「WHEN I’M BLUE」(BLACK & BLUE BB 866.2 ND 215)
BUDDY TATE
バディ・テイトの代表作がどこかの雑誌とかに載っているたびに、なんでこのアルバムじゃないの? と頭に「?」が128ぐらい点灯するのだが、ほんま、みんな、なんでアレとかアレとかアレを代表作などと言って恥ずかしくないのかなあと思う。だって……これでしょう、ぜったい。ほかにもいいものはいっぱいあるが、やはりテイトの真骨頂はワンホーンであります。リトルビッグバンド的なものは、たぶんカウント・ベイシーのオールド・ベイシー的サウンドを狙ったというか、そういうものをテイトに求めるひとが多いからだと思うが、私はああいうセレブリティ・クラブ・オーケストラ(だったっけ?もう忘れたなあ)みたいなものは、ダンスあり、ムードあり、ポピュラーソングのリクエストあり……みたいなクラブにはフィットしたかもしれないが、テイトを存分に味わうにはぜったいワンホーン!というわけで、本作の登場となるが、この一曲目の「フェン・アイム・ブルー」という曲にテイトの魅力のすべてが凝縮されているといっても過言ではない。もう……めちゃめちゃよい。テイトの、と書いたが、「テナーサックスの」と言い換えてもいいと思うぐらいである。テナーを志すものは、コルトレーン派でもロリンズ派でもゲッツ派でもブレッカー派でもグロスマン派でもブロッツマン派でもデヴィッド・マレイ派でも……まあとにかくどんなスタイルを目指しているとしても、とりあえずこれだけは聴きたまへ! 聴くべし! 聴くのだ若人! と叫びたい。ミルト・バックナーの、唸りたっぷりの、いかにもなベタなオルガンがフィーチュアされるこの曲は、「ミッドナイト・スロウ」というオムニバスの一曲目をも飾っていて、私はこのアルバムもそのオムニバスもしょっちゅう聴くので、この「フェン・アイム・ブルー」はものすごく良く耳にするわけだが、まるで飽きませんね。この曲、全然ブルースではないのだが、聴いているうちに、なんだかスローブルースのように思えてくる。それぐらいテイトのプレイとバックナーのプレイが「どブルース」的であるということだ。もちろんほかの曲もいいが、とにかくこの曲! この曲を聴いてくれっ。
「BUDDY TATE AND THE MUSE ALL STARS LIVE AT SANDY’S」(MUSE RECORDS K22P 6036)
BUDDY TATE
例のミューズオールスターズがサンデイズというライヴハウスで録音したライヴ。なんとLP4枚に分散して発売された(と思う。もしかしたら私の知らないアルバムがあって、5枚とか6枚出てるのかもしんないけど)。コブの2枚はほんとに最高の内容で、すばらしいのだが、テイトをリーダーにした本作も負けず劣らずすばらしい。コブが「ドリーム・セクション」と評したほどの最高のリズムセクションなので、管楽器が暴れようとなにしようととにかくなにをやってもばっちりなのである。ジャケット写真では、情けないブルドッグみたいな顔で写っているテイトだが、1曲目は「ジャンピン・アット・ジ・ウッドサイド」で、テイトのワンホーン。テンポがめちゃめちゃ速く、もうちょっと落とせばもっといい感じになったと思うけど、それよりなにより迫力を優先した感じであって、手に汗握るブロウが聴ける。アラン・ドウソンのドラムソロもかっちょええ。2曲目はクラリネットに持ち替えて、ブルース+小唄的な洒脱な演奏。3曲目「キャンディ」はずるずるのバラードでこれまたすばらしい。B面に移って、1曲目の「タンジェリン」は歌物だが、これを超スウィンギーに吹きまくって歌いまくって吹き倒す。ここまでやられたら、そりゃ観客は喝采するしかないでしょう。ラストの曲はテイト作のリフブルースで、アーネット・コブとクリーンヘッド・ヴィンソンが加わる。