「WITH LOVE FROM A PLANET」(FULLDESIGN RECORDS FDR−1012)
THE SPACE BAA
日本の誇るトランペッター辰巳光英がリーダーのバンド。強烈なビートのグルーヴをベースにして、エレクトリックトランペットが吹きまくられるという、ただひたすら心地よく、かっこよく、楽しい音楽。基本的には全部即興らしい。不破大輔のエレベもかっちょええ! ツインドラムとパーカッションという兇悪なリズムもかっちょええ! しかし、いちばん「かっちょええ!」のは辰巳のトランペットの天を抜けてそのうえの静止軌道上まで届くかと思えるトランペットの轟きだ。こういうサウンドはマイルスを連想せずにはおれないが、マイルスのぐにゃぐにゃ、ぐずぐずしたひっかかりのあるトランペット(もちろん、そこがいいのだが)に比べて、辰巳のトランペットは遥かに真っ直ぐで、高音も高らかに鳴り響き、とにかくめちゃめちゃ気持ちいい。ジャズ〜フリージャズ的なセッティングでは、フレーズの多彩さに驚くような、ハードバップに根ざした歌心あふれる演奏もする辰巳が、ここではバシッと割り切った「ラッパ+グルーヴ=これ!」という感じでブロウしまくっているのがなんとも爽快。しかも、このひとのエレクトリックトランペットは、トランペット的なだけでなく、ときにはサックス的であり、バスクラリネット的であり、ストリングス的であり、リズム楽器的であり、ボーカル的である。こんな風になんでもできて、しかも自分の個性をはっきり持っていて、それを押し進めているトランペット奏者は世界的にも稀だと思う(テルミンも凄いしね)。とにかくこのアルバムは、なーんも考えずにただそのかっこよさに「ひーっ」となっておればよい。サン・ラとマイルスを左右に従えたスペーストランペット辰巳光英! これはスペクトラムよりもスタイリッシュだ。
「ザ・サンフランシスコ」(MOYA RECORDS MOYA0001)
ザ・サンフランシスコ
辰巳光英と吉森信によるユニット。なんでサンフランシスコなのかわからんけど、超おもしろい。これってものすごく話題になったりしたのだろうか。こんなおもしろいものは絶対見逃したらダメですよ。シンセやエレクトリックトランペットなどによるスペーシーなサウンドと、生ピ、生ラッパによるアコースティックなサウンドがコラージュのように混ぜ合わされて、そこにさまざまな音楽の要素がぶちこまれて、聴いていると頭がぐちゃぐちゃになる。しかし、グルーヴや叙情、歌心などがそのなかにしっかり入っているので、その場その場はちゃんと楽しいようにできている。なにがなんだかわからないけど、なにがなんだかわからなくてもいいのだ。楽しいし面白いのだから。そういう聴き方をする以外にないでしょう。曲はどれもよくて、バラエティにとんでいる。ジャズっぽいもの、ロック的なものはもちろん、どこかの民謡みたいなもの、民族音楽的なもの、エキゾチックなもの、ユーモアあふれるもの、フリーなものなど、バラバラといえばバラバラだが、リコーダーの二重奏のかわいらしいサウンドのイントロからファンキーでテクノなベースラインが鳴り響いたり、竹で作ったパーカッション(あくまで想像です)がじゃらじゃらと東南アジア的なリズムを刻むうえをマイルス・デイヴィスのパロディのような渋すぎるトランペットが歌をつむいでいたり……面白すぎる! なるほど、このコンセプトをバンド的に発展させると「ザ・スペース・バー」になるのか、と思ったが、グルーヴ優先の「スペース・バー」に比べると内向的なこのユニットにはべつの味わいがある。私はどちらも好きですが、より病的なこのユニットの音楽はかなり好みでありまして、スペースバーのほうはスピーカーで大音量で聴くと爽快だし、こちらはヘッドホンで大音量で聴くとしびれると思いましたです。なんというか、(想像ですが)狭いスタジオでの作業をしていると、四方の壁と天井と床が突然ワームホールかなにかで宇宙とつながって、いきなり銀河のまっただなかに放り出される……そんな矮小→超大な転換を感じるというか……あ、うまく言えてませんね。とにかくミニマム感の中に大宇宙があるような、そう、「フェッセンデンの宇宙」みたいな気分を味わいながら聴いたのだ。これはいい。
「SPACED OUT」(FULLDESIGN RECORDS FDR−1032)
SPACE BAA
