lew tabackin

「LEW TABACKIN MEETS THE TADPOLES」(INSIGHTS RECORDS RVJ−6064)
LEW TABACKIN

 ルー・タバキンといえば、ピアノレストリオでごりごり吹いて、途中リズムセクションをとめて、延々ひとりでカデンツァみたいなことをやって拍手喝采……的なアルバムも好きなのだが、じつは一時はまってそういうのもけっこう買ったが、金に困ったときに全部売ってしまった。で、タバキンのリーダー作で一枚だけ売らずに残したのがこの「ミーツ・ザ・タッドポールズ」なのだった。なぜ手放さなかったのかというと、単純にすごく好きだったから。基本的にはタバキンがソロをして、4人のトロンボーンセクションはアンサンブルをつけるだけ(B面ラストの「A列車」だけは例外で、バストロをのぞく3人全員がワンコーラスずつ顔見せ的ソロをする)なのだ。このゴージャス感がたまらんのです。サルサのトロンバンガ的な感じというか、トロンボーンが4人でバッキングすると、すごくリッチなハーモニーになるが、それがちょっとしたリフとか短いアンサンブルだけに使われているという贅沢さ。このアルバムの狙いはそういうところにあるのだろうが、見事に成功している(ライナーで悠雅彦氏が「欲を言えば、トロンボーンセクションをもっと前面に出して、ルーのワンホーンカルテットにトロンボーン群が対応するという構図をさらに大胆に活かした兄場無作りが望ましかったような気がするけれども……」と書いているのは、的はずれだと思う。この控え目でさりげなくしかも力強いところが贅沢でいいのに)。曲をエリントン〜ストレイホーンのものだけに絞ったのもいい。タバキンは変わったテナーで、トシコタバキンオケでの演奏を聴いてもわかるとおり、モーダルな演奏はあまりせず、ビバップにベースを置き、コードチェンジのなかでモダンな感じをアピールするような、フレーズで勝負していく。こういうひとはほかにあまりいない。しかも、音色や音の持ち上げ方などは、もっと古い、たとえばコールマン・ホーキンスやベン・ウエブスター的なものも感じさせる。楽器コントロールやコード進行のうえにいろいろ積み上げていくフレージングとそのテクニックは完璧なので、ものすごく説得力があるのだが、なんというか「出自」がよくわからん。まあ、そんなもんどうでもいいわけだが、ビッグバンド系のソロイストのひとにはこういう、なんでもできる+個性みたいなタイプのプレイヤーがけっこういるのかも。タバキンは、ご存知のかたはよくご存知だと思うが、音色といい吹き方といいフレーズといい個性の塊のようなテナーマンで、フルートもめちゃうまい。だれかのエピゴーネンではぜったいにないわけで、どうしてバップ的なコードチェンジのうえで、かなり「普通」に吹いているのに、これほど個性を感じさせるのだろうか(ラストの「A列車」でのソロはかなりフリーキーな大胆なもので、これも彼の側面のひとつだが)。B2の「チェルシーブリッジ」だけが(例の)無伴奏ソロだが、このひとの無伴奏ソロはビッグバンドでもコンボでも呼び物のひとつだが(ハイライト?)、何度聞いても、だいたいわかっていても、やはり凄いなーと感動する。というわけで本作はかなり好きなアルバムで、折に触れて聞いているのだが、ひとつだけわからんのは、クレジットはされていないが、ほぼ全曲ピアノが入っていて、それはトシコなのだが、なぜクレジットしなかったのか(本人の意向らしい)がわからん。弾くんならちゃんとクレジットをするか、せめてだれかわからんけどピアノが入っている旨を裏ジャケットのメンバー欄には書くべきでしょう。たとえば、ピアノレスみたいだから買おう、というひともいるかもしれないし。