最初に出てくるのはコブで濁った音での迫力あるソロだが、短い。クリーンヘッドというひとのアルトは、(ブルースショウで生で観たときもそう思ったが)基本的にビバップだと思う。だから、こういうスウィングなセッションだとちょっと浮く。そして、正直いってかなり下手なので、自身のボーカルの味付け程度に間奏でちょろっと吹くのが向いていて、こういったがっつりした管楽器同士の対決になるとヨレヨレ感が目立つ。しかし、そのあといきなり歌い出すブルースシャウトはさすがのかっこよさで、アルトとは大違いの貫禄を見せ付ける。とにかく楽しい楽しいセッションなので、細かいことを言わずに全部丸飲みして楽しむのがよろしいんじゃないかと思う大好きなアルバムであります。
「BUDDY TATE AND HIS BUDDIES」(CHIAROSCURO CR−123)
BUDDY TATE
よくあるスウィング系のセッションで、一応譜面もあって、テーマとリフを合わせてあります的な、バック・クレイトン・ジャム・セッションみたいな内容。しかし、メンバーはすごくて、メリー・ルー・ウィリアムス、ミルト・ヒントン、ガス・ジョンソンという夢のリズムセクションにスティーヴ・ジョーダンというギタリストがリズムギターで加わっている。管楽器もバディ・テイトのほかになんとイリノイ・ジャケー、そしてロイ・エルドリッジ。テイト〜ジャケーと聞いたら聴いてみるしかないですね。というわけで、けっこう高い買い物をしたような記憶があるのだが、今はCDで再発されているらしい。でも、LPジャケットの、椅子に足を組んで腰掛け、テナーを唸らせるテイトの雄姿の迫力はレコードでないと伝わらないと思うよ。で、内容だが、これはなあ、うーん……ちょっと荒い。ちょっとというかかなり荒い。いいところもあるが、荒い。その荒さの原因はおそらくロイ・エルドリッジにあって、このひとの一本調子で力任せの演奏が全体を雑にしてしまっていると思う。1曲目はテナーのふたりはなかなかええ感じ。2曲目はメリー・ルー・ウィリアムス作のマイナーブルースで、モダンなコードがついているが、このかなりテンポの速い曲で、ジャケーとテイトがどちらも冴えに冴えたソロを吹きまくる。びっくりしますよ。どう聴いても「めちゃめちゃうまいモダンテナーマン」にしか聞こえないのだ。それぐらいフレーズも凄いし、よどみなく、技を見せる。こりゃー参った。この曲のふたりのテナーのソロを聴くだけでも価値あるアルバム。3曲目はバディの曲らしいが、ジャケーが今ひとつ乗り切れていない感じ。B面に移って、1曲目はバディ・テイトのおなじみ「フェン・アイム・ブルー」で、超スローテンポのムードミュージックすれすれのブルースバラードだが、こういうのをやらせるとテイトは異常にうまい。しかし、ワンホーンでよかったのに、ロイのトランペットがやや空気を乱す。ジャケーもさすがの貫禄だがテイトのほうが「いやらしさ」において勝っているのは性格の問題? ラストの「サンデイ」は、先発がロイ・エルドリッジの力まかせのソロで、晩年なのでしかたないのだが、ちょっと残念。そのあとテイトとジャケーのバトルが聴けるが、バトルというか、順番に吹きましたという感じで、盛り上がるところまではいかない。もともとそういう主旨ではないのかもしれない。全体にメリー・ルー・ウィリアムスのモダンでセンスのいいバッキングが光っています。70年代に入ってからの吹き込みらしいです。
「BROADWAY」(BLACK & BLUE/SOLID CDSOL 46003)
BUDDY TATE & WILD BILL DAVIS
