tomasz szukalski

「BODY AND SOUL」(POLONIA RECORDS CRPO003)
TOMASZ SZUKALSKI QUARTET

 その筋(ハードバップとか欧州ジャズとかが好きなひとたち)にはめちゃくちゃ有名なひとらしい。トマシュ・シュカルスキーと発音するらしいが、ポーランドのサックス奏者による91年のライヴ盤。まったく知らないひとで、なぜ聴いたかというと、日本語解説に「ハーモニーの限界を越えてフリージャズをも思わせる力強さとエクスタシーを感じていただける名演といえるだろう」と書いてあったからで、ほんまかいなと思いながら聴いてみた……というのは、6曲中に「ボディ・アンド・ソウル」と「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」とドスタンダードが2曲も入っているからで、期待の反面、大丈夫かと思う気持ちもあったが、1曲目はバラードではなく「ボディ・アンド・ソウル」をモードジャズっぽく仕上げた、確かに力強い演奏(もちろんモードではなく、チェンジはあるのだが、70年代ジャズ風のアレンジになっているのです)。シュカルスキーはテナーで、どちらかというとコルトレーン的フレーズを吹きまくるというより、ガッツのあるシンプルなフレーズと気合いで勝負する感じだが、音色は太く、明るい。いわゆる「ジャズ喫茶的名盤」みたいな雰囲気かも。2曲目はかなりえぐいベースソロではじまり(かっこいい)、まさに王道的70年代っぽい香りのぷんぷんする演奏。シュカルスキーはソプラノで激しくブロウするが、めちゃうまい。ドラムもがんばっているし、ピアノソロもいいけど、なんといってもベースに耳がいく。3曲目はムード音楽的なシンセのイントロではじまり、どうなるのかなあと思っていたら、そこにソプラノがまるでムードテナーのようにせつせつとテーマを乗せる。このひと、「ダラー・ブランドとアーチー・シェップに影響された」みたいなことが英文ライナーに書いてあり、シンセとソプラノデュオということで、えぐい演奏を期待すると肩透かしを食うぐらい、真正面ドストレートなバラードでした。ただただ、ひたすらメロディーを吹く。これはこれで泣けるが、「ハーモニーの限界を越えてフリージャズをも思わせる力強さとエクスタシー」はどうなったのだ、今のところないぞ、と思いつつ4曲目は70年代というよりは80年代っぽい、ラテンフュージョンっぽい曲。こういう曲だとアーニー・ワッツみたいに聞こえるが、低音を強調したかなりドスの効いた音で、1曲目よりはるかにテナーの響きがすばらしいし、フレーズもエグ目のを連発。さっきも書いたけど、このひとのプレイはすごくシンプルでわかりやすく、コルトレーンの影響といっても、グロスマン、リーブマン、ブレッカー……的にひたすらそれにこだわってメカニカルに発展させていくかっこよさというより、根性や迫力、音色などを優先させる部分もあり、歌心も抜群で、しかも私の嫌いないわゆる根性吹きになっていなくて、つまり、大味ではなくて、ものすごく好感が持てる。重量感のあるテナーだ。ブレイクのあとなぜかピアノの無伴奏ソロ(リズムはキープされている)になりそれが延々と続いて、最後のテーマ前で全員が入ってくるというアレンジもかっこいい。5曲目もちょっと4曲目に曲調が似ているが、途中4ビートになる構成の明るい曲。ピアノソロのバッキングでもベースが暴れてて気持ちいい。テナーソロもかなりアグレッシヴだが、このひとはソロの途中でスーパーインポーズとかキーをずらしたりということはあまりしないな。途中からドラムとのデュオになるが、あくまでメロディとリズムを大事にした、非常にちゃんとした(?)演奏で、ゴリゴリと吹きまくっているので高音部での逸脱も多く、解説のひとがフリージャズ云々といってるのはこの部分かなあとも思うが、たしかにとてもパッショネイトでひたむきな演奏である。「ポルトガル・ソング」という曲らしいが、知らない。ラストはアンコール曲で、アップテンポの曲ではつねにフルトーンで吹くひとだが、こういうバラードではサブトーンもまじえてダイナミクスを大事にした吹き方をしていてすばらしい。ただし、演奏スタイルは超普通。でも、もうお手本みたいなフレーズの組み立て方でためになるなー、ためになるよー。いやー、おもしろかったです。最初にも書いたけど、ジャズ喫茶では大人気盤なんじゃないの、と思いました。