一枚目がめちゃくちゃかっこよかったスペース・バーの2枚目。ジャケットのひび割れた地面はジャミラへのオマージュらしい(気が付かなかったが、1枚目もジャミラへのオマージュだったのだ。なにしろタイトルが「WITH LOVE FOR PLANET」だ。辰巳さんに教えてもらってはじめてわかりました)。内ジャケットは馬の首暗黒星雲の写真と、それと良く似た「ツタ」の写真。演奏内容は、正直、宇宙とは関係ないといえば関係ないが、関係ある! と思って聴くと面白さ倍増。私はテナーサックスが入っていない音楽はあまりすすんでは聞かないのだが、辰巳さんは別。なにしろ日本で一番すごいトランぺッター(と私が勝手に思っているひと)なのだ。この3人のコラボレーションはめちゃくちゃすごくて、ビートのはっきりしたロック的な音楽なのにものすごく自由に聞こえる。たぶんコンポジションの部分と、即興の部分と、即興のなかででてきたリフみたいなインスタントコンポジション的な部分があると思うのだが、それの境目がわからないほどに溶け合っていて、なーんも考えんで没入できる。このあとだれかが無茶して予定(?)から外れたとしてもまったくOKだもんね、わしらなんぼでもその場で作っていけるもんね、という自信がみなぎっているのでどんどん変にできる。しかも、全体的な音楽の印象はとてもスペーシーでステディで痛快でスカーッとしたものなのだ。このひとのドラムはいつもすばらしいが、ベースの不破さんはよく聴くと、こういう音楽にもかかわらず、ちょっともたったり早かったりするが、それが実にいい感じに聞こえる。つまり、人間が弾いてるということだし、それがグルーヴにつながっている。そして、辰巳さんのトランペットとテルミンはほんといきいきとしていて、聞き惚れる。それ以外にいろんな音がするのは、iphoneのアプリでいろいろ遊んでいるのだと思うが、それがまたかなり大きなウェイトを占めているのもさすが。で、最後にはちょっと仕掛けもあります。CDのレーベル面の羊が宇宙遊泳をしているイラストもええ感じ。
「DRAW SPACE FOLDS」(FULLDESIGN RECORDS FDR−2032)
辰巳小五郎×藤掛正隆
1曲目を聞くと、トランペットとドラムのデュオ……のはずなんだが、最初のうちそういった音はあまり聞こえてこず、ライヴエレクトロニクスやノイズ、ドローンのような低音、テルミン的な歪んだ音、シンセのようにきゅんきゅんした音、エレベのような音、お経のようなヴォイス……とにかく魅力的で謎めいた音たちが空間をじっくりゆっくり塗りつぶしていく。こういうことを書くと、タイトルに引っ張られてるな、と思うかもしれないが実際にそうなのだから仕方がない。そんなさまざまな音のコラージュなのだが、そういうなかにときおり混じるリアルなドラムやトランペットの音が逆に「異音」に感じてしまうほどだ。普通の即興のように聴ける場面もあるし、インタープレイを拒否しているのか? と思うような好き勝手なところもあり、また、嫌らしいほど寄り添っているところもあったりして、とにかくめちゃくちゃ楽しい。買った当初は毎日何度もリピートして聴いていた。今日久し振りに聴いたが、やっぱりものすごく楽しい。こういう音って、こちらの想像力をいろいろ刺激してくれるのだが、その距離感というかチクチク度合は聞く音量やらなにやらによってまちまちなので、フリージャズのように真剣に向き合っても聴けるが、仕事をしながら聴くとかっこいいグルーヴだけが聞き取れたりしてそれもまた面白かったりする。2曲目はスペーシーなトランペットが荘厳な緊張感のある空間を作り出し、そこにさまざまな異物が混入していく。こういうのは「何でもあり」だと思って聴いていると、ふたりの音楽家のいろんなアイデアややりとりの道筋が見えてきて楽しい。3曲目はやけに真っ当なドラムのビートからはじまり、ほぼアコースティックなトランペットがそこに斬り込んでいくというめちゃくちゃストレートなフリージャズ。そういうのもある。4曲目は弦を弾くような、固い泡が弾けるような音色のはミニマルな感じのリズムがずーっと続いていて、そこに幻想的かつアコーテスィックなトランペットがソロをしている……という図式が次第にドラムが入ってくることでスピード感が増していく。最後に、なんだかよくわからないがカンダタが蜘蛛の糸が切れて延々と墜ちていくような(変な表現ですまん)ヴォイスが突然現れる。なんだこりゃーっ。でも、かっこいい。5曲目も面白いんですよー。はじめのうちはループマシンなのか、高音でずーっとおんなじフレーズが繰り返され、そこにトランペットやらドラムやらさまざまな電子音やらがシンプルに付け加わっていったり、離れていったりする。つぎはどうなるのか、わくわく……みたいな感じではなく、ただただ音と音の関係が自然で、素直にずっと聴いていられる。ひとつひとつの音が俳優のように、時折現れては自己紹介し、共演者とからみ、出番が終わると自分の位置に戻っていくような……そんな情景が思い浮かぶ。