LP時代からウハウハ言いながらコツコツ集めていたブラック・アンド・ブルーがちゃんと国内発売になるということで持っていないやつをいろいろ買った。本作も以前から存在は知っていたが聞いたことがないアルバムで、もちろんただちに買った。ブラック・アンド・ブルーのバディ・テイトといえば個人的にはミルト・バックナーとやった「アム・アイ・ブルー」が死ぬほどいいのでめちゃくちゃ好きなのだが、もちろん本作も悪いわけがない! と「!」マークをつけて叫びたくなるほどの期待感を持って聴いた。案の定、すばらしかった。ワイルド・ビル・デイビスでブラック・アンド・ブルーというと、ジャケーの傑作をすぐに思い浮かべるが、本作での演奏もじつに豪快かつシンプルで最高でありまして、フロイド・スミスのギターも、伴奏にソロにと最上のサポートをしている。それにしてもバディ・テイトのテナーはラーセンの2Mのメタルのように見えるが、そうだとは思えないほどサブトーンが見事だし、中音域はいかにもラーセンらしい濁った、適度にファンク感のある音ではあるが、我々がラーセンについて思うエッジの立った金属音ではなく、温かみのある太い音であり、しかも信じられないぐらい歌いまくるのですばらしいとしか言いようがない(ある人にきくと、ラーセンのほうがサブトーンが出しやすいと言っていたので、まあ、結局はあまり関係ないのかもしれない)。とくにブルースナンバーはどれも絶妙である。ジャケーやコブは、セッティング(人選とか)によって実力を発揮できないときもあるように思うが、テイトはつねに(少なくとも自分自身は)いつも文句のつけようがないソロをする(ゴツゴツしたフレーズを重ねるコブやジャケーに対して、テイトはつねに「滑らか」である。また、「音」としてある意味軽く吹くが、重々しいジャケーやコブに比べてもそれが逆に黒っぽく、重く感じる場合もある)。ある意味職人的であるし、根本的に「上手い」のだと思う。「ハロー・ドーリー」のテーマの吹き方なんか、「惚れてまうやろ!」と叫びたくなるほどの絶妙さである。続く「メモリーズ・オブ・ユー」のテーマのサブトーンでいやらしく吹くところの名人芸は、マジでほれぼれする。8曲目、13曲目は、フランソワ・ビエンサンというフランスのトランペッター(めちゃ上手い)が入って(このCDの表記だと8曲目から13曲目まで全部入ってるように思えるが、間違い)、よりセッション感が高まるが、9曲目のワンホーンのスローブルースなどは、なにをやるかわかっているのにこれだけ興奮させられるという完璧な名人芸である。音色、フレーズ、音量、アーティキュレイション、息遣い……などなどすべてがもうたまらん! という感じである。ワイルド・ビルのうねるようなオルガンとテナーが一体となって黒々としたごちそうを作り上げていく。10、11曲目あたりも、聞いているとほっぺたが落ちそうなほどのゴージャスな演奏ですばらしすぎる。12曲目の歌モノなども、テイトが音をベンドする妙技を聴くことができる。ラストの13曲目はメンバーで楽しく歌い、掛け声を掛け合うタイプの、ブラックエンターテインメントの極地のような演奏で、ギターとオルガンも爆発している(テナーはお休み)。
ブラック・アンド・ブルーというレーベルは、正直言って、アメリカだと人気が落ちていた(フランスでは逆に人気が高まっていた)スウィング系の黒人ミュージシャンがフランスに来たときにガサッと集めてざっくりと録音した、という感じなのだと思う。そういうがさつ(?)なやりかたが失敗する場合もあるだろうが、ブラック・アンド・ブルーに関してはなんともすばらしい成果を生んだのである。彼らは本国での人気はともかく腕はまるで落ちていなかった。セッションなので、「え? このひととこのひとが? いくらなんでもざっくりすぎるやろ」とアメリカなどでは思われるような人選も案外すごい効果を生んだりするわけだし(アーネット・コブとアル・グレイとゲイトマス・ブラウンなんてすごいっすよねー)、選曲などもセッションなのでスタンダードが多くなったのかもしれないがそれがなかなかピタッとはまったりしている(本作のように)。名人(?)だけを集めたセッションなので、「わかりあってる」感もすごい。
