makoto terashita

「TOPOLOGY」(AKETA’S DISK/OCTAVE−LAB/ULTRA−VIBE OTLCD2408)
MAKOTO TERASHITA MEETS HAROLD LAND

 実は、発売当時、まったく興味の範疇ではなかったので、某ジャズ喫茶で一回だけ聴いて、結局買わなかった。というのは、ハロルド・ランドに興味がなかったのだ。というか、「この頃のハロルド・ランド」に興味がなかった。なぜか生で2回、観る機会に恵まれたのだが、以前とはすっかりスタイルが変わっていて、モードジャズ的な演奏をするようになったランドの演奏は、ブラウン〜ローチ時代の幻想を追い求める若造(高校生)にはキツすぎた。しかも、吹きながらずっと目をぱちぱちさせるのが気になってしかたなく、演奏があんまり入ってこなかった、というのもある。というわけで今回の再発を機に購入し、はじめてといっていいぐらいじっくり聴いてみたのだが……なんじゃこれ! めちゃくちゃいい! 良すぎて腰が抜けそうになった。こんな凄い演奏が届かなかったというのは、私の馬鹿耳のせいですね。反省。主役である寺下誠のピアノが力強く、いきいきとしているのはもちろん、ハロルド・ランドもめちゃくちゃいい感じで音楽的に溶け合っている。ちょっとビリー・ハーパーを彷彿とするような演奏で、モードジャズ的なものをきっちり消化しているのがわかる。ランドはずーっとラーセンのメタルで、たぶんここでもそうだと思うのだが、ちょっとざらついた音色で、あまり派手にゴリゴリ吹く感じはなく、やや軽く歌う。押し付けがましくないその「ちょっと引いた感じ」は、ハードバップのころの歌い上げも、この時期も変わりはない。たぶん「そういうひと」なのだろう。骨太でうねるような米木康志のベースもすばらしい。4曲目の「タケウマ」という曲など、完全に日本のわらべ歌みたいな曲なのだが、これをハロルド・ランドというひとに演らせたというだけで寺下誠というひとはすごいと思う。そして、本作中の白眉が5曲目で、寺下誠の魅力が爆発する70年代的なモードジャズ。ハロルド・ランドもリーダーの音楽的要望に応えている。ラストのブルースは、唐突、といってもいいぐらい、古いハードバップに戻った感じの演奏だが、めちゃくちゃかっこいい。でも、よく聴くとモードジャズを通過した新しさが注ぎ込まれており、ランドの凄まじいテナーソロ、ドラムを先導するような寺下の圧倒的なピアノソロなど聴き所満載である。後半のテナー、ピアノとドラム、パーカッションの8バースの迫力は全員ド迫力。とくにランドはブラウン〜ローチのころを彷彿とさせるような演奏。これもすべてリーダーである寺下誠の「力」だと思う。傑作。