最後のほうは低音が強調されて急に場面がかわり、大物俳優が登場してきたような雰囲気になるが、その人物もまた芝居のなかに溶け込んでいくのだ。ラストの6曲目はテルミンが幽玄な世界を作り出し、そこにさまざまな音色のさまざまなフレーズが乗っかっていく。おもちゃ箱をぶちまけたようにはなっていなくて、ひとつひとつの音色、フレーズ、リズムはきちんと整理され、オーケストレイションされているように聞こえる(もちろん即興的に、だが)。見事な「間」の感覚と、音の重なり具合の心地よさが一期一会の、脆くはあるがよくコントロールされた楼閣を生み出している。音楽ははかなく、また、強固である。傑作。最後の最後に「幕を閉める」感じの部分があるので聞き逃さないように。
(別のところに書いたレビューも掲載しときます)
ひたすら興奮した。凄すぎる。辰巳さんのエレクトロニクスやテルミンなどを駆使した即興にはいつも驚かされるのだが、この演奏が基本的にはトランペットとドラムのデュオ……たったふたりの演奏である、ということを考えると「絶対そう聞こえねー!」と思う。ぜったいギターとかエレベとかシンセとか各種パーカッションとかそういうものがメインだと思うだろう。しかし、このふたりは自分の主奏楽器であるトランペットやドラムを演奏しながら軽々とそれ以外のエレクトロニクスや打楽器などを操る。それぞれの主奏楽器についてはどちらもめちゃくちゃ卓越しているのだが、それ以外の楽器についても同じような真剣さで挑んでいる。この即興は、明らかにジャズやロックなどがベースになっているが、そこに民族音楽やら現代音楽やらなんだかよくわからない鼻歌やかわらべ歌とか……何だかわけのわからないものがドバーッとぶち込まれていて、ひたすらすげーっとなる(あまりに語彙が幼稚ですいません)。1曲目などは声明とかお経とか(ヴォイスは森川誠一郎さん)がじりじりしたノイズや重苦しいテルミンとともに奏でられる劇的な場面からはじまり、暗くて混沌とした心地の良いゾーンを過ぎ、数々の物語を経て、ついにはドラムの8ビートをバックにベースが入り、おそらくテルミンがエレキギター的な演奏をひたすら続ける……というあたりはどうなっているのかしらんけど、超かっこいい。とにかく場面場面がつぎつぎと紙芝居をめくるように変化していくところのわくわく感よ! 内橋さんの即興にも感じることだが、全体の構成力と個々の瞬発力と展開をガラリと変える大胆な思いきりがこういった演奏の鍵のような気がする。そして、「行けーっ!」というときの思い切って「行く」感じ。2曲目のエレクトリック・トランペットが幽玄な世界を描く演奏は、はっきりと「ビッチェズ・ブリュー」でマイルスが示したあの世界観の延長上にあるものだと思う。あのときマイルスがパパパパ……と吹いた音をテオ・マセロがテープ操作で作り上げた「あれ」が、ここに夢幻(ゆめまぼろし)のような形で結実している。微妙な音圧の加減も、それにまとわりつくきゅいんきゅいんしたシンセ的な音やサンプラー的なカラフルな音の数々も、とにかく「ぴったり」なのだ。なぜぴったりなのかというと、それは「即興だから」だろう。かっこいい。その言葉しかないやろ。3曲目のけっこうガチの生音でのぶつかり合いなども手に汗握る。しかし、ビートと生トランペットのデュオではない。加工されたヴォイスがガチンコデュオを包み込み、捻じ曲げ、ぶん投げる。4曲目はベーシックなパターンに乗って、トランペットが吹きまくるのだが、同じパターンと思っていると、次第次第に演奏は微妙に熱を帯びていき、爆発寸前のどろどろしたマグマのような状態が延々続いたあと、ヴォーカルが突然前衛オペラかミュージカルの主役のよう現れて狂乱する。5曲目は荘厳な雰囲気のエレクトリックサウンドのなかで、サンプリングの繰り返しの音がなぜか「ミッキプルーン、ミッキプルーン……」と聞こえるのは私だけだろうか(だろうな)。その他さまざまな音、メロディ、ハーモニー、フレーズ、ノイズ……などがシンプルなリズムのうえにがらがっちゃんとぶちまけられていて、ひたすらそれを楽しめばよい、という演奏。しかし、それらが次第に収束されていき支流が大河になるように巨大な奔流となる。ラスト6曲目はシンセ的なきゅんきゅんいう音が宇宙的(というのもあまりにざっくりしているが、サン・ラ的というか……)な電子音の洪水のなか、ドラムが現れ、トランペットとともにつぎのステージを指し示す。「2001年宇宙の旅」の内容を現したような演奏に聞こえる(あの映画のBGMという意味ではないです)。目のまえに木星付近の巨大なモノリスが回転しているような……そんな時空を超えた壮大ななにかが体感できる演奏であります。ラストに拍手が入るので、「ああ……ライヴだったのだ」と思う。傑作。