「CELEBRITY CLUB ORCHESTRA」(BLACK & BLUE/SOLID CDSOL−46002)
BUDDY TATE
セレブリティ・クラブ・オーケストラはバディ・テイト好きなら知らないものはいないバンドだが、30年以上続いたグループのわりには録音が少ないうえに、録音年代もばらばらなので、もっとも初期と思われる一枚がこうして容易に入手できるようになったのはうれしい(MPSのやつは、バンドとしても最後期の録音だと思う)。といっても、録音時期が1954年とめちゃくちゃ古いので、よそから出たやつのブラック・アンド・ブルーでの再発なのかもしれない(よく知らん)。第2弾もあるのだが、それは聴いたことがない(録音はかなりあと)。ようするにコブやジャケーも率いていた「リトルビッグバンド」というやつで、4、5管の編成でビッグバンド的なサウンドを出そうというバンドである。ホテルのクラブの専属バンドなので観光客が主な聴き手だっただろうし、ダンスの伴奏をすることもあっただろう。ボーカルもフィーチュアしただろう。メンバーもいろいろだっただろう。しかし、オールド・ベイシーの伝統はじつはここに息づいていたのか、と思うような音楽性で、カンサスシティジャズのジャンプ精神がこのシンプル極まりない演奏のなかにしっかり残っているではないか。超オールドスタイルのリズムセクションには驚くが、これがテイトの好みであり、カンサスシティジャズの根本なのだろう。「カウント・ベイシー」という本のジミー・ラッシングのインタビューで、「ベースドラムの4ビートはくれよ」とドラマーに要求する場面があるが、まさしくそういうリズムセクションである。オールドベイシーのリズムスタイルが54年においても維持されているのだ。録音も演奏もいい。バディ・テイト以外のメンバーは、正直、「だれ?」というひともいるのだが(その手のファンには有名なのかもしれないが私は門外漢なので)、みんな達者だし、なにより古いジャズの息遣いを濃厚に残している。これはもうたまらん! 1曲目のスローブルースからテイトの魅力全開で、フレーズも音色もリズムも、もう見事しか言いようがない、涎垂れまくりのブルースブロウ。ああ、こんな感じで毎晩、ホテルに集う紳士淑女をまえに濃厚なオールドジャズをぶつけていたんだろうなあ、と思うと胸が熱くなる。ボーカルフィーチュアの曲もいいし、「ワン・オクロック・ジャンプ」「ブルー・アンド・センチメンタル」「ドッギン・アラウンド」「ジャンピン・アット・ザ・ウッドサイド」「セント・フォー・ユー・イエスタデイ」……という選曲もオールドベイシー色が濃くて最高である。7曲目の超スローテンポの「アナザー・ユー」にはびっくりした。本来はこんなテンポで吹く曲なのかなあ。完全に美しいバラードとしての解釈。オルガンも効いている。どのアレンジもデッカあたりのベイシーの雰囲気があるシンプル極まりないもので、心に突き刺さる。本家であるカウント・ベイシー・オーケストラが凝ったアレンジを使うようになっても、このバンドはこういう音楽を守ってきたのだなあ。だって、これで十分なのだ。テイトのソロを中心にした躍動感あふれるリズムセクション、ソロをあおるホーンのリフ、ブルース感覚……これ以上なにもいらない。シンプル・イズ・ベストがカンサスシティジャズの特徴だろうと思う。そんななかからパーカーも登場したのだ。などなどと考えが多岐にわたって広がっていく。このアルバムも買ってから何べんも聴いたが、とにかくどの曲も聞きほれてしまう。13曲目のバラードなど、夢を見ているみたいな美しさだ。ライナーのメンバー表記がおかしい部分もあるが(カルテットの演奏となっているが実際はオケだったり、とか)、まあそんなことは気にしない。傑作!
