ちょっとアイラーっぽい?)に集約されていき、最後はまた混沌のなかにそのリフが埋没するような感じで70分の幕が下りる。冒頭部とラストが呼応するわけである。いやー、すごかった。観客の反応がすべてを物語っている。メンバーの名前を呼びあげるたびに観客が「ホオオオ!」と叫ぶのが凄いっす。
 メンバーそれぞれをフィーチュアしたパートとコンポジションを巧みに配置した演奏で、70分にわたる作曲と即興の衝突を真剣に聴いていると、劇的な大河ドラマや歌舞伎の通し狂言を見終えたような充足感がある。長丁場だが、場面がころころ変わり、爆発と静寂が短い周期でめまぐるしく訪れるので、あれよあれよという間に持っていかれるのは、さすがスウェルのコンポーザー、アレンジャーとしての才能だと思う。本作は(ダンスを見ていないけど)大成功だったのではないだろうか。  ある意味スウェルの才能がいろいろな方面で発揮された、ひとつの集大成といえる大傑作だと思います。