art tatum

「THE TATUM GROUP MASTERPIECES」(PABLO RECORDS 2310−737)
ART TATUM/BEN WEBSTER

 すごいよなあ……という言葉しか出てこない。アート・テイタムはめまぐるしいテクニックで、短い小節内に無数(としか思えない)の音をちりばめていくが、それがたとえばチャーリー・パーカーのように「音をぎゅーっと詰め込んだ」ようには聴こえず、ものすごく自然だし、いい意味で「テンションがあがらない」のだ。そして、なによりすごいのは、それだけめまぐるしく弾きまくられているのに、相棒のベン・ウェブスターは、悠揚迫らぬサブトーンでずずずずーっとゆったりとしたスローテンポを崩さないところで、この対照の妙が最高の聞きどころである。ほんと、ベン・ウエブスターの音は、聴いていてぞぞぞっと毛が逆立つほどすごいのである。アップテンポの曲では白目を剥いてブローし、音もずっとダーティートーンのままで、フレーズもワンパターン……という大味な演奏も多いベンだが(そういうのも私は大好きなのですが)、この盤では徹頭徹尾スロー〜ミディアムの曲しかとりあげず、その結果、彼のいちばんいいところがでている。曲も、ぎれがどう、というより、全体でひとつのバラードメドレーというか、そんな感じ。テナーでメロディーはこう吹くべしというお手本のような演奏ばかりで、ここまで完璧にやられたら、次代のテナー奏者、たとえばコルトレーンなんかが別の道を模索せざるをえなかったのはよくわかる。だって、とにかくすごすぎるのだ。このふたりのぶつかりあいは、表面はあまりに静かなのに、地下深くでマグマとマグマがぶつかっているようで、おそろしいほどのエネルギーを感じる。もし、こんな風に吹けたら死んでもいい、と私に思わしめた、ベン・ウエブスターの(そしてアート・テイタム)の大傑作であり、ジャズという音楽が生み出した空前絶後の宝物である。