「JUST FRIENDS」(MUSE RECORDS MCD5418)
THE TENORS OF BUDDY TATE,NAT SIMKINS,HOUSTON PERSON
ミューズのオールスターテナーバトル作品。ライナーのひとは、例のアーネット・コブ、バディ・テイト、クリーンヘッド・ヴィンソンの「ミューズ・オールスターズ・ライヴ・アット・サンディーズ」を引き合いに出しているが、本作はあれに比べるとかなり小粒である。三人のうちのナット・シムキンスという白人テナーのひとは(このアルバム録音時には)まだ若く、本作が初レコーディングだそうである。私はどちらかというとコンコードの、同じくバディ・テイトが参加しているテイト〜アル・コーン〜スコット・ハミルトンの3テナーのやつを連想した。3テナーではあるが、全体に「イントロデューシング・ナット・シムキンス」という雰囲気が強く、単独でフィーチュアされている曲があるのはこのひとだけだし、全員参加の曲でも、ここぞというところの役割を任されているような気がする。最近はかなりよれよれなところもあるヒューストン・パーソンもめちゃくちゃ元気で張り切った演奏を聞かせてくれる。テイトはさすがに絶頂期と比べると少し……という感じだが、それでも個性でしっかり聞かせてくれる。三人とも共通点はあるのだが、個性も際立っており、音色もテイトはラーセン、パーソンはロートン、シムキンスはリンクと全員ちがったマウピながら、いずれもいい音を聞かせてくれる。「ブロードウェイ」「エリントンメドレー(バラード)」「エイント・ミスビヘイブン」「ジャスト・フレンズ」「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス」……といった選曲もいいし、シムキンスが単独でフィーチュアされた「ルカヤ・ブルー」というオリジナルもすごくいい曲。3テナーでブロウしまくる、という感じではなく、三人とも歌心で勝負という雰囲気のスウィングアルバムでした。なお、本作に入っているベース(とヴォイス?)のメジャー・ホリーはこれがラスト・レコーディングだそうだが(8ヵ月後に死去)、そうとは思えない元気な演奏を聞かせてくれる。
「CRAZY RHITHM」(BLACK & BLUE/SOLID CDSOL−46033)
BUDDY TATE〜MILT BUCKNER
帯に書かれている「荒れ狂うテキサステナーを武器に暴れまくるバディ・テイト」という文章は日本語としてもよくわからないのだが、とにかくすごそう……ということは伝わったのでこれは聴かざるをえない。まあ、聴いてみて(予想通りではあったが)紳士テイトはまったく荒れ狂ってはおらず、ひたすらスムーズに歌いまくっている。荒れ狂うという表現は、たとえばコブとかジャケーのほうがふさわしいのではないか。荒れ狂っている、という言葉にふさわしいのはどちらかというとバックナーで、1曲目の冒頭のテイトがまだテーマを吹き出したところからすでに「ハンム、ハンム、ハンム……」といつもの掛け声ちゅうのか唸り声ちゅうのか……がはじまり、その曲どころかアルバム全体を通してひたすら声を出しながら弾きまくっている。正直、うるさいが、この掛け声(?)がうるさいときほどたしかにバックナーは絶好調なので、慣れるしかありません。自分のソロになると余計に「ハンム、ハンム……イエー、ゲヘー」がひどくなる。唯一これが出ないのはテイトが前半お休みで自分をフィーチュアした「クレイジー・リズム」だけ、という……。そして、後半の主役であるテイトのソロもすばらしく、どんどんノリノリになっていくと、バックナーが「いえーっ!」と叫ぶ。とにかくテイトもバックナーもめちゃくちゃ好調なのである。珍しく、バラードが入っていないアルバムで、だいたいおんなじようなミディアムテンポの曲ばかりだが、そんなことがまったく気にならない。ひたすらこのノリに身を任せているだけで極楽である。もちろん真剣に聞けばふたりともかなりすごいことをやっているのだが、そんな堅苦しいことを言わせないような雰囲気がある。テイトのスムーズなノリに比して、バックナーの四角いノリの対比が最高である。あまりきちんと決めていないラフなセッションだと思うが(ソロも1曲のあいだに2回あったりする)、そのほうがコテコテ感がより強調されているのかもしれない。とにかく楽しく、聴き所満載のアルバム。
