yusei takahashi

「NU」(地底RECORDS B99F)
高橋佑成&中牟礼貞則

 前作「DETOUR AHEAD」がめちゃくちゃよかった中牟礼貞則がピアノの高橋佑成と組んだデュオ。全10曲だが、それぞれのオリジナルやフリーなインプロヴィゼイションのほかに「ナルディス」「ストレート・ノー・チェイサー」「枯葉」「ボディ・アンド・ソウル」といったスタンダードも入っている。いろいろなバンドでよく名前を聞く高橋佑成だが、おそらく多くのレビューで「年齢差」的なことに言及されていると思うけど、まったくそういうことは考えることもなく、ただただひたすらふたりのミュージシャンが交歓し、交感しているのを楽しんだ。聴くまえは、もっと揺蕩うような、原曲からはるかに遠く、高く乖離していくような演奏を想像していたのだが(たとえばジム・ホール、ビル・エヴァンス、リー・コニッツなどを連想)、そういう先入観を打ち砕かれるような、自然で自由で楽しくノリのある演奏だった。いや、しかし、ひとつだけ言わせてほしい。年齢のことはあまり意味がないので書かない、と言ったけど、前作「DETOUR AHEAD」でも思ったのだが、90歳にならんとする中牟礼貞則さんのリズムのすばらしさよ! もう、唖然とするぐらい安定していて、スウィングしていて、かっこいいのである。表題曲である4曲目など、若さ爆発で、たぶんなんの情報もなく聴いたら、あとで、ゲーッ、90歳……と衝撃を受けることは間違いない。そして、音色やダイナミクス、ピッキングの心地よさ……なども、本当に絶品であります。これは、奇をてらったところのない「フツー」のジャズなのだが、そのなかにふたりのミュージシャンがこれまでに蓄積したさまざまなモノが感じられて、いやー、よくぞこの音源をアルバムにしてくださいました、と思う。たぶん、中牟礼貞則氏にとってはこれはその蓄積のほんの一部を明かしたにすぎないのだとは思うが、それでもその豊穣な音楽性を感じることができるのはうれしいことです。たとえば8曲目の、だれがやっても同じようにしかならないはずの「枯葉」が、このふたりのものとして、蒔いた種が瞬時に発芽してみるみる育っていくような光景を見ているような気持ちになる。「枯葉」の最後はめちゃくちゃになるのも楽しすぎる。傑作としか言いようがない。続く「ボディ・アンド・ソウル」のギターソロのすばらしさは、もうよだれが垂れる。久しくこういうジャズを聴いていなかったが、この作品が地底レコードから出るということもうれしいかぎりであります。傑作!