seiji tada

「WEE SEE!! LIVE@STUDIO TLIVE」(STUDIO TLIVE RECORDS STLR−010)
多田誠司・スガダイローDUO

 多田誠司というひとはアルトということもあり、また、日野皓正グループで生で聴いたときの印象などから、正直、あまり関心がなく(すいません)、本作はほぼスガダイローに対する興味で購入したのだが、1曲目からぶっ飛ぶというかのけぞるというか平身低頭というか、とにかく恐れ入りました。ここで聴く多田誠司は、「饒舌の魅力」というものを再確認させてくれる。音数少なく、一音一音に意味をこめて勝負する、という吹き方も当然あるわけだが、ここでの多田さんは、パーカーのように、膨大な音数を使って、こちらの心のわしづかみにし、感情をコントロールし、ひきずりまわし、叩きつける。パッショネイトな演奏は、本作ではとてもハマッている。そうだ、これがアルトの魅力なのだ、と思った。音色も音程も完璧で、リズムも強力で、テクニックも凄い。プロなら当たり前のことだと思うかもしれないが、いやいやいやいやそんなことないですよ。なかでも音の良さ、太さは抜群で、それをちゃんと自覚していて、「俺の音を聴け」とばかりにこちらにぶつけてくる。思い切りがよくて、すがすがしいかぎりだ。もちろんスガダイローはめちゃめちゃ凄い。左手がやたらめったら強力すぎるし、自己主張もきわめてはっきりしているが、それでも「デュオ」として相手にぴったり寄り添っていて、なんか感動する。ふたつのラインが、単純にピアノにサックスが乗る、ということではなく(逆も多い)、それぞれに裏切りあい、刺激しあいながらも、からまりあって太い綱となっていくさまは見事としか言いようがないし、「あー、もうわかってらっしゃる!」と叫びたくなるような、美味しい瞬間の連発で、何べん聴いても新しく凄い場面を見つけることができる。いやー、ここに詰まってる情報量多すぎるやろ。往年のストライドピアノやダラー・ブランド、ランディ・ウェストンなどを連想したりするほどの、左手の強靭さ(今、狂人さと変換されたが、なんかそれでも通りそう)には開いた口がふさがらん。ピアノもまた本作においてはものすごく饒舌なのだが、からまったりほどけたりしながらも、ふたりが結局同じゴールを目指して全力疾走していくそのパワーや高い音楽性には圧倒される。だが、根底はエンターテインメントであり、本作は大勢の聴衆を魅了するだろう。選曲もめちゃめちゃ良くて、スタンダードとふたりのオリジナルのほか、ミンガスの曲、オーネットの曲、マッコイ・タイナーの曲、モンクの曲、エリントンの曲などが、ちょっと外したような選曲のようで、聴いてみると、ああ、こんないい曲があったのか、という美味しいところを突いてくる感じがたまらん。これはもう第二弾を期待してしまうなあ。そして、オリジナル二曲もめっちゃええ曲なんですよ。スガダイローが高揚してフリーに暴れ出したとき、多田誠司のアルトがそれに合わせてフリーキーに吹くのではなく、べつの次元でストレートアヘッドに吹きまくる……という瞬間は何度聴いても「凄い」「上手い」というありきたりの感想しか出てこないが、とにかく「わかってる」ふたりによる最高のデュオでした。すばらしい。傑作。

「残照」(STUDIO TLIVE RECORDS STLR−014)
SEIJI TADA/DAIRO SUGA LIVE RECORDING AT 新宿PIT INN

前作はめちゃくちゃ凄かったが、本作はその評判の良さから出た残りテイク的なものかと思ってたら、いやいやいやいや、それどころか前作を超えるほどのド迫力かつ超絶技巧かつ繊細かつかっこよすぎる演奏ばかりで度肝を抜かれた。1曲目のブルース「黒坊主参り候」のイントロでスガダイローがノイジーな音でガンガンとリズムを弾きはじめ、そこにアルトが入ってからの怒濤の展開を聴いていると、スガダイローはあくまで徹頭徹尾フリージャズであり、多田はあくまで徹頭徹尾ビバップであり、どちらも妥協していないのに、それが見事にひとつになってこのすばらしい音楽を作り上げていることが驚異に思える。2曲目はウォーン・マーシュの曲だそうだが、テーマが終ったあと、アルトもピアノも同時に単音のラインを延々と演奏してそれが絡み合う。これはもしかしたらトリスターノ的なやり方で、テーマはそれを象徴しているのか、とか思っていると、それだけではない一枚上の展開になり、いやー、こんな演奏が聴けるというのは本当に幸せだとしみじみ思った。ビバップというのは、つくづく凄い大発明なのだ。3曲目は多田誠司作曲の重いバラードで、タイトルチューン。フルートによる演奏。このフルートがまた激ウマだし、ピアノは信じられないほど美しい。4曲目はクルト・ワイルのアラバマソングだが、ジャズ的なアレンジがなされているはずなのだが、意外なほどクルト・ワイル的な腐敗したような甘さや毒気、悲しみを感じる演奏で、本当にすばらしい。5曲目はビル・エヴァンスの曲だそうで、ものすごい左手のランニングと右手の辛口フレーズによるピアノソロはめちゃくちゃかっこいい。アルトが入ってきてバップフレーズを流暢に吹きまくるバックでの過激極まりないピアノもえげつないが、それをどこ吹く風とうけながしてひたすら歌心を追求するアルトも過激だ。名演! 6曲目は「ウォーム・ウッズ」というタイトルだが多田誠司の曲。バラードだが、昔からあるスタンダードかと思うほどいい曲。ラストのカデンツァとそこに寄り添うピアノもかっこいい(この文章「かっこいい」が多すぎるな)。7曲目は雨音を模したようなピアノの訥々としたイントロからはじまる「カム・レイン・オア・カム・シャイン」。ピアノとアルトのからみが、伴奏とソロというような単純なものではないので、聴くほうも一瞬も気を緩められない。まさにビッグバンドと共演しているような壮大なサウンドで驚く。ラストの痙攣するようなピアノソロからのエンディングもええなあ。白眉だらけの本作のなかでも、腹いっぱいになるほど聴きごたえのある演奏。ラストはスガダイローの愛奏曲(?)「ファイアー・ワルツ」。自由なイントロからテーマになり、かなり速いテンポの演奏で、ふたりが好き放題弾きまくり、吹きまくり、からみまくる。いやー、濃いアルバムだったなあ。買ってからしばらくのあいだめちゃくちゃ聴きまくったけど、今聞き直しても後世に残るぐらいの傑作では、という気持ちはゆるがなかった。傑作。マジ傑作。