「BUDDY TATE AND HIS CELEBRITY CLUB ORCHESTRA VOL2」(BLACK & BLUE CDSOL−46070)
BUDDY TATE
じつはバディ・テイトのセレブリティクラブオーケストラははるか以前に聴いたMPS盤がいまいちピンとこなかったのだが(今聴くとまたちがう印象になるかもしれない)、ブラック・アンド・ブルーから出た作品はめちゃくちゃよかった。本作はそのブラック・アンド・ブルーからの2作目で、前作からは14年も経っている。テイトはこのセレブリティクラブオーケストラを25年もやっていたらしく、なんとも長命なバンドだ。聴いてみると、これもものすごくいい。このころはこういうホテルとかクラブの専属バンドがたくさんあって、毎晩客を踊らせたり、楽しませたりしていたわけだ(本作でも1曲目は名バー全員で陽気に歌っていて、見事なエンターテインメントになっている)。その分、ツアーとかに出るのはむずかしいが、安定した収入があるというのは人間にとって非常に重要で、小説家なんかになってしまうとよくわかる。でも、テイトの場合はその25年のあいだにもいろいろツアーをしたり、大きなフェスに出たり、レコーディングをたくさん行ったりしているわけで、そういうときはおそらくだれかに代役を頼んでいたのだろう。昔はビッグバンドがその役を担っていたと思われるが、テイトの時代は3、4管に3、4リズムという編成で、しかもビッグバンド的なサウンドを狙うというリトルビッグバンド的なものが多かったように思う。それは主に金銭的な理由からだろうが、スタープレイヤー(この場合はテイト)がひとりいて、あとは堅実で手堅いメンバーで固める、という感じだろうか。アーネット・コブもイリノイ・ジャケーもあちこちにそういう作品を残している。しかし、本作はテイトのほかにも、ディッキー・ウェルズやスキップ・ホールが入っていたり、とメンバー的にもやや豪華である。スキップ・ホールはオルガンも弾いていて、けっこうエグかったりエキゾチックだったりして、いい味を出している。やはりテイトのブロウが全編において光っていて、聞き惚れる。テイトは豪快だが、歌心があり、繊細さもあって、しかも「音」がすばらしいのでたまらんのである。テキサス風味のドスの効いたブロウもたっぷり味わえる。どの曲もカンザスシティの香りとハーレムの香りとテキサスの香りが入り混じっていて楽しいが、なかでも5曲目の「ザ・ムーチ」はエリントンの演奏をもっとスロウにしたような、限界まで煮詰めたようなとろとろの手ごたえがあってすごい。テーマを聴いているだけでもかっこいい。アルト、バリトンのベン・リチャードソンがクラリネットに持ち替え、フリーキーなまでに過激なソロをする。上手いだけでなく相当個性的なソロイストだと思う。というわけで、大将テイトを中心に個性豊かな面々がそろった本作は傑作になりました。
「KANSAS CITY JOYS」(SONET PRODUCTIONS SNTF716)
BUDDY TATE PAUL QUINICHETTE JAY MCSHANN
