sam taylor

「SWINGSATION」(VERVE RECORDS 314 547 877−2)
SAM”THE MAN”TAYLOR

 サム・テイラーは「ハーレム・ノクターンのひと」でも「ムード歌謡のひと」でもなく、「こういうひと」なのだ! ということが如実にわかるアルバム。正直、「ハーレム・ノクターンのひと」であるサム・テイラーも「ムード歌謡のひと」であるサム・テイラーも「有線演歌ベスト15のひと」であるサム・テイラーも大好きなのだが、こういう演奏をまえにしてはすべては薄れてしまう。圧倒的ですばらしい演奏ばかりで、とにかくめちゃくちゃ上手い。上手い、というのは情念とか気合いがなくテクニックだけで演奏しているという意味ではまったくなく、本当に心から賞賛すべき「上手さ」であり、上手さが音楽性に奉仕している幸せな状態だと思う。聴けば聴くほど痛快な演奏ばかりで、聴くといつもあまりのかっこよさに身をよじることになるのだ。テイラーはリズムというかノリもよくて、たっぷりの「間」をいかしたバックビートのソロを聴くと、ああ、こういうのができるからムード歌謡みたいなのもヒットしたんだなあと思う。楽器コントロールが完璧なのである。録音もよくて、サム・テイラーの音色のすごさも十分味わえる。1曲目だけはサム・テイラーのリーダーセッションではなく「クラウド・クロード・アンド・ヒズ・サンダークラップス」というわけのわからんバンドによる演奏だが、テイラーがこのバンドに残した吹き込みが4曲あるので(そのうち2曲は本作収録)、それはまたべつにレビューします。その1曲目だが、アップテンポでのテイラーの凄まじいホンクがフィーチュアされ、言葉が出ないほどのかっこよさ。この曲はかなりの評価を得たらしい。2曲目以降はサム・テイラーの楽団による演奏で「ミュージック・イズ・ザ・ビッグ・ビート」というLPにまとめられていたもの。トランペット、トロンボーン、バリトンサックス(ハリウッド・ヘンリー)を加えたリトルビッグバンドでの演奏で、このころ流行していたスタイルである。2曲目のソロのすばらしさは筆舌に尽くしがたい。「ブロウ・サックス!」という掛け声と同時にフラジオでギャオーッと叫ぶあたりは涙。3曲目はアラン・フィードというひとが「シャウティング」とクレジットされているがまさにそのとおりで、ずっと叫びながら煽っている。テイラーのソロも壮絶極まりないホンキングも含めて大炸裂。4曲目はアップテンポのブルースでテイラーのホンクとバックバンドの掛け合いがフィーチュアされる。曲名は「オー・ウィー」なのだが、途中、テイラーのソロで「ウィー(アレンズ・アレイ)」が引用されるのは偶然か? 5曲目はミディアムテンポのこってりした曲で、アラン・フリードが「ブロウ、ブロウ、ブロウ、ブロウ」とうるさいが、テイラーはそれに応えてコテコテのブロウを展開している。6曲目は「フライング・ホーム」的な、これまたバックの掛け声がやかましい曲だが、テイラーはさすがのブロウでめちゃくちゃ盛り上げまくる。いやー、「北国の春」とかやってるひととは別人としか言いようがない。7曲目はスローブルースだが、ブレイクでのあざとい展開はさすがである。なかなかできませんよ、これは。8曲目はアップテンポのブルースだが、テイラーがその技のすべてを開陳する感じのすごい演奏。とんでもないクオリティのソロで、あきれてものが言えません。9曲目も、なんというかこの「なめらかだがめちゃ迫力のあるホンキング」は頭を下げるしかない。10曲目は全員デ「ライド・サミー・ライド!」と歌うジャンプな曲。サム・テイラーのソロもめちゃくちゃハイクオリティなもの。11曲目はスローテンポのコテコテの曲で、ブルースのようでブルースでないが、ソロに入るとなぜかブルースになる。テイラーのテナーも完璧。12曲目はアル・シアーズの曲で、3連のかっちょいいリズムにテイラーのブロウにつぐブロウが聴きもの。13曲目は1曲目と同じクラウド・クロード・バンドの演奏らしい。テイラーの派手なホンクは、じつはしっかりしたリズムとテクニックに裏付けられている。ラストの14曲目はゴージャスなビッグバンド的アレンジに支えられ、快調にブロウする。このあたりの吹き込みはたぶんごちゃごちゃしているのだろうが、とりあえず本作やジャスミン盤などを聴いてみることをおすすめします。腰抜かすで。

