「春宵」(NOB−001)
TANAKA NOBUMASA
すばらしいです。ピアノソロなので、買ってから長いこと聴かずに置いてあったのだが、それを後悔した。一曲目のモンクの曲から、もうこのひとの世界にどっぷり浸った。ピアノソロというのは、基本的には、リズムもハーモニーもメロディーもひとりで全部やらなくてはならない。どれに重点を置くというわけにはいかないが、このひとの場合、独特のハーモニーとリズムが非常に個性的で耳を奪われる。そのうえ、フリーキーに暴れるところもあり、思い切りがよく、叙情的な面と鋭角的な面が一曲のなかに同居していたりして、もうめちゃめちゃかっこいい。作曲もひじょーに優れているし、スタンダードもオリジナリティあふれる解釈をしていて、とにかく言うことなしのソロなのだが、ひとつだけこれは疑問というか、「え?」という曲が入っていて、それは「世界に一つだけの花」である。このおなじみの歌謡曲を、田中信正はジャズスタンダードのように扱っている。それはいいのだが、その扱いかたにどこか聞き覚えがあるなあ、と思っていると、あ、そうだ、アケタの「夜明け」だ、と思い当たった。素材が大ヒットした歌謡曲である点、途中でテンポをアップしていく点、ソロの途中で原曲を茶化したような皮肉な感じ(というのとはちょっとちがうが、狂気とコミカルが紙一重みたいな雰囲気)の箇所があって聞き所になっている点など共通点が多い。というか、私にはアケタ版「夜明け」へのオマージュに聞こえる。真相はどうなのだろうか……。