76年のスタジオ録音。クロード・ウィリアムスがヴァイオリンで参加している。往年のカンザスシティジャズの雰囲気を再現しようという試みである。まだギリギリ残っていた、本物のカンザスシティジャズの一部をとらえた録音だと思う。ジェイ・マクシャンはバリバリの現役感で炸裂するピアノはすごい。貫禄と余裕を見せつけるバディ・テイトはもちろんすばらしい。ベイシーバンドにおけるフレディ・グリーンの前任者でもあるクロード・ウィリアムスがいい味を出している。バイスプレスであるポール・クイニシェットはやはり斬新なアイデアと大胆さのひとであったレスター・ヤングと比べるのはなかなかむずかしく(音色と、すわっとしたノリは似ているのだが……)、このひとなりの味わいを聴くべきなのだろうとは思うが、たしかに全盛期のカンザスシティジャズの雰囲気は伝わってくる(B−2の「ティックル・トゥ」でふたりのバトル(?)が聴ける)。それにしてもこれほどパッと聴いてすぐにだれだかわかるふたりのテナーの組み合わせ……というのも珍しい。ぜったい聞き間違えない。ふたりのテナーを聴くべき作品、かと思ったら、マクシャンのピアノとウィリアムズのフィドルを聴くべき作品だった……という感じかも。でも、楽しいです。マクシャンのボーカルも聴けます。なお、だれがリーダーなのかよくわからないセッションなので、先に名前の出ているテイトの項に入れた。
「MIDNIGHT SLOWS VOL.1」(BLACK AND BLUE/SOLID CDSOL−45900S)
BUDDY TATE〜MILT BUCKNER
最高な音楽が詰まったアルバム。とくにテナー奏者にとっては、よだれが垂れまくるすばらしい演奏ばかり。2枚組で出てるやつとの関係はどうなんや……と昔からよくわからないが(ブラック・アンド・ブルーは音源をバラバラにして再編集・切り売りしている感じ)、とにかく本作はバディ・テイト〜ミルト・バックナーのトリオの録音から、テナーがサブトーンで嫋々と吹く感じのエロい演奏を集め、エロいジャケットで発売したというものなのだろうか。こうしてブラック・アンド・ブルーの日本盤が出たオマケとして帯のしたのところを何枚か切り取って送り、やっと入手できたのだが、結局よくわからん。しかし、内容は絶品で、2曲目に入っている「フェン・アイム・ブルー」という演奏はこれまでいろんなコンピレーションで聴いたが、バディ・テイト生涯の名演と言ってもいいんじゃないんじゃない? という感じである(もしかしてバックナーにとっても?)。ほかの曲も完璧に近い演奏ばかりで、とくにテナーのサブトーンに関してはまたとない教科書である。もちろんサブトーンをいかすフレージングや歌い上げの妙技、そしてバッキングも最高であることは言うまでもない。ただのバラード集やないで! と思う。いや、ただのバラード集として最高、というべきなのかもしれない。テーマのメロを吹くだけでここまでひとを感動させられる……ということは、2020年代の今も続いているのだ。ジャズというかこういったジャズテナーの奏法は完全に古典になったなあ、と思うし、そこにまた新しいものが注ぎ込まれる付け目(?)があるのだ。ジャケットを見て躊躇せず聴いてみてください。
「MIDNIGHT SLOWS VOL.2」(BLACK AND BLUE BAB−202)
WILD BILL DAVIS〜BUDDY TATE
第二弾はバディ・テイトに配するにワイルド・ビル・デイヴィスという布陣で、ギターにフロイド・スミス、ドラムにクリス・コロンボとコテコテ度も上がっている。バディのサブトーンでのすばらしい歌い上げ、ワイルド・ビルのゴージャスなハーモニー、スミスの名人芸……というわけで、ひたすら聞き惚れる。それにしてもバディ・テイトのサブトーンは、コブやジャケーとちがって職人技的な凄みを感じる。いわゆるムードテナーの元祖といっていいと思う。ブラック・アンド・ブルーが目をつけたのもわかります。これって商売になったのかな……。