「MUSIC WITH THE BIG BEAT/BLUE MIST」(JASMINE RECORDS JASMCD 3104)
SAM ’THE MAN’ TAYLOR

 サム・テイラーのR&B時代の演奏をまとめたアルバムだが、MGM時代の「MUSIC WITH THE BIG BEAT」と「BLUE MIST」という2枚のアルバムを収録したうえで、クロード・クラウド・アンド・ヒズ・サンダークラップスというグループでの4曲(「クラウドバースト」と「ハイ・ウインズ」はとにかく圧倒的な演奏!)をおまけで収めた全28曲のお得盤。「MUSIC WITH THE BIG BEAT」のほうは上記「SWINGSATION」で触れたので繰り返さないが、上記に入ってないクロード・クラウド・グループの残り2曲目もめちゃくちゃ凄いので絶対お聞き逃しのないように。というわけで、今回は17曲目以降の「BLUE MIST」について書くが、これは要するにムードミュージック集であって、「ビッグ・ビート」で人気が出たサム・テイラーをよりいっそう押し出そうというメジャーレーベルの意向が反映されたアルバムだ。1曲目が「ハーレム・ノクターン」で、このときのサム・テイラーは後年のふわっと流すような演奏というより、テーマを吹いているだけとはいえ、かなりR&B色が強く、ガッツのある吹き方をしていてすごい。引き合いに出してすまんが、かのビッグ・ジェイ・マクニーリーのカムバック作である「フロム・ハーレム・トゥ・カムデン」一曲目の大ブロウを思わせるような凄みのある「ハーレム・ノクターン」で、後年のムードミュージック曲集での演奏とは全然違うので、そう思っているひとにはぜひ聴いてもらいたい。2曲目以降はサブトーンを駆使したバラード&スタンダードばかりでかためられていて、つまり、「ビッグ・ビート」での成功をより強固なものにしようとしたMGMの戦略により、「よりイージーリスニングなサックスインスト集を」ということになったらしい。そして、その戦略は見事に当たったわけだが、このころのテイラーはテーマはサブトーンで吹いても、そのあとはフルトーンで朗々と吹き上げたり、グロウルをかましたり、ホンク的な吹き方をしたり……という具合にメリハリをつけているし、随所に小技を聴かせていて、私のようにホンカーとしてのテイラーを聴きたいというリスナーでもちゃんと聴ける。そして感動する。やはりこのひとは、めちゃくちゃ上手いのである。でも、本作あたりからテイラーの進む道が変わっていったのはたしかだろう。それはホンカー好きとしてはやはり残念なことで、いつまでも「ビッグ・ビート」のようなとんでもないホンカーキングぶりを聴かせ続けてほしかった。しかし、さっきも書いたけど本作でのサム・テイラーのブロウは圧倒的で、ゴージャスなコーラスとかオルガンが入っている曲もあるが、ファンならぜったい聞いたほうがいいですよ。どの曲も、有線とかでかかっていたら、仕事の手をとめて「え? これだれや?」となること間違いなしの名演ばかりなのだ。とにかくお得盤で名演、激演、快演ぞろい。すばらしい音楽的財産であります。先日、ネットであるひとがキング・カーティスについて紹介する文章で、キング・カーティスは「アメリカのサム・テイラーだ」と書いていて驚いた。サム・テイラーもアメリカじゃん。ちょっと嫌でした。