「TAKE TAKE」(FOLLOW CLUB RECORD FC−001)
TAKESHI SHIMIZU TSUTOMU TAKEI
武井努はなかなかリーダー作を出さないのだが、この作品は清水武志とのCO−LEADER作であり、対等のデュオであり、コンポジションも五曲ずつわけあっているので、今のところ、武井のリーダー作に限りなく近いアルバムだと思う。武井努は、サックス奏者〜ミュージシャンとして、本当にさまざまな引きだしを持っている。モーダルでハードなブロウもみせるし、バップの美味しいフレーズを延々つむいで飽きさせぬし、もろスタンダード的な洒落た軽い演奏もするし、フリーキーなスクリームもするし、ノンコードな演奏もばっちりだし、メカニカルなフュージョン〜ファンクサックスのような現代ジャズ的演奏もするし、ホーンセクションもするし、ど演歌的な演奏もするし、せつない叙情的な演奏もするし、日本人好みな哀愁のメロディーも巧みだし、デキシー〜スウィング的な古いタイプの雰囲気もうまいし、ラプソディックな味わいも出せるし……とにかくオールマイティなのだが、そのすべてが、あの芯のあるダークな音色によってしっかりと支えられているので、なにをやっても武井カラーに染めることができる。世の中には、それぞれの分野でめちゃめちゃうまいサックス奏者がいるわけだが、彼のようにいろいろなジャンルを横断しながら、それを全部自分色に染めるプレイヤーはそれほど多くはない。このアルバムはそんな武井努の魅力を非常にバランス良く俯瞰できる作品である。彼の本作における相方である清水武志のすごさについては書く必要もないだろう。EDFやソロピアノをはじめ、さまざまな形態でのピアノプレイ、そして作曲クオリティの高さはすばらしい。このアルバムでも、じつは一枚全部をその形式で押し通すのはかなりむずかしいサックス〜ピアノのデュオを、ピアノとして、だけでなく、あるときはベース、あるときはドラム、あるときはもう一本のホーンとして完全に持ち上げている。何度聴いてもまた聴きたくなるのは、十曲(インタールードを入れると十一曲)の全てがバラエティに富み、しかもそこにふたりのプレイヤーのリラックスと緊張があいまった、すみずみにまで神経の行き届いた演奏が詰まっているからだと思う。ジャズ喫茶「コーナー・ポケット」のカーチャンが、「武井くんの新譜聴いた?」「買ったけど、まだです」「めちゃめちゃええよ!
めっちゃええ!」と言っていたのが記憶に新しい。傑作です。これまで一回もジャズを聴いたことがない、というひとにも、全力で推薦できる、だれにでもこの凄さはわかるタイプの凄さだ(ややこしい表現ですまん)という演奏であります。音楽っていいなー、とアホみたいな感想しか出て来ない。あ、そうそう。ふたりの「音色」の良さもぜひ味わってほしいです。なお、コンポジション的にも演奏的にもコンセプトとしても対等のデュオだと思うし、清水武志のほうが名前が先に来ているが、便宜上、プロデューサーでありライナーも書いている武井努の項に入れた。
「武井努QUARTET」(SHINSYU JAZZ MIN JM2−0001)
武井努QUARTET
京都でのライヴ。音質を保つためにミックスダウンした原盤からプレスではなくCD−Rで一枚ずつ手焼きした……ということらしい。スタンダードも武井のオリジナルも、テーマがあって各自のソロがあってまたテーマ……というジャズの常道的形式を踏んだ、さらりとしたアレンジの演奏が多いのだが、結局ジャズにはこういう形式がいちばん合っているのだなあ……というあたりまえのことに気づかせてくれるような内容である。ピアノもベースもドラムもすばらしいが、ゆるやかな吹き方のようで、じつは強靭なリズムを底に持っている武井のテナーがとにかく歌いまくる。武井努というひとはなんでもできる奏者で、アヴァンギャルドなものからゴリゴリのハードな吹奏、ファンクなブロウ、歌伴……などオールマイティだが、本作ではリラックスして、音量も控えめで、テンポもゆったりめで、早吹きで圧倒したりもせず、フレーズも過激なものは少なく、聴き手を思わず微笑ませるような楽しい演奏ばかりである(5曲目を除く。5曲目は長尺のかなりハードな演奏でフリーなパートもあり、アレンジも凝りに凝っていてかっちょええ。7曲目の吹きまくりのテナーソロも「いつもの武井」という感じだ)。これしかできないというひとならともかく、なんでもできるひとがこういうスタイルを今回選んだというのがいいですね。6曲目とかの選曲センスもすばらしいし、3曲入ってるオリジナルもめちゃいい曲で、心に残る。こうして聴くと、オリジナルではけっこうハードなブロウをかますが、スタンダードなどでは歌いまくる。もしかすると「曲本来の曲調」というのを考えて、いちばん原曲の雰囲気というか「あり方」に忠実に演奏しよう、ということなのかもしれない(違うかもしれない)。ライヴ録音なのだが、歓声や拍手がほとんど入っていないこともあって、ライヴであることを忘れてしまうぐらい内容が繊細で充実している。ミュージシャンそれぞれが自分をしっかりコントロールしているからだろう。しかし、録音は生々しく、武井のテナーの音が絶妙のバランスで入っている。最後の曲はなぜかフェイドアウト(収録時間の関係?)。傑作。