バラードばっかりやんけ! というひとは、そこで一旦ストップボタンを押して、翌日の晩、また続きを聞くのです。「メモリーズ・オブ・ユー」なんかもう絶妙すぎて、ああ、よだれが……というすばらしさだが、これは同じメンバーの「ブロードウェイ」に入ってるやつとは別のテイク。テナーサックスにおけるバラード演奏のひとつの完成形といっていいような演奏ばかりで、この強靭なスタイルを打ち破るのはなかなかたいへんなことだっただろうな……とジャズバラード史について思ったりして。深夜に酒でも飲みながら聴くと泣けてきます。ああ、なるほど、だから「ミッドナイト・スロー」なのか。コルトレーンやゲッツのバラードもすばらしいけど、やはりこういうオーソドックスなテナーのバラードは格別である。バディ・テイトはその最高峰だと言えるでしょう。ワイルド・ビルの名前が先に出ているが第一集とあわせるためにテイトの項に入れた。
「THE COUNT BASIE ALUMNI」(NIGHT TRAIN INTERNATIONAL NTICD7029)
BUDDY TATE VIC DICKENSON LUCKY THOMPSON
カウント・ベイシーがらみのスウィング系のコンピレーションで、4つのセッション、計20曲が収録されている。4つのセッションのリーダーは、バディ・テイト、ヴィック・ディッケンソン、ラッキー・トンプソン、そしてマーシャル・ロイヤルとマックスウェル・デイヴィスである。ラッキー・トンプソンのものを除けば、ほとんどが未発表という貴重な音源。全体に音もいい。シュープリーム、ダウン・ビート、スウィング・タイムといったレーベルに残されたものである。バディ・テイトのものは8人編成と豪華で、1947年というテイトにしてもかなり初期のキャリアによる演奏。メンバーはエメット・ベイリーやCQプライス、ビル・ドゲット、チコ・ハミルトン……などかなり豪華で、これがテイトのリーダー作としてははじめてのものらしいが堂々たるリーダーぶりである。内容も充実していて、カンサスシティジャズの伝統を再現、というより、ゆったりとしたノリやここぞというときには激しくジャンプする演奏はカンサスシティジャズそのものだと思う。テイトのテナーのブロウは演奏を引っ張りまくる凄みがあり、完全にスタイルを作り上げていて感動である。ヴィック・ディッケンソンのセッションはメンバーがまったくわからないようだが、本人の軽やかに歌いまくるトロンボーンはもちろんのこと、ヴォーカル(本人の可能性も?)も含めて名手がそろっているようなので、おそらく皆それなりに有名なひとたちだろうと思う。とくにテナーはめちゃくちゃ上手いのでかなりのすごいひとの可能性もあるか? ラッキー・トンプソンのセッションはワンホーンでドド・マーマローサをフィーチュアした曲が多い。ベースはレッド・カレンダーである。このテナーの茫洋とした感じは、スウィングでもバップでもなく、まさに「中間派」(いやな言葉だが)という雰囲気である。コールマン・ホーキンス的なラプソディックなフレージングが目につく。ポール・ゴンザルベスなどとも共通するのかもしれないが、このくねくねしたノリの演奏は一度好きになったらやみつきになる。エリック・ディクソンなどもその系譜かもなあ。16曲目は「スムース・セイリング」となっているがアーネット・コブの有名な曲とは別の曲である。マーシャル・ロイヤル〜マックスウェル・デイヴィスの4曲はロイヤルのジョニー・ホッジス的な最高のアルトプレイだけでなく、デイヴィスの歌いまくるスウィングテナーもたっぷり味わえる。とくに2曲目はロイヤルの若き日のきらびやかなスウィングアルトの名人芸が存分に聴けて貴重だと思う。ベイシー黄金期のサックスセクションを支えたこのひとならではの演奏である。先に名前の挙がっているバディ・テイトの項に入れた。