yasuhiko tachibana

「TOTAL KNOCK OUT」(ピッド P−002)
T.K.O

 立花泰彦、小山彰太、奥野義典の頭文字を取ったバンド名だが、松竹芸能の漫才師とまちがえられそうである。昔、北海道バンドというのがあって何枚かアルバムが出ていたが、それも小山さんがドラムだったなあ。この顔ぶれなのでさぞかしハードな演奏が展開するのだろと思いきや、1曲目は軽快な小唄風の曲でびっくり。でも、ピアノレスなのにすごくいい洒脱な雰囲気で、昔からあるスタンダードかと思ったが立花泰彦の曲。アルトが歌いまくる。やはりみんな上手い(あたりまえだが)。2曲目はモンクの「クリスクロス」。かっこいい。これもアルトで。奥野義典が抜群のセンスで吹きまくる。ベースソロもすばらしいし、8バース〜4バース〜2バースもシンプルだが聴きごたえ十分。ジャズやなあ。3曲目は山下洋輔の曲で「エレジー」。ニューヨークトリオでやってる曲。これもアルト。いやー、こうして聴くとやはりええ曲。クールに泣くアルト、情感たっぷりに泣くアルコベース、そしてラストテーマを聴くと、もう一度「ええ曲や……」としみじみ。4曲目は立花さんの「気分はプレーリードッグ」という変な名前の曲。だいたいプレーリードッグみたいな気分ってどんな気分やねん。そういえばスヌーピーが、プレーリードッグの真似をしていたなあ。ああいう感じなのか。フリーな即興ではじまり、テーマに入ると、「おおっ、なるほど、プレーリードッグや!」……とはなりませんが、ええ曲である(ブルース)。ソプラノで。けっこうたっぷりめのベースソロのあと、リフをバックにドラムソロ。5曲目は立花さん作曲のバラードで、日本語タイトルは「秋のスケッチ」となっているが、英語題名は「スケッチ・オブ・ノベンバー」で、秋といっても11月限定らしい。これもええ曲。アルトが感情をぐっと抑えたソロをする。6曲目も立花さんの曲でバンド名にもなっている「TKO」という曲だが、めちゃくちゃいい曲である。この曲の演奏が本作の白眉だと思われる。3人ともすばらしい。野太い音で縦横無尽に吹きまくるアルト、骨太にグルーヴするベース、躍動しまくるドラム……すごい迫力である。最後、テンポがどんどん速くなっていき、ぐちゃぐぢゃになるのもかっこいい。ラスト7曲目は奥野さんの曲で明るくゆったりしたノリの曲。これもアルト。そうか、テナーは吹いていないのか。アルバムの締めにふさわしい、ちょっと「マイ・ディア・ライフ」を思わせるようないい感じの演奏。というわけで、あまりにこのアルバムが気に入ったので毎日毎日飽きずに聞いている。傑作。なお、便宜上立